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始祖の目覚め

――それは、静かすぎる夜だった。


王都から遠く離れた南方の高原地帯。

その中心にある、誰も近づかぬ古代遺跡〈ウル・セリオン〉の地下深く。


長い時を経て、ひび割れた封印石が、ひとつ、砕けた。


「……目覚めの時か。随分と、長く眠っていたな」


闇の中で、低く響く声。


ゆっくりと立ち上がったその存在は、まるで人の形をした影のようだった。

その身から滲み出る魔力は、王都の結界を越えて空気を震わせる。


「《誓約の魔印》が発現した……なるほど。“あの記録”の通りか」


そして彼は、ゆっくりと呟いた。


「名乗ろう。かつて人に“災厄の導”と呼ばれた、私の名を――

――ラグナ=ファウスト=アルカディア。この世界に魔導を与えし、最初の“魔導王”だ」



その同刻。

王都の塔にて、アリアは胸に激しい鼓動を感じていた。


(また……魔印が疼く……)


右肩に浮かぶ紋様が、いつになく強く脈動している。


――ドクン、ドクン。


まるで何かを“呼び合っている”ような、脅迫的な共鳴。


「アリア!」


レオノルドが駆け込んできた。


「南方の結界が崩壊した! 魔導波の観測史上、最大規模だ!」


「まさか、封印が……」


「“始祖”が目覚めた可能性がある」


「始祖……?」


アリアはその言葉を、耳の奥で反芻した。


(どこかで……聞いたことがある……?)


いや、違う。


(――知っている)


彼の名を。

その声を。

その姿を。


(どうして……“私”が?)



王族によって緊急招集された高位魔導師たちが議論を交わす中、

ディルク第二王子が静かに呟いた。


「彼は、戻ってきた。“世界を造った者”が、ついに動き出した」


「その目覚めに、アリアが関係しているとすれば……」

王国議会の重鎮が唾を飲む。


「アリア・ブレイユは、何者なのか?」



そして夜。


王都の結界上空、魔力の嵐が吹き荒れる雲間に――

ラグナの姿が現れた。


「この国は、随分と変わったな。だが……」


その目が、まっすぐにアリアのいる方向を見つめる。


「――“お前”だけは変わらない。そうだな、No.87」


アリアの背筋に、戦慄が走った。


(……私のことを、知っている)


ラグナは、ゆっくりと語りかける。


「お前は“かつての私が作り出した、唯一の可能性”だ」


「忘れたか? 命を超える、魂の魔導契約を交わした日のことを――」


アリアの脳裏に、断片的な記憶が流れ込んでくる。


――「これが、最後の希望だ」

――「人の手では届かない世界を、君に託す」


(私が……始祖と、契約していた……?)


そのとき、魔印がまばゆく光を放ち、空気が震えた。


「ふふ……いずれ、全てを思い出す。その時こそ、お前の選択が世界を決める」


そう言い残して、ラグナは嵐のように消えた。



その夜、アリアはひとり、研究室で結晶を握りしめていた。


「私の中に、もうひとつの記憶がある……

それは、この世界に来る前でも、日本にいた時でもない、

もっと……“遠い場所の記憶”」


王族でも、国家でもない。


人知れぬ“存在の始まり”を握る者として――


自分が、世界の運命に関わっていることを、彼女は確かに感じていた。



次回、最終話です。

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