表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

チート計画始動(予定)

王都の名門《セリカ学苑》に入学したアリア。貴族社会の壁、イケメンエリート《四輝星》との最悪の出会いを経て、彼女は再びチート知識での一発逆転を目指す。しかし、選んだのは“日本式お弁当ビジネス”!? 学苑中を巻き込む大騒動が今、始まる――。

《セリカ学苑》、入学から一週間。


私はすでに、この学苑がいかに平民にとって“居心地の悪い場所”かを痛感していた。


「ねえ、見て。あれが推薦枠の……」


「平民のくせに、四輝星と同じクラスなんて不釣り合いよね」


廊下を歩けばひそひそ声、教室に入れば視線の針の雨。

前回、カイル・エグレアに言い返して以来、貴族生徒たちの敵意は倍増したらしい。


でも私は――


「ふふん、耐性あるし」


高校時代、日本の女子校で“スクールカースト”という戦場をくぐり抜けてきた私にとって、この程度の陰口はむしろ心地よいBGMだ。


ただ、今のままじゃまずい。


いくら自分を保っていても、このままだと「ただの空気」になってしまう。私には時間がない。ここで何か成果を出さなければ、“ただの変な転校生”で終わってしまう。


だから私は、決意した。


「やるしかない……“チート計画”!」



私の武器は、日本で得た知識。理屈もマーケティングも、微妙に役立つ豆知識も詰め込んである。


ターゲット:平民寮の生徒たち

市場:昼食需要

勝機:味とコスパ、そして“映え”


つまり私は、《お弁当ビジネス》を始める!



「なあ、これ……なんだ?」


翌日の昼休み、食堂の片隅に机を出した私は、勝負をかけた。


その名も――《アリアのあったか魔導弁当》


第一弾メニュー:ふわとろ玉子サンド+蒸し野菜の味噌マリネ+魔導瓶の紅茶


パンは、村から取り寄せた天然酵母使用の香ばしい焼きたて。

卵はふんわり半熟、味付けは甘辛の出汁巻き風。

味噌マリネは日本式の酸味とコクの絶妙バランス。

そして紅茶には、微量の温熱魔導石を仕込んであり、飲む瞬間だけほんのり温かくなる。


「これ、すごい……香りが……」


「パンの中、ふわふわ……なにこれ……とろける……!」


平民寮の生徒たちが、ぞろぞろと群がってくる。


手作りPOPを見て、女子たちが「かわいい〜!」と騒ぎ出した。


「やば、これ“映える”!」


「食堂の煮込みシチューより断然いいかも!」


手応えは上々。チート、来たかも……!



だが、事態はそう簡単に進まない。


「……何をしている」


聞き慣れた、冷たい声。


振り返ると、銀髪の少年が立っていた。

レオノルド・アスリム。セリカ王国第一王子、かつ四輝星の一角。学苑内でも近寄りがたい存在として有名な彼だ。


「……弁当売ってますけど」


「この場所は学苑の“飲食区画”に指定されていない。許可は取ったか?」


「……いや、その、形式上は……」


「なら撤去しろ。規則は守れ」


言い方は淡々としているが、これ以上押せば退学レベルの問題になりそうだった。


「わ、わかりましたっ」


あっという間に机は片づけられ、魔導弁当の夢は儚く散った。



私は平民寮のベッドに寝転び、ぼんやり天井を見ていた。


「……やっぱり、私ってチート向いてないのかな」


せっかく準備して、喜んでもらえて、やっと“居場所”になりそうだったのに。


その時――


「……おかわり、あるか?」


部屋の前で、扉越しに聞こえた声。


「……え?」


扉を開けると、そこに立っていたのはレオノルドだった。王子でありながら、静かにこちらを見つめている。


「さっき、買えなかった。気になっていた」


「……ある。まだ……一個だけ残ってる」


私は、そっとサンドイッチの包みを差し出した。


彼は受け取り、静かに一口かじる。


「……うまい。これが、“日本の知識”か」


「……どうして知ってるの?」


「……君が“普通”じゃないことは、誰が見ても明らかだ」


彼は、それだけ言うと立ち去っていった。


私の心の中には、風が通ったような静かな余韻が残った。



その夜。


私は再び、ノートにペンを走らせる。


《弁当計画・第2案》

・販売場所の変更(許可申請のため先生を味方に)

・味付けバリエーション増加(甘・辛・和風)

・特注容器(魔導温度調整付き)導入検討


「まだ終わりじゃない。何度でもやり直せる。だって私は――」


チートなんてなくても、前に進めるって証明したい。


明日は、もっといい一日になる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ