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努力の証明

魔導大会から一週間。


セリカ学苑の空気が、目に見えて変わった。


「アリアさん、こっちの席、空いてますよ!」


「次の弁当、予約できる?」


「新しい発明の相談、乗ってくれないかな?」


あれほど冷たかった周囲が、まるで魔法のように色めき立った。

中には、あからさまに媚びを売る貴族生徒まで現れたほどだ。


……でも、私は嬉しくなかった。


「努力を笑ってた人が、今になって称賛してくるって、なんだか変な気分」


「まぁ、そういうもんだよ。人の評価なんて風向き次第さ」


ユリウスは肩をすくめながら言った。


「でも、それを裏返すだけのことを、君がやったってことだよ。誇っていい」


そう。私は、やったのだ。


努力が、ちゃんと結果に繋がった。


……それでも、不安は消えていなかった。



その夜。学苑の理事会室では、別の議論が始まっていた。


「平民の娘にして、あの魔力量……。本当に“無名の村”の出だというのか?」


「魔導鍋などという珍妙な発明にも、特異な知識が散見される。王国の教育カリキュラム外の内容だ」


「調査を進めるべきだ。出自が確かでないなら――」


王宮関係者の一部は、アリアを“平民に偽装した貴族の隠し子”もしくは“外国勢力のスパイ”と見なし始めていた。


その噂は、やがて学苑内にも広まりはじめる。



「……魔力量、おかしいよな?」


「ほんとに平民? 親の素性、誰も知らないんだって?」


「村の記録にも、変な空白があるらしいよ」


そんな声が、すれ違いざまに聞こえてくるようになった。


ルチアも心配そうに言った。


「アリア、本当に……お父さんとお母さん、村の人なのよね?」


「もちろん。私は、ロランとミラの娘だよ」


それだけは、揺るがなかった。あの人たちは、私に愛を注いでくれた“本当の家族”だった。


でも――


“もし私の過去に、何か隠されているとしたら?”


そんな疑問が、心の奥で渦を巻き始めていた。



学苑が主催する“魔導構成試験”の日。

これは、理論構築力と制御能力を競うテストであり、平民と貴族の差がもっとも顕著に出る場とされている。


「アリア・ブレイユ。次、君の番だ」


私は試験場の中央に立った。


「制御対象:第四階位火属性魔導核。構成指示:加熱・冷却・複合詠唱あり」


ざわめきが走った。


第四階位は、貴族でも扱いが難しい高位魔核。

それを“平民”に割り振るのは、試されている証拠だった。


私は目を閉じ、深く息を吸った。


「いいよ、望むところ」



構成、圧縮、展開、変換――

脳内に組んだ魔導理論式は、日本で学んだプログラミングのアルゴリズムに似ていた。


炎を制御しながら、冷却エリアで蒸気を固め、熱圧縮の再利用まで導く。


周囲の教師たちがざわつく。

「そんな魔導式……聞いたことがない」


「まさか、再利用循環を現実化できるとは……」


そして、制御完了。


試験官が告げる。


「……Aランク合格。構成式:異例の学苑初採用。魔力量・制御力・実用性、すべて高水準」


私は静かに一礼した。心の中で、誰かに言った。


“見てた? お父さん、お母さん。

私、ちゃんと、“自分”でここまで来たよ”



その夜、王宮の情報室では一通の報告書が手渡される。


――アリア・ブレイユ

――フェルン村出身

――養父母:ロラン・鍛冶師/ミラ・薬草師

※両名の過去、特級封印対象


報告官がつぶやいた。


「この娘……“本当にただの平民”なのか?」


謎は、深まっていく。



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