第5話『バトル・オブ・ベランダ』 (後編)
戦闘終了から数分後。
三人はベランダにしゃがみ込んで、しばし放心していた。
「……干してたTシャツ、灰になった……」
「靴下、ゴムの部分だけ残ってるの笑えない……」
「ていうかこの煙、近所から通報されない?」
しみじみと焦げ跡を見つめる加奈たちの前に、ふわりと漂う何かがあった。
それは、小さな――羽根だった。
「……鳥の羽じゃないよね?」
「いや、これ……光ってる」
梨花がそっと手を伸ばして、それを掴む。
白金色にきらめくそれは、まるで空気の中に溶け込むような、奇妙な質感をしていた。
「これは……転送に使ってた“魔法の素子”じゃない?」
美穂が語るその口調は、なぜか異様に自信に満ちていた。
「“転送の羽”。この世界と妖精の領域をつなぐ鍵……だとしたら、かなりの重要アイテムよ」
「美穂、なんでそんなRPGの鑑定士みたいな口調できるの……?」
「中二病は情報に敏感なの」
加奈と梨花が静かに引き気味になっていると、美穂は羽根を小さなチャック付きの袋に大切に収めた。
「これは保管しておきましょう。下手に捨てるとまたポータル開いちゃうから」
「“ポータル”とか言わないで!? 現実の家の話してるんですけどこっちは!!」
その夜。
三人は再びバリケード内の“ベッド本陣”に戻っていた。
加奈はクッションを抱えて、ぐったり。
「なんか今日、体感で一週間分ぐらいの疲労きた……」
「まだ五日目よ」
「嘘でしょ!? あと二日で妖精王が来るんだよね!? 無理じゃん体力的にも精神的にも生活力的にも!」
「てか洗濯物全滅したから、そろそろ服ローテ限界よ」
「あ、私明日ジャージ洗う」
三人のそんな会話の裏で――。
そのころ、妖精たちの陣営では。
どこか異なる空間。
水面に浮かぶような薄明かりの宮殿。
そこに、これまで見たことのない風格の妖精が立っていた。
背丈は普通の妖精より一回り大きく、羽も六枚。
背中には銀の紋章が刻まれている。
「“転送の羽”が奪われた?」
副官とおぼしき妖精が、ひざまずくように報告する。
「は……ベランダ陣の呪文陣が破壊され、その中枢が彼女らの手に」
「王の命は絶対である。ならば次は――全面侵攻だ」
その声が響いた瞬間、空間に微かな雷鳴がとどろく。
「次の“戦局”で終わらせる。敵拠点を消し飛ばせ」
その頃まだ、加奈たちは洗濯物の話で揉めていた。
「私、明日は制服のブラウス着るからね。文句言わないでよ」
「え、じゃあ私体操服着て寝る羽目になるじゃん!」
「……明日、絶対ろくなこと起きない気がする」
そして、第六の夜が静かに、更なる嵐を予感させながら幕を閉じた――。