第6話『囁く羽根と王の使者』 (前編)
深夜。
加奈たちが布団にくるまって夢の中へ落ちていく中――
それは、静かに浮き上がっていた。
「……う、ん……?」
ぼんやりと目を開けた梨花の視界に、光る何かがふわふわと浮かんでいるのが映る。
それは、前日の戦闘で手に入れた“転送の羽”だった。
羽は、ふわり、ふわりと漂いながら、かすかに震えていた。
次の瞬間。
「……パセリ……命令……転送……王の……回収……」
「………………」
梨花は、無言で枕をもう一度かぶった。
翌朝。
梨花が布団の中でポツリと呟いた。
「羽根、しゃべった」
「……は?」
加奈と美穂が二度寝に突入しかけていた脳で同時に言う。
「夜中に起きたら、転送の羽が勝手に浮いてて、なんか喋ってた。『パセリ…王の命…』とか」
「え、それICレコーダー?」
「音声メモ? 妖精って電子技術持ってんの?」
「いや、たぶん魔法の記録装置。感覚的には“念話的なアーカイブ式ボイス機能”って感じ」
「いや何それどっから仕入れた中二ワード……」
「ていうかパセリの遺言とかだったら私どうしたらいい!? 謝る? 謝れば許される!? ていうかそもそも私、パセリの顔見てないし!!」
加奈がパニック気味に叫ぶ中、またしても――
部屋が揺れた。
バンッ!!
突然、天井が**ゴゴゴッ……**と音を立てて震え、部屋全体がぴしりと緊張感に包まれる。
「え、何!? 地震? 妖精地震!?」
その直後、天井の中央から、何かが降りてきた。
いや、“誰か”だった。
それは――銀色の鎧をまとい、身長30cm超の異様な存在。
普通の妖精が“手のひらサイズ”なのに対し、明らかに一回り以上大きい。
背には六枚の羽があり、空中で静止しているその姿は、どこか神聖ささえ漂わせていた。
「我は、王の副官――命を伝えに来た」
「ちょっと待って、あれ、完全にボスの手前の中ボス感じゃない!? 絶対強いやつでしょあれ!!」
「騒ぐな加奈、あれたぶん話し合いしに来てるだけだから……たぶん」
副官は冷ややかな目で三人を見下ろしながら、低い声で言い放った。
「“転送の羽”を返還せよ。これは、妖精王セリフェリオス九世陛下の御命令である」
「セ、セリフェ……え、なに九世!? 王様って代替わりしてるの!? ガチ国家!? 」
梨花:「うん、これ完全に“外交案件”だね……」