学苑と四輝星
セリカ王国の王都。地方の小さな村からやってきた私、アリア・ブレイユには、すべてがまぶしすぎた。
石造りの街並み、空を飛ぶ輸送用魔導船、歩くだけで気後れするような立派な建物の数々。そして、私が今日から通うことになる学び舎――
「……でかっ!!」
それが、王都きっての名門《セリカ学苑》。
貴族の子弟とごく一部の優秀な平民しか入れない、魔導と騎士道と学術の最高機関。いわば異世界版・超エリート校。
ちなみに私は、村の推薦と魔力量だけで“なんとか合格”した特待生。
周囲の目は冷たい。豪華な制服、上品な立ち居振る舞い。どれをとっても私とは別世界の人間ばかり。
「……まぁ、いい。チート知識と努力でのし上がってみせる!」
私は気合を入れ、初めての授業に臨んだ。
◇
「おい、あの娘が“平民枠”らしいわよ」
「えっ、あれが? 村娘じゃない」
「下駄箱の使い方も知らないって……」
噂話は容赦なく飛んでくる。地味な制服に、野暮ったい髪型。正直、場違い感がすごい。でも私は、そんなことで心は折れない。
――だって、日本の高校でもそういうの、耐えてきたから。
ただ、この日だけは、さすがに無理があった。
「――あれが、《四輝星》よ」
そう聞こえた瞬間、教室の空気が変わった。
教室のドアが開き、4人の男女が現れる。
黄金の髪を揺らし、堂々と入ってきたのは、
カイル・エグレア。侯爵家の跡取りで、魔導科主席。いかにも俺様オーラ全開。
続いて、艶のある黒髪を持つレオノルド・アスリム。なんと、現国王の第一王子。無表情で近寄りがたい雰囲気。
その後ろを歩くのは、栗毛に優しい笑みのユリウス・フロル。誰にでも優しく軽口を叩く男爵の息子。
最後に、眼鏡をかけた完璧主義者、エメル・ロウシェン。清潔感の塊みたいな子爵家の生真面目男子。
――この4人は、学苑で“絶対的な存在”だった。
権力、才能、美貌、家柄……すべてを持つ彼らは、まるでこの世界の“フラワー4”だった。
そして私の席は、よりにもよってそのうちの一人――カイルの隣。
「……誰だ、君」
金色の瞳が、私をまじまじと見下ろす。
「平民の席は、そっちじゃないはずだが?」
「ここが私の席ですけど……」
「は? 何の冗談だ。名門貴族の俺と、平民が同じ空間で学ぶだと?」
「制度ですから。文句があるなら学校に言ってください」
私はできるだけ冷静に、礼儀正しく返したつもりだった。
だが次の瞬間、カイルは私の机をバンと叩いた。
「いいか、田舎者。お前みたいな小娘が俺と同じ空気を吸えること自体が奇跡なんだ。勘違いするなよ」
静まり返る教室。みんながこちらを見ている。
怒りと羞恥で震えながらも、私はにっこり笑った。
「それって、嫉妬ですか? 私が、あなたと同じ土俵に立ててることへの」
一瞬、教室がざわめいた。カイルの顔が引きつる。
「て、てめぇ……!」
「はい、てめぇです」
思い切って言ってやった。平民だからって舐められてたまるか。私はこの世界で、私の力で幸せになるんだから!
◇
その日の夜。
寮の部屋に戻った私は、ため息をつきながらベッドに倒れ込んだ。
「……出だしから最悪じゃん」
頭の中で、日本の恋愛漫画ならここから逆転……とか考えるけど、現実はそんなに甘くない。相手は王子と貴族たちだ。平民の私は、どう見ても“戦力外”。
でも……悔しい。
「見てろよ、四輝星。私だって……!」
その夜、星の見える窓の外で、ひときわ明るく輝く星がひとつ。
それはまるで、どこかから彼女を見守っているかのようだった。