第4話『妖精vsチョコチップパン』 (中編)
妖精たちの襲撃が一段落し、室内には小さな羽根とラメの粉が舞っていた。
「ふぅ……今日はもう終わりかな?」
加奈がぐったりとカーペットに倒れ込む。
「まだ午前10時だけどね」
梨花が冷たく返す。疲労感が時差ボケみたいにズレてきている。
「で、美穂……それ、なに調べてんの?」
加奈がふと見ると、美穂がソファの隅で何かをじっと睨んでいた。
手には、どこからか拾ってきた小さな金属の端末。
スマホより一回り小さく、画面には奇妙な文字列がびっしりと並んでいる。
「これ、あのとき倒れた妖精が落としていった“タブレットみたいな何か”。中身、解析中」
「解析中って、どうやって!?」
「勘とノリ」
「信用度ゼロか!!」
だが、美穂の声は本気だった。
「……これ見て。さっき見つけた単語」
加奈が覗き込むと、画面にはこう表示されていた:
KNSR-K-セクター(王国南守備連隊)
パセリ曹長 死亡
目的:報復戦(対人類行動)
命令発信者:王
「……ねえ、これ完全に、軍事国家じゃない?」
「しかも……王が命令出してる」
美穂はごく自然に言った。
「つまり、私たち今──異世界軍に国家規模で戦争吹っかけられてるってことね」
「そんなの……聞いてないよ!? ゴキブリだと思っただけなのに!!」
加奈は頭を抱える。
どこで間違ったのか。何をどうすればよかったのか。
だが今さら巻き戻しはできない。
「とりあえず、現実を見よ? お昼前だし、おやつタイムにしない?」
「おやつって言ったそばから、チョコ食べようとするなって言ったよね」
梨花の冷たい声もどこ吹く風、加奈は棚の奥からチョコチップパンを取り出した。
「あ~これ食べると世界が平和になる味する~……」
ぱくっ、と加奈がパンをちぎって口に入れた、その瞬間。
――パキィィィィン!
どこからか、空気が震えた。
「ん?」
パンの袋に目をやると、そこに……
妖精兵がいた。突撃していた。パンに向かって。
「は!? パンに!?」
妖精兵は目を細め、パンの破片に向かって後退するように動いた。
さらに加奈がもう一口食べると、妖精はぶるぶる震え、ついに羽ばたいて逃げた。
「え……まさか……」
梨花が呆然とつぶやく。
「チョコチップパンが、妖精の弱点……?」
「いやそんなことある!? だって普通に菓子パンだよ!? 100円くらいのやつ!!」
美穂が目を輝かせる。
「黒い粒……“チョコ”というより、“鉄分的なもの”が反応してるのかも。
あるいは……かつての“妖精戦争”で封印された伝説の武器──」
「やめて! 勝手に壮大な設定盛らないで! 普通のパンです!!」
とは言いつつも、明らかに妖精がパンを避けているのは事実だった。
「よし! 武器認定だ! パンは立派な武器だ! 日本の朝食なめんな!」
加奈は勢いよくチョコパンを振り回し、
美穂はトーストを二枚構えて**“両手パンブレード”**として構えた。
三人、パンで妖精を追い払う。
空を舞うパンくずと、逃げ去る妖精たちの羽音。
「……なんだこれ、すごくシュール」
「でも、勝てた……私たち、パンで勝った……!」
勝利の余韻に浸る三人のもとに、再び“異世界”からの気配が忍び寄る。