盗人の子供を貰った
童話のラプンチェルって盗んだ父親がそもそも元凶だよなと思った
「悪しき魔女め!! 彼女を解放しろ!!」
いきなり我が家にこの国の王子が乗り込んできてそんなことを言いやがった。
その近くには涙ぐんで王子に庇われている養い子。
「お母さん……本当なんですか……わたしが、実の子供じゃなくて、実の親から誘拐されたなんて……」
ああ、そこの王子に聞かされたのか。
「――そうね。事実よ」
そこは正しい。
私の言葉に養い子が信じられないと大きな目を開いたと思ったら、
「騙していたんですかっ!! わたしが病気だからこの塔に隔離していたとかっ!! 全てっ!! この悪魔っ!!」
憎しみを宿した眼差し、一体、王子はどんなことをこの養い子に伝えたのか。
そっと、部屋の中の記憶を倍速にして見てみると、魔女に騙されて誘拐された子供だとか、本当の親はずっと探していたとか。いろんな話をしていたようだ。
で、それを真に受けた――。
「――勘違いしているようだけど、原因はあっちよ」
「嘘つくな!!」
こちらの言葉をすぐさま否定するから少しだけ苛つく。
「そもそも私の育てていた薬草を盗んでいたのが悪いのよ」
「だからって、子供を攫う必要などなかったはずだっ!!」
王子の正義感の溢れた言葉。
一方的な意見しか聞かない正義感溢れる言葉だ。
「――ラプンチェル」
私が与えた名前。かつてとある魔女が塔に閉じ込めた娘の名前をそのまま付けた。その話の流れだと盗んだ薬草の名前を付けた方がいいかと思ったけど、たくさんあり過ぎて、名前が面倒になるからやめた。
「お前は実の親の方がいいのかい?」
「とっ、当然よっ!! 病気だからとずっとこんな塔に閉じ込めている魔女なんかとっ!!」
少し前までは親だと慕ってくれたのにこんなセリフ。
《だからいったろう》
肩に留まっている鳥が囁く。
《人間に魔女の世界は理解できないって》
ああ、確かにそうだ。
「――期待した方が愚かだったわね」
「えっ?」
王子が私の言葉に反応するが、私は答えるつもりはない。
「では、悪しき魔女はこの場所から離れましょう。ごきげんよう」
それだけ告げると箒を取り出して窓から出ていく。その際塔の下にある薬草園をすべて焼き払っておく。
第二のラプンチェルが生まれるのはごめんだったから――。
「ラプンチェル……元気で……」
残りの余生を大事にね。
魔女は昔の名前を憶えていないほど長く生きてきた。
一応魔女としての名前は【薬草の魔女】といい。求められたら薬を作る比較的善良な魔女であった。
《善良なだけだと利用されるオチだよ》
そんな魔女を嘲笑うように鳥――の姿をした魔族はよく口出してきた。
「――そんな私を面白がって魔女にした魔族がよく言う」
《まあね。君がそれでも善良であり続けれるか見ものだと思ったしね》
魔女の作る薬は誰よりも効果があり、その分高値だった。
そんな魔女の薬草園の側に若い夫婦が越してきた。
魔女は近くに越してくるなんて度胸ある夫婦だなと思って特に親しくなろうと思わなかった。
まあ、煉瓦でつくられた壁があるからあまり恐怖を覚えないのかと薬草の世話をしながら思っていたのだが、異変はしばらくしてから気付いた。
「薬草が抜き取られてる……?」
間引きする予定の薬草だったが、この範囲はまだしていなかったはずだ。それなのに抜かれてる……。
《忘れて抜いてたんじゃない。年寄りだから》
「それを言うのならあんたの方が長生きでしょう!!」
肩に留まった鳥に文句を言うが、自分以外立ち入らない場所だ。その線も捨てきれないと、
「まあ、いいか」
軽く流してそんなこともあったなと数日たつとすっかり忘れて行った。
そして、すっかり忘れた数日後に。
「また、抜いてある……」
ここの薬草は薬草と呼んでいるが木のようなもので葉を付けていくのでちょうどいい大きさの葉を切り取って使用している。それがごっそり抜き取られているのだ。
「以前、魔物が入り込んで薬草を荒らしてたわよね……」
《それ対策でレンガの壁作ったよな》
今度は地中から来たのだろうか。モグラの姿の魔物はそんなことをしてくるものも居る。
「…………」
何か対策を考えようととりあえず魔物除けのスプレーでも散布しようと材料になりそうなトウガラシなどを収穫しておく。
だが、そんな事件はたびたび起きて、商品になる薬草にここまで被害が出ていたらおちおち薬品作りもままならないとしばらく薬づくりを休んで薬草園を見張ることになった。
見張って数日たった時に、犯人を見付けた。
まさか人間だった。
《おいっ、これやばくねえか》
肩に留まっている鳥が慌てたように声を上げる。
「ゆっ、許してくれっ!! 妻が薬草を欲しているんだっ!! 妻が妊娠して、つわりで食べれる物が無くて……」
《妊娠中かよ……。やばいな……》
鳥の言葉に同意をして、見逃してやる代わりに子どもが生まれたら子供を渡せと条件を付けた。そして、もう二度と関わるなとも。
「せめて、転売をしているのならまだましだったのにね……」
《おいおい、それだと何か問題が起きたらお前が魔女狩りで殺されるだろうがっ!!》
そんな風に気を使ってくれる鳥とともに新たな場所でやり直しをしている。
ちなみに薬草園も以前の住処からすべて撤去した。
畑ごと転移して、それでも運びきれないものは勿体ないが焼き尽くして消し去った。
今は人が来ない無人島でのんびりと欲しいものがある時だけ転移で買い物をしている。
「おいっ」
「鳥の魔物」
無人島なら鳥の姿に擬態しなくていいなと両腕から羽が生えている青年の魔族が声を掛けてくる。
「あの養い子。死んだぞ」
「あら、思ったより長生きだったわね」
あれから何年たっただろうか。
「お前の残していた薬があったから生き存えていたようだぞ。妊婦が飲んではいけない成分が含まれている薬草を食べたせいでいつ死んでもおかしくなかったのにな」
「………………」
「恩を仇で返すってことはまさにこれだな」
本当なら生まれてすぐに死んでもおかしくないほど影響を受けていた。だけど、赤ん坊をもらって治療に専念して環境にいい場所で療養させた。
だけど、そんな事実を知らずに外に憧れて、外に出ていった。
「薬草は使い方を間違えると毒になる……両親の罪の形が子供に出てしまったのにね」
体調が急変したのは塔から出て半年が過ぎた頃。慌てて塔に王子が向かい、僅かな薬を手に入れて城勤めの医師と協力して延命したそうだ。
それでも、3年もたなかった。
「――泣くなよ」
そっと背中を擦られる。
「泣いてないわ……」
先に拒んだのはあの子だ。それに、そんな事実を赤ん坊をもらう時に説明して契約したのに破った両親も悪い。
だから、気にしていないと言いつつもその慰めるぬくもりに声にならない嗚咽をこぼしたのだった。
ちなみに母親も薬草の影響で身体が弱っていたりする