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嫌がらせ

・・机の中に、腐った果実が入っていた。


それを見た瞬間、私は「ああ、来たか」と思った。


セリカ学苑に入学してから三週間。

お弁当販売の再挑戦も着実に進み、私のことを名前で呼んでくれる子も増えてきた。


でも、それが気に食わない人たちが、当然いた。


貴族派。


特に保守的な家柄の女子グループが中心で、「平民が目立つのはみっともない」と公言してはばからない面々だった。


最初は廊下での陰口。

次に、教科書のページを破かれ、筆記具がなくなった。

そして今日――机の中の嫌がらせ。


私は、それらにひとつも反応しなかった。


「スルースキル、レベル5……!」


心の中で唱えて、自分を保った。高校時代のいじめ経験がここで活きるとは。ありがたくないけど。


でも、問題は次だった。



昼休み、お弁当販売をしていると――


「……ねえ、あれ、アリアの弁当よね?」


「どうして? 食べてた子、急に倒れたって」


その言葉に、血の気が引いた。


私の弁当を食べた平民の女子生徒が、保健室に運ばれたという。


駆けつけると、彼女はベッドで苦しそうにしていた。

でも、医師によると原因は“胃の冷え”と“疲労”。食事ではなかった。


私は安堵した。でも、噂は止まらない。


「やっぱり、毒でも入ってたんじゃ?」


「平民のやることなんて、所詮その程度」


私は、弁当箱を抱えて中庭にしゃがみ込んだ。


「ああ……また、空回りだな……」



「下ばかり向くなよ、アリア」


頭上から声がした。


振り向くと、カイル・エグレアがいた。

あの俺様四輝星が、何故か仁王立ちしている。


「え……な、なに?」


「お前の弁当を食べるのは、そんなに危険なのか?」


彼は堂々と、私の弁当をひとつ手に取り、開けた。


「お、おいカイル!? やめなよ、今噂が――!」


「毒が入ってたら死んでやる」


そのままひとくち。


「……」


「……どう?」


「うまい」


即答だった。


「文句ある奴は、俺のところに来い。平民だろうがなんだろうが、“食えるもん”を作った奴は称賛されて然るべきだ」


私は……涙が出そうだった。

怖い。悔しい。やめたい。そう思った瞬間もあった。


でも、こうして誰かがそばにいてくれるなら――


「ありがとう。……次はもっと、美味しく作るね」


「当たり前だ。俺様の口に合わないなんて、許されない」


不器用すぎる励ましだったけど、胸があたたかくなった。



その夜、私は日記にこう記した。


《私を信じてくれる人のために、私は笑っていたい》


“負けない”って言うのは簡単だけど、

“笑い続ける”って、実はすごく勇気のいることなんだ。

この第5話は、アリアが初めて“集団からの悪意”と真正面から向き合うエピソードです。

ライトノベルでは珍しくない「嫌がらせ描写」ですが、今回は「反撃」ではなく「踏みとどまる」ことに意味を置きました。


なぜなら、アリアにとって一番大事なのは“勝つこと”ではなく、“誰かに喜んでもらうこと”だからです。


そしてカイルという一見高慢な存在が、少しだけその価値観に引き寄せられていく姿も、物語の鍵になっていきます。


この物語は、アリアが“誰かのために努力し続ける強さ”を武器に、少しずつ世界を変えていく物語です。


あなたの中にも、そういうアリアが、きっといます。

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