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魔導大会開幕!

《セリカ学苑》恒例の魔導大会がついに開幕。魔法の才能と技術、そして家柄と実力が試される大舞台。平民代表に選ばれたアリアにとってはまさに“絶望イベント”!? だが、勝つために必要なのは、魔力の多寡でも家の格式でもなかった――。

「えっ、ちょっと待って!? なんで私が代表なの!?」


中庭で昼食を広げていた私、アリア・ブレイユは、突然の指名に思わずおにぎりを落とした。


「平民寮の投票で、アリアに決まったんだよ」


そう言ったのは、親友ルチア。笑顔でさらっと言ってくれるけど、心臓に悪い。


「ちょ、魔導大会って、王都中継まで入る超公式イベントでしょ!?」


「うん。平民枠から勝ち上がれば、かなり目立てるよ?」


「やめて! そういうプレッシャーだけは最大級なんだから!」



魔導大会。それは学苑最大の催しであり、王国中の貴族や商会、王宮の関係者が視察に来る一大イベント。


魔導技術、理論構築、実演、創作、すべてを競い合う総合バトル。

実力はもちろん、家の格も大きな影響を与える。……そう、超不公平。


そんな中で平民代表がひとりだけ出場できるのが“魔導発明部門”。

要は、知恵と工夫で勝負する枠だ。


「……やるしかない、か」


私は悩んだ末、引き受けることにした。


逃げたくはなかった。誰かが信じてくれたその想いを、無駄にしたくなかった。



「それで? お前の出す“発明”って、なんだ?」


カイル・エグレアが興味なさげに聞いてくる。

彼は実演魔法部門の貴族代表。対照的に、私の魔力量は並以下。


「ふふっ、ふふふ……聞いて驚け! その名も――《魔導圧力炊飯鍋》!」


「…………は?」


「説明しよう! 魔導石で一定の熱を加え、蒸気圧で炊き上げた米を極限までふっくらさせる! しかも自動保温、時間予約機能付き!」


「お前、それ……飯作る道具じゃないか」


「そうとも言うけど、“生活の質を変える”のが私の魔導思想だから!」


「……まさかとは思うが、それで大会に出る気か?」


「出るよ! 本気だよ!」


カイルは頭を抱えた。


「……まじで、お前、バカだろ……」


「よく言われます!」



そして大会当日。


王都中継、貴族の観覧席、魔導技術評議会の審査員。

そのすべてが見守るなか、アリア・ブレイユ、登壇。


「私は、“食”と“家族”の時間を支える発明を提案します」


発表を始めた瞬間、観客席から失笑とざわめきが広がった。


「米を炊くだと?」


「ふざけてるのか?」


「王国最先端の場で台所仕事か?」


そのすべてを、私は受け止めた。


「――でも、私は本気です」


「この世界では、食事は“作る者の責任”として押しつけられてきた。

けれど、この発明があれば、誰でも、子どもでも、老人でも、美味しいご飯を簡単に作れます。

“誰かのために”だけじゃない。“自分のため”にも、温かいごはんを――。

そんな世界を、私は作りたい」


会場は静まり返った。


誰かが、ゆっくりと拍手をした。


それは、レオノルド王子だった。


「……いい視点だ。忘れられがちなものに、光を当てる技術。私は、支持する」


続いて、ユリウスがにっこりと笑いながら叫んだ。


「俺も! アリアの炊いたご飯、大好物だ!」


そして――


「認めるとは言ってねえが……まあ、悪くはなかった」


カイルが、口元を隠すようにして言った。


私は――泣きそうだったけれど、泣かなかった。


「……ありがとうございます」



結果は、まさかの部門準優勝。


優勝は王家直属の技術研究班の“魔導記憶転送装置”だったけれど、私の《炊飯鍋》は“日常応用技術賞”を獲得。


後日、この魔導鍋は学苑の寮食堂にも導入されることになった。


「チートじゃなくたって、ちゃんと世界は変えられる」


そのことを、少しだけ証明できた気がした。



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