表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/27

第5話『バトル・オブ・ベランダ』 (後編)

戦闘終了から数分後。


三人はベランダにしゃがみ込んで、しばし放心していた。


 


「……干してたTシャツ、灰になった……」


 


「靴下、ゴムの部分だけ残ってるの笑えない……」


 


「ていうかこの煙、近所から通報されない?」


 


しみじみと焦げ跡を見つめる加奈たちの前に、ふわりと漂う何かがあった。


 


それは、小さな――羽根だった。


 


「……鳥の羽じゃないよね?」


 


「いや、これ……光ってる」


 


梨花がそっと手を伸ばして、それを掴む。

白金色にきらめくそれは、まるで空気の中に溶け込むような、奇妙な質感をしていた。


 


「これは……転送に使ってた“魔法の素子”じゃない?」


 


美穂が語るその口調は、なぜか異様に自信に満ちていた。


 


「“転送の羽”。この世界と妖精の領域をつなぐ鍵……だとしたら、かなりの重要アイテムよ」


 


「美穂、なんでそんなRPGの鑑定士みたいな口調できるの……?」


 


「中二病は情報に敏感なの」


 


加奈と梨花が静かに引き気味になっていると、美穂は羽根を小さなチャック付きの袋に大切に収めた。


 


「これは保管しておきましょう。下手に捨てるとまたポータル開いちゃうから」


 


「“ポータル”とか言わないで!? 現実の家の話してるんですけどこっちは!!」


 


 


その夜。

三人は再びバリケード内の“ベッド本陣”に戻っていた。


加奈はクッションを抱えて、ぐったり。


 


「なんか今日、体感で一週間分ぐらいの疲労きた……」


 


「まだ五日目よ」


 


「嘘でしょ!? あと二日で妖精王が来るんだよね!? 無理じゃん体力的にも精神的にも生活力的にも!」


 


「てか洗濯物全滅したから、そろそろ服ローテ限界よ」


 


「あ、私明日ジャージ洗う」


 


三人のそんな会話の裏で――。


 


 


そのころ、妖精たちの陣営では。


どこか異なる空間。

水面に浮かぶような薄明かりの宮殿。

そこに、これまで見たことのない風格の妖精が立っていた。


 


背丈は普通の妖精より一回り大きく、羽も六枚。

背中には銀の紋章が刻まれている。


 


「“転送の羽”が奪われた?」


 


副官とおぼしき妖精が、ひざまずくように報告する。


 


「は……ベランダ陣の呪文陣が破壊され、その中枢が彼女らの手に」


 


「王の命は絶対である。ならば次は――全面侵攻だ」


 


その声が響いた瞬間、空間に微かな雷鳴がとどろく。


 


「次の“戦局”で終わらせる。敵拠点を消し飛ばせ」


 


 


 


その頃まだ、加奈たちは洗濯物の話で揉めていた。


 


「私、明日は制服のブラウス着るからね。文句言わないでよ」


 


「え、じゃあ私体操服着て寝る羽目になるじゃん!」


 


「……明日、絶対ろくなこと起きない気がする」


 


そして、第六の夜が静かに、更なる嵐を予感させながら幕を閉じた――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ