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初恋、始まる?

「……は?」


目の前で、エメル・ロウシェン子爵子息は、落ち着いた表情でこう言った。


「僕は、君のことを、少し気になっている。だから、知っておきたくなったんだ。君が、どんな人なのか」


……え? これって……何?

もしかして、もしかしちゃうやつ??


「き、気になってるって、それはその……どういう……意味で……?」


私は焦ってどもった。顔が熱い。耳まで真っ赤だ。

まるで、少女漫画のヒロインのような反応をしてしまっている自分が恥ずかしい。


でも、エメルはまっすぐに言葉を続けた。


「君は、魔力量の計測値も、構成式の独自性も、統計的に言って“異常値”だ。

だから、仮説としていくつかの要素を想定してる。貴族出身の可能性、独自教育の受講経験、あるいは――」


……あ。うん。違った。

これは完全に、理系男子の“研究対象に興味がある”発言だった。


「なーんだ……」


思わず声に出た。


「……失礼だったか?」


「ううん、こっちの勝手な勘違いだから……」


少しだけ、しょんぼりしている自分に気づいてしまった。

初めての“恋かも”と一瞬勘違いしただけで、こんなに気持ちが上下するなんて。


私、ちょっと浮かれてたのかな。



「アリア、最近モテてない?」


その日の放課後、ルチアがニヤニヤしながら言ってきた。


「も、モテてないよ!?」


「四輝星のカイルには正面から絡まれて、ユリウスには“親友”宣言されて、レオノルド王子は君の炊飯鍋を真顔で絶賛して、今日なんてエメル様だし!」


「それ全部、別の意味でしょ!? 王子は家電オタクだし!」


「それ、たぶんアリアしか言わないやつ」


私が抗議すると、ルチアは笑いながら言った。


「でも、きっとそのうち、誰かが本気になるよ。だって、アリアって……一緒にいると楽しいもん」


「え……」


「ちょっと抜けてるけど、一生懸命で、誠実で、努力家で、あと、炊飯鍋が作れるし」


「最後、そこ!?」


笑いながら返したけど、心の奥がじんわり温かくなった。



その日の夜。


私は寮のベッドの中で、ぼんやりと天井を見つめながら、今日の出来事を思い出していた。


エメルのまっすぐな目。

ちょっとだけ勘違いした自分。

そして、そんな自分を「バカだなぁ」と思う自分。


「でも……悪くなかったな」


今まで、誰かに恋するなんて余裕はなかった。

日本でも、こっちでも、私はずっと“何者かにならなくちゃ”って、必死だったから。


でも、こうして誰かを意識することって――


「うん、悪くない」


私は、小さく笑った。


恋じゃないかもしれない。

でも、これはきっと、“恋の入口”くらいには立ってる。



その頃、エメルは自室の机に日誌を開いていた。


被験者:アリア・ブレイユ

魔力量、魔導構成力、精神抵抗、対人影響力

すべての項目が……測定外に近い


「君は……いったい、何者なんだ?」


その目は、研究者としての興味と、もうひとつ別の感情を宿していた。


彼自身がまだ気づかぬ、“研究対象”への特別な感情を――。

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