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TSした親友がヤンデレ化しました  作者: 如月
第一章 TSした親友が大変です
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008 再・二人の朝

「んー。ふわぁ~。」


 茶色と白で構成されて随所が整った部屋で蓮は目を覚ました。あくびを漏らした蓮は眼を手でこすりながら、きょろきょろと辺りを見渡す。物は多くなく、一つの作業机と椅子。大学時代のものであろう本が本棚に収納されていた。

 クローゼットの近くにはスーツ掛けがあり、カバンと共にスーツもかけられていた。ベルトもズボンから外されており、生真面目な性格であろうことが伺い知れた。蓮はその部屋の構成が自身の部屋と異なることをぼんやりと考えていたが、一つ瞬きをするとどうしてかを思い出した。


「ここは……。あっ、そうだ。ニヘヘヘヘ。」


 蓮はすっと自身の引っかかりのない腰まで伸びる美しい髪を愛おしそうに撫でる。それはまるで恋人に触れられたところをまた、なぞるように確かめる仕草であった。少しばかりの時間撫でていたが、満足したのかベットから立ち上がり、部屋の外へと向かった。

 蓮の向かった先は当然のように智之のところである。布団があると言っていたのにも関わらず、ソファーに寝ている智之にしかし、蓮は特に文句は言わず、むしろ嬉しそうに口元をだらしなく緩めた。


「ニヘヘ。起きてる、かな?寝ててほしい、かも?……おはよ。」

「すうすう。」

「ニヘヘ。寝てる。」

「すうすう。」

「ニヘヘ。起こすため、仕方ない。仕方ない。ニヘヘヘヘ。」


 蓮は仕方ないと言いながらそっと智之に近付いていく。そして、智之の顔の近くで膝立ちになると髪の毛をわしゃわしゃと撫でていく。そのまま顔の輪郭に合わせて、智之の頬を撫でるように、手を触れさせる。

 智之を感じるたびに際限なく蓮の口角が緩んでいく。そして、より密着できないかと思考が転がっていく。勾配が急な坂のようにより過激に、より自身の欲望に沿ったようにころころと変化していく。


「すうんっ。」

「ニヘヘ。起きないともっと凄いことしちゃう、よ?」

「すうすう。」

「……。それは、起きてる時がいいかな。だから……。」

「すうすう。」

「ちゅっ。ニヘヘヘヘ。ニヘヘヘヘ。」


 智之の口元を見ていた蓮は徐々に顔を近づけていたが、何かしらを思い直したのか、さらりと額にかかった髪を払うとずいっと顔を近づけていく。それでもなお規則正しい呼気を漏らすだけの智之の額に、蓮はいよいよ瑞々しく照る唇をそっと触れ合わせた。

 ふわりと髪からのぼる汗の含んだ匂いを蓮は感じ、そして額とはいえキスをしてしまった事実に酔い、目が虚ろにぼんやりと宙を彷徨った。人生の絶頂かのように幸せそうな蓮の笑みはどんな人間が見ても魅了してしまうだろう蠱惑さがあった。


「すうすう。」

「ねぇ、起きて。」

「んっ、あー?」

「智之、起きて。朝だよ~。」


 蠱惑の笑みを浮かべていた蓮は少しした後で我にかえると、寝ている智之の耳に艶やかな唇を寄せると、甘えたように言葉を紡いだ。寝ているとはいえその耳に心地よく、頭の中に響く声は智之を徐々に覚醒させていく。

 蓮は寝ぼけたような声を出して起き上がろうとする智之の身体を甲斐甲斐しくも支え、耳元で覚醒を促すように言葉を発した。その声により智之の頭は急速に覚醒に近づき、頭を反響する言葉を咀嚼しながらぱちりと瞬きをした。


「ぁあ、……おはょ。」

「ニヘヘ。おはよ。」

「……。」

「ニヘヘ、ほら、顔洗わないと、ね?」

「ぅん。」


 肉体の母性本能か、蓮はぼんやりと宙を見上げて舌足らずな口調で返す智之の言葉に、胸の奥の方がきゅーっと締まり、ときめくのを感じた。胸の中を締める感情は純粋に一つだけであった。

 可愛い。

 それ以外の感情はなく、先ほどの悪戯してやろうだとか、自身の欲求に元ずく感情なんてものの一切が締め出されていた。思わず自身の胸に智之の頭を抱きかかえようとして、はたと動きを止めて、無理に衝動を抑えた。




「ニヘヘ。起きた?」

「ああ、悪いな。朝弱くて」

「うんん。いい、よ?……何なら、もっと。」


 智之は顔を洗い、少しばかりぼんやりとしながらも頭が働いてきたのか、舌足らずな口調は鳴りを潜めていた。それに対して蓮は勿体ないように、残念なように口の中で一つ呟いた言葉は幸いと言うべきか、智之の耳には届かなかったようだ。


「ん?」

「ん?今日病院行く日だよね。」

「……?シャワー浴びたいだろ。こっちも出かける準備しとくな。」

「ニヘヘ。うんっ。」




「ふぅ。特になにも変らないか。夜はなんだか変な空気になってしまったし。はぁ。本当にどうしたものだろうか。っと、着替えるか。」


 蓮が去っていった後に息を吐いた智之は先ほどよりも幾分か落ち着き、警戒心を解いたようであった。そうすると眠気からか少し頭がぼんやりとしてきて、慌てて頭を振って自身の寝室に服などの準備をするために向かった。


「すん。っん、くっ。そうだよな。それはそうだ。喚起しないと。」


 智之が部屋に入るともわりと花のような甘ったるい香りが立ち込めた。その匂いを思わずと言った様子で智之が嗅ぐと、その匂いの濃厚さに頭をくらりとする感覚を襲ったが、その匂いが何をもとにしたものか理解すると、頭を振り正気を取り戻そうとする。換気のために窓を開けるとじめっとした湿度の高い空気が部屋に入ってくる。

 ふと、智之がベットに目を向けると長いアイスブロンドの髪も毛が一つ落ちていた。枕は少し頭の形に凹んでおり、そこに確かに頭があったことが見て取れる。その枕を智之が手に取ったかと思うと、鼻を一つ鳴らした。


「……。すん。……ちっ、はぁ、これじゃああいつと変わらないじゃないか。」


 その行動は無意識のもので頭が完全には回っていなかったからだろう。それだからこそ、はたと行動を止めた。それから自身の行動の意味を思考していた智之は悪態とため息を一つ吐くのであった。




 一方で蓮はと言えば一つのものに釘付けになっていた。それはそう、洗濯物である。洗濯物籠の中には無造作に服が入れられており、重なった服の隙間から下着も見えていた。蓮は思わずと言った様子で、ごくりと喉がなり、その音にぶんぶんと頭を振った。


「……。」


 が、気の迷いは消えてはくれないようで、蓮は大好物を前にしたかのように口の中には唾液が少しずつ溜まっていく。じっと見る視線は下着に固定されており、心なしか目がぐるぐると回っているようにさえ見えるだろう。

 また一度唾液を飲み込むとはぁ~、と尋常でない熱が込められた息が漏れて、身体全体が湯だったかのように熱を帯びていることに蓮は気が付いた。流石にこれ以上はまずいと思ったのか、非常に、非常に名残惜し気に服を脱ぎ風呂へと入っていく。その時も視線は固定されたままであった。


「……うー。」


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