第5話『バトル・オブ・ベランダ』 (中編)
「うわっ、来た来た来た来たァァァァ!!」
洗濯カゴを構えた加奈が、悲鳴とともに妖精の矢を防ぐ。
ベランダに配置された植木鉢、物干し竿、プランター、洗濯物の影――
すべてが奇襲ポイントと化していた。
「こっちにも! 足元注意ッ!」
梨花が足元のバケツを蹴り飛ばし、トングを構えて応戦。
妖精たちは小さな弓や吹き矢、音波のような攻撃を繰り出してくる。
「完全に奇襲戦術だ……あのタオルの裏、スナイパー陣形だわ」
「陣形分析してる場合!? こっちは全身生身なんだけど!!」
加奈は思わずフライパンを振り回す。
偶然にもそれが一体の妖精に直撃し、ゴミ箱に「ポンッ」と落ちて消えた。
「よしっ! 一匹!」
「さすがフライパン担当。命中率100パー」
「今の完全にまぐれだったけどね!!」
そのとき、美穂が植木鉢の中を覗き込み、眉をひそめた。
「……見て。これ」
土に描かれた、不気味な模様。
渦を巻いた円形の線、そこに刺さった羽根状のオブジェ、そして微かに漂う金色の粒子――
「呪文陣……か」
「えっ、そんな中二ワードをさらっと!?」
「これは妖精たちの転送陣。つまり、ここから奴らが出入りしてるのよ」
「ってことは……これを壊せば、出入りできなくなる!?」
「たぶんね」
その瞬間、陣の中心がぼんやりと光を帯びる。
次の増援が現れようとしている――
「梨花、冷却スプレー!」
「任せて!」
梨花が腰から取り出したスプレー缶を、ノールックで投げ渡す。
美穂がそれをキャッチし、ワンステップで植木鉢へ投擲!
「加奈、今ッ!」
「了解ぃぃぃっっ!!」
加奈が叫びながら全力フライパンアタック!
呪文陣の中心に振り下ろされた一撃は、地味ながら破壊力抜群。
「ッシャーーッッ!!!」
パンッ!
呪文陣が崩れ、光が霧散。
その瞬間、ベランダにいた妖精たちの何体かがバランスを崩して転倒した。
「転送システムが落ちたな……!」
「勝った……の……?」
勝利の余韻に浸る間もなく、視界の中で洗濯物が全部燃えていた。
「……あ、やば」
「タオルと靴下が……灰になってる」
「お母さん……絶対、怒るやつ……!」
ベランダは戦場だった。
だが、その代償も生活に直撃するレベルで重かった。