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両親の影

「この記録、どう思う?」


親友のルチアがそう言って、私に手渡したのは、王都の中央図書院で見つけた古い書物だった。


『魔王戦役終結記録 第十二稿』

表紙の革は擦り切れ、ページの端も黄ばんでいた。


「……また歴史マニア趣味? って言いたいとこだけど……この名前……」


私の視線が止まったのは、本文のある一節。


“魔王討伐戦において最大の戦功を挙げたふたりの名――光の勇者レオン、聖なる癒し手ソフィア。

その後の記録は不明、功績を辞退し、表舞台から姿を消す”


勇者と聖女。どこかで聞いたような――いや、聞き慣れているような名だった。


ロラン。

ミラ。


私の父と母の名前とは、少し違う。でも、なぜだろう。どこか、引っかかる。



「おかえり、アリア」


数日後、私は学苑の休暇を使って故郷の村フェルンへと帰省していた。


父・ロランは相変わらず無口で、母・ミラは少しだけ白髪が増えていた。


「お土産? ありがとうねぇ。……って、また“炊飯鍋”の改良品?」


「うん! 今度は圧力調整に魔導スイッチつけてみたの。無音設計だよ!」


両親とのやり取りは、いつもと変わらない“日常”だった。

でも、心の奥では小さな違和感がくすぶっていた。


――私は本当に、この人たちの娘なのか?



夜。私はふと、物置の整理を思いついた。


懐かしい木箱を開けると、古びた日誌と、革の巻物が出てきた。

その中に――一枚の地図と手書きの記録が挟まれていた。


《魔王戦最終拠点・北境バスリア遺跡/記録者:不明》


その地図には、父が何度も「昔、修行で行ったことがある」と言っていた場所が示されていた。


そして、その下に、古代文字でこう書かれていた。


“この地で剣を振るった者の名は――レ、○○○”


文字は途中でにじみ、読めなかった。


でも、はっきりと読み取れたのは、“R”から始まる名。


「……ロラン?」


なぜ、ここにそんな記述が?

この巻物を、父は一言も語ったことがなかった。


気づけば、私はその場に膝をついていた。



「私……何も知らないんだな」


両親の過去。自分の出自。村の記録にもない空白の部分。


何かがある。

でも、それが“何か”を知る勇気が、今はなかった。


それでも、私は自分に言い聞かせる。


「私はアリア・ブレイユ。ロランとミラの娘。……それだけで、いい」


でも、その夜、初めて“家族の影”を夢に見た。


ぼやけた輪郭の中に立つふたり。

その背には、誰も見たことのないほど強く、優しい光が揺れていた。



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