表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/21

転生しても楽じゃない

朝日が差し込む木造の窓から、鳥のさえずりが聞こえてくる。


私は、干し草のベッドの上で目を覚ました。


「……あれ? あ、そっか。もう“こっちの世界”だった」


夢の中で、また日本の通学路を歩いていた。制服にカバン、イヤホンから流れる音楽。次の瞬間、トラックのクラクション。まぶしい光。そして――。


目が覚めた時には、赤ん坊だった。


でもその時、私は確かに思ったのだ。


「あ、これ……異世界転生だ」と。



「アリア、朝ごはんできてるわよ〜!」


母、ミラの声がする。小さな家の中に、ふんわりと香ばしいパンの匂いが広がる。私は慌てて服を着替えて、簡易テーブルに向かった。


「おはよう、母さん。父さんも」


「おう、起きたか。今日は炭炉の修理、手伝ってもらうぞ」


父のロランは、無骨な鍛冶屋。口数は少ないけれど、誰より家族を大切にしている。母のミラは薬草師で、村では“ミラさんの薬”と親しまれていた。


私・アリア・ブレイユは、セリカ王国の辺境にあるフェルン村で、そんなふたりの娘として育てられている。


……とはいえ、私は本当は転生者で、かつては現代日本の高校生だった。



異世界に転生したとなれば、当然「チート能力」や「最強スキル」に期待するじゃない?


でも、私には何の才能もなかった。


剣術も魔法も、平凡そのもの。初めて火魔法を使おうとして「ぽふっ」と火花を出しただけで褒められるレベル。唯一の武器は、日本で得た知識――それも、ごく一般的な女子高生レベルのもの。


「よし、今日は“電子レンジ”を再現してみよう」


私は家の裏の作業小屋で、自作魔道具を組み立てていた。魔力を注ぐと内部が加熱される仕組み。……のはずだった。


「いけっ! 加熱開始――!」


ドゴォォン!!


「きゃあああああああああ!!」


煙と爆発音とともに、木の扉が吹き飛んだ。


「アリア!? 大丈夫か!?」


ロランが駆け込んでくる。


「ご、ごめんなさい! また“チートアイテム”の失敗で……」


ロランとミラは苦笑いしながらも、私を責めることはない。ただ一言。


「……まぁ、今日も生きててよかったよ」



私は何度も夢見た。


――日本で得た知識で、この異世界で一発逆転してみせる!


でも現実は甘くない。やることなすこと、全部空回り。


《インスタ映えするカフェ風ごはん》は「妙な盛りつけ」として拒絶され、

《ポータブル魔導コンロ》は「火事を誘発」として村長から使用禁止命令。

《婚活市場の最適化理論》に至っては、村人から「悪魔のささやき」と恐れられた。


うまくいかない理由はわからない。ただ、いつもどこかで何かに邪魔されてる気がするのだ。



そんなある日の午後。


ミラが、村の掲示板で届いた一枚の手紙を手に帰ってきた。


「アリア。王都の《セリカ学苑》から推薦状が届いたわ」


「……え?」


「あなたの村での活動が評価されたのよ。魔法と学問、そして人格――どれも特待生にふさわしいって」


……なんで? 成功なんて一度もしてないのに?


でも、チャンスだ。王都に行けば、環境が変われば、きっと――。


私はふたりに言った。


「行きたい! 王都に行って、自分の力で証明したい!」


ロランとミラは顔を見合わせ、静かにうなずいた。


「なら、行ってこい。……気をつけてな」


「あなたの未来が、ちゃんとあなたのものになりますように」


ミラはそう言って、そっと手を握ってくれた。


その言葉の意味を、私はまだ知らなかった。



その夜。


私は荷物をまとめながら、胸の内でつぶやいた。


「次こそは、うまくいくはず。……今度こそ、チートで幸せになってみせる!」


そしてその頃。


家の裏手にある作業小屋。ミラとロランが、壊れた“魔導レンジ”の欠片をそっと片付けながら、ひそひそと話していた。


「……あの魔導結晶、温度制限つけといたんだけどな」


「燃焼抑制の結界も張ったのに、よくあそこまで派手に壊れたわね。やっぱり、向いてないんじゃない? 発明は」


「まあ……それでも、本人がやりたいなら見守るしかないか」


そしてふたりは、遠く王都の方角を見つめた。


「行ってこい、アリア。お前の未来は――きっと輝いている」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ