リターナー
第1章:崩れた英雄
アフガニスタンの乾いた砂漠を背に、ジョン・カーターは銃声を聞いた。あの日、タリバンの奇襲は容赦なかった。仲間たちの叫び声、血の匂い、そして静寂。生き残ったのはジョンただ一人だった。身体に刻まれた傷は癒えても、心の傷は消えなかった。
2021年、アメリカ軍の撤退とともにジョンは退役した。帰国後、軍病院でのPTSD治療が始まったが、悪夢は毎夜彼を襲った。国のために命を賭けた男は、しかし報われなかった。貯金は底をつき、薄暗いアパートでの貧困生活が彼を飲み込んだ。酒だけが、ジョンに一時の安息を与えた。
酒瓶を握り、よろめきながら街を歩く日々。ある夜、酒を買いに出たジョンは、路地裏で異様な光景を目撃した。3人の男が若い女性を無理やり引きずり込んでいた。女性の頬は腫れ、必死に抵抗する姿は見過ごせなかった。
第2章:路地裏の対峙
ジョンは無意識に足を動かしていた。路地に入ると、男の一人が銃を突きつけ、「失せろ」と唸った。だが、ジョンは動じなかった。アフガニスタンで培った反射神経が蘇る。一瞬の隙を突き、男の手から銃を奪い取った。鮮やかな動きに、男たちは目を丸くした。
「次はお前らの頭に穴が空くぞ」と、ジョンは低く脅した。銃口を前に、男たちは慌てて逃げ出した。助けられた女性は震えながら何度も礼を言い、闇の中に消えた。
ジョンは奪った銃を手に、アパートへ戻った。心臓はまだ高鳴っていたが、どこかで久しぶりに「生きている」感覚が甦っていた。
第3章:誘い
数日後、ジョンのアパートに男が現れた。スーツを着たその男は、助けた女性の恋人だと名乗った。「エレナから聞いたよ。銃を奪った手際、まるで映画だな」と笑う。男の名はマルコ。ギャングのリーダーで、メキシコの麻薬カルテルと敵対する組織の幹部だと明かした。
「俺たちにはお前みたいな兵士が必要だ。カルテルとの戦争が近い」とマルコは言った。ジョンが即答をためらうと、マルコはテーブルの上に1万ドルの札束を置いた。「エレナを助けてくれた礼だ。だが、優秀な男を貧乏暮らしさせる気はない。良い返事を待ってる」
マルコが去った後、ジョンは札束を見つめた。酒で濁った頭に、かつての戦場が蘇る。仲間を失い、国に裏切られた男に、戦う理由はもうないはずだった。だが、心の奥で何かが燃え始めていた。
第4章:決意
その夜、ジョンは酒瓶を捨てた。アフガニスタンでの戦いは国を救うためだったが、今度の戦いは自分自身を救うためだ。マルコの組織が正義とは程遠いことはわかっていた。だが、闇の世界でなら、彼のスキルが再び輝ける。貧困と絶望の中で腐るより、戦士として生きる道を選ぶ。
ジョンは古い軍用バッグから、かつての装備を取り出した。ナイフ、ブーツ、そして決意。鏡に映る自分の顔は、かつての兵士のそれだった。
「もう一度、戦う」と呟き、彼は闇の街へ踏み出した。都市の裏側で、新たな戦争が始まろうとしていた。