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学苑と四輝星

セリカ王国の王都グランシエル。地方の小さな村からやってきた私、アリア・ブレイユには、すべてがまぶしすぎた。


石造りの街並み、空を飛ぶ輸送用魔導船、歩くだけで気後れするような立派な建物の数々。そして、私が今日から通うことになる学び舎――


「……でかっ!!」


それが、王都きっての名門《セリカ学苑》。


貴族の子弟とごく一部の優秀な平民しか入れない、魔導と騎士道と学術の最高機関。いわば異世界版・超エリート校。


ちなみに私は、村の推薦と魔力量だけで“なんとか合格”した特待生。


周囲の目は冷たい。豪華な制服、上品な立ち居振る舞い。どれをとっても私とは別世界の人間ばかり。


「……まぁ、いい。チート知識と努力でのし上がってみせる!」


私は気合を入れ、初めての授業に臨んだ。



「おい、あの娘が“平民枠”らしいわよ」


「えっ、あれが? 村娘じゃない」


「下駄箱の使い方も知らないって……」


噂話は容赦なく飛んでくる。地味な制服に、野暮ったい髪型。正直、場違い感がすごい。でも私は、そんなことで心は折れない。


――だって、日本の高校でもそういうの、耐えてきたから。


ただ、この日だけは、さすがに無理があった。


「――あれが、《四輝星しきせい》よ」


そう聞こえた瞬間、教室の空気が変わった。


教室のドアが開き、4人の男女が現れる。


黄金の髪を揺らし、堂々と入ってきたのは、

カイル・エグレア。侯爵家の跡取りで、魔導科主席。いかにも俺様オーラ全開。


続いて、艶のある黒髪を持つレオノルド・アスリム。なんと、現国王の第一王子。無表情で近寄りがたい雰囲気。


その後ろを歩くのは、栗毛に優しい笑みのユリウス・フロル。誰にでも優しく軽口を叩く男爵の息子。


最後に、眼鏡をかけた完璧主義者、エメル・ロウシェン。清潔感の塊みたいな子爵家の生真面目男子。


――この4人は、学苑で“絶対的な存在”だった。


権力、才能、美貌、家柄……すべてを持つ彼らは、まるでこの世界の“フラワー4”だった。


そして私の席は、よりにもよってそのうちの一人――カイルの隣。


「……誰だ、君」


金色の瞳が、私をまじまじと見下ろす。


「平民の席は、そっちじゃないはずだが?」


「ここが私の席ですけど……」


「は? 何の冗談だ。名門貴族の俺と、平民が同じ空間で学ぶだと?」


「制度ですから。文句があるなら学校に言ってください」


私はできるだけ冷静に、礼儀正しく返したつもりだった。


だが次の瞬間、カイルは私の机をバンと叩いた。


「いいか、田舎者。お前みたいな小娘が俺と同じ空気を吸えること自体が奇跡なんだ。勘違いするなよ」


静まり返る教室。みんながこちらを見ている。


怒りと羞恥で震えながらも、私はにっこり笑った。


「それって、嫉妬ですか? 私が、あなたと同じ土俵に立ててることへの」


一瞬、教室がざわめいた。カイルの顔が引きつる。


「て、てめぇ……!」


「はい、てめぇです」


思い切って言ってやった。平民だからって舐められてたまるか。私はこの世界で、私の力で幸せになるんだから!



その日の夜。


寮の部屋に戻った私は、ため息をつきながらベッドに倒れ込んだ。


「……出だしから最悪じゃん」


頭の中で、日本の恋愛漫画ならここから逆転……とか考えるけど、現実はそんなに甘くない。相手は王子と貴族たちだ。平民の私は、どう見ても“戦力外”。


でも……悔しい。


「見てろよ、四輝星。私だって……!」


その夜、星の見える窓の外で、ひときわ明るく輝く星がひとつ。


それはまるで、どこかから彼女を見守っているかのようだった。

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