魔導大会開幕!
《セリカ学苑》恒例の魔導大会がついに開幕。魔法の才能と技術、そして家柄と実力が試される大舞台。平民代表に選ばれたアリアにとってはまさに“絶望イベント”!? だが、勝つために必要なのは、魔力の多寡でも家の格式でもなかった――。
「えっ、ちょっと待って!? なんで私が代表なの!?」
中庭で昼食を広げていた私、アリア・ブレイユは、突然の指名に思わずおにぎりを落とした。
「平民寮の投票で、アリアに決まったんだよ」
そう言ったのは、親友ルチア。笑顔でさらっと言ってくれるけど、心臓に悪い。
「ちょ、魔導大会って、王都中継まで入る超公式イベントでしょ!?」
「うん。平民枠から勝ち上がれば、かなり目立てるよ?」
「やめて! そういうプレッシャーだけは最大級なんだから!」
◇
魔導大会。それは学苑最大の催しであり、王国中の貴族や商会、王宮の関係者が視察に来る一大イベント。
魔導技術、理論構築、実演、創作、すべてを競い合う総合バトル。
実力はもちろん、家の格も大きな影響を与える。……そう、超不公平。
そんな中で平民代表がひとりだけ出場できるのが“魔導発明部門”。
要は、知恵と工夫で勝負する枠だ。
「……やるしかない、か」
私は悩んだ末、引き受けることにした。
逃げたくはなかった。誰かが信じてくれたその想いを、無駄にしたくなかった。
◇
「それで? お前の出す“発明”って、なんだ?」
カイル・エグレアが興味なさげに聞いてくる。
彼は実演魔法部門の貴族代表。対照的に、私の魔力量は並以下。
「ふふっ、ふふふ……聞いて驚け! その名も――《魔導圧力炊飯鍋》!」
「…………は?」
「説明しよう! 魔導石で一定の熱を加え、蒸気圧で炊き上げた米を極限までふっくらさせる! しかも自動保温、時間予約機能付き!」
「お前、それ……飯作る道具じゃないか」
「そうとも言うけど、“生活の質を変える”のが私の魔導思想だから!」
「……まさかとは思うが、それで大会に出る気か?」
「出るよ! 本気だよ!」
カイルは頭を抱えた。
「……まじで、お前、バカだろ……」
「よく言われます!」
◇
そして大会当日。
王都中継、貴族の観覧席、魔導技術評議会の審査員。
そのすべてが見守るなか、アリア・ブレイユ、登壇。
「私は、“食”と“家族”の時間を支える発明を提案します」
発表を始めた瞬間、観客席から失笑とざわめきが広がった。
「米を炊くだと?」
「ふざけてるのか?」
「王国最先端の場で台所仕事か?」
そのすべてを、私は受け止めた。
「――でも、私は本気です」
「この世界では、食事は“作る者の責任”として押しつけられてきた。
けれど、この発明があれば、誰でも、子どもでも、老人でも、美味しいご飯を簡単に作れます。
“誰かのために”だけじゃない。“自分のため”にも、温かいごはんを――。
そんな世界を、私は作りたい」
会場は静まり返った。
誰かが、ゆっくりと拍手をした。
それは、レオノルド王子だった。
「……いい視点だ。忘れられがちなものに、光を当てる技術。私は、支持する」
続いて、ユリウスがにっこりと笑いながら叫んだ。
「俺も! アリアの炊いたご飯、大好物だ!」
そして――
「認めるとは言ってねえが……まあ、悪くはなかった」
カイルが、口元を隠すようにして言った。
私は――泣きそうだったけれど、泣かなかった。
「……ありがとうございます」
◇
結果は、まさかの部門準優勝。
優勝は王家直属の技術研究班の“魔導記憶転送装置”だったけれど、私の《炊飯鍋》は“日常応用技術賞”を獲得。
後日、この魔導鍋は学苑の寮食堂にも導入されることになった。
「チートじゃなくたって、ちゃんと世界は変えられる」
そのことを、少しだけ証明できた気がした。