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TSした親友がヤンデレ化しました  作者: 如月
第二章 TSした親友がヤンデレになりました
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016 重なる手と手

 ハロウィンの夜、特別な日は終わったかに思われたが、まだ時計の針は12時を回っていない。蓮は智之の寝室の前に立つと、扉をコンコンと二回ノックする。


「……。」

「……もう寝ちゃった?」

「……。」


 部屋の中からは智之の声が返っては来ない。蓮は首を傾げながら再度扉を叩くも、反響するノック音が返ってくるだけで、また声は返って来ない。


「入っちゃうよ。……起きてるじゃん。」


 ガチャリと音を立てて簡単に開いた扉の奥、ベットの上では上体を起こした智之がおり、蓮と智之の目が真正面から重なり合った。


「まぁ、な。……どうしたんだ。」

「寂しくなっちゃって。」


 歯切れ悪く言葉を返す智之は蓮から静かに一度目を離すと、目をもう一度見つめ合わせる。暗い寝室の中で黒い智之の瞳には何が映っているのか定かではないが、口元には欠片も笑みはなく、無が顔に張り付いている。

 そんな智之に蓮は特に怯んだ様子もなく、照れたように頬を朱に染めると頭に片手を乗せて、軽い調子で言葉を口にした。


「はは、昼間は騒がしかったからな。」

「ニヘヘ。ね……。」

「……。」

「……。」


 智之はピクリとも動かぬ表情のまま声だけで笑い声をあげる。そして、俯くように顔は下に下げられて、蓮からは智之の表情が一切伺えなくなる。

 蓮は努めて明るく笑い声をあげるが、その語尾は段々と萎んでいった。二人の間には奇妙な沈黙が包み込み、居心地悪そうに蓮は身を捩った。


「俺はもう寝るぞ。」

「……一緒に寝ちゃダメ?」


 智之は蓮の様子を知ってか知らずか、顔を下に俯かせたまま、ただ声だけを出した。

 蓮の甘えるような声にも智之は顔を上げることはなく、いつにない智之の態度に蓮は狼狽えるように半歩ほど後ろずさった。


「分かっているだろ?」

「むぅ。それは答えてないよね。」

「……。」


 蓮は答えになっていない智之の回答に不満げに頬を膨らませる。そして、後ろずさった足を今度は一歩前に踏み出して、問い詰めるように鋭い視線を智之へとやった。


「ね、どうなの?」

「ダメだ。」


 当然、智之の回答はいつもの通りの拒絶である。端的に告げられた言葉は蓮の心に響き、うっといううめき声をあげさせる。だが、そんなものでへこたれる蓮ではない。


「……どうしても?」

「……。」

「ニヘヘヘヘ。いいじゃん、今日くらいは。」

「はは、そう言っていつも来るようになるんだろ。」


 蓮は智之の方へとじりじりとにじり寄り、ベットの片隅に立つ。そして、悲し気な声と共にそっとベットに手を乗せて、智之の顔を覗き込む。

 智之の顔には何も感情は覗いていないようだったが、確かに耳は朱に染まっていた。それを見取った蓮は嬉しそうに頬を緩めると、調子を取り戻したように軽い調子で言葉を吐いていく。


「ニヘヘ。ばれちゃった?」

「ふっ。……今日だけだぞ。」

「うん。今日だけ。」


 蓮がてへっと舌を出すと、智之は思わず笑みを零してしまう。そして、毎度甘いことで結局蓮のおねだりを聞いてしまっていた。




 しんと静まり返る智之の部屋で二人は同じベットの上で背同士を向け合い横になっていた。


「ねぇ、起きてる?」

「……。」

「起きてるんでしょ、分かってるよ。」


 蓮の声は静まり返った部屋の中によく響いたが、智之は言葉を返すことなく音もたてずに黙ったままだ。

 だが、蓮は寝ていないことを確信しているようで、ベットの上で寝返りを打つと智之の背に片手を乗せた。冬ということもあり、少し冷えた蓮の手は智之の背に存分に体温を伝える。


「……なんだ?」

「手。」

「は?」


 智之は観念したように声を返すと、続いて返された言葉に理解が出来なかったようで疑問の声をあげた。


「手、出して。」

「っ……、なんだよ。」


 智之は蓮の言葉の意味を理解すると、智之もまた寝返りを打ち顔と顔と正面から合わせる。思ったよりも近かった蓮の顔に驚きに眉を跳ねさせる智之だが、冷静を振舞い手を差し出した。


「ニヘヘ。」

「ちょっ……!!」


 その手を蓮は両手でぎゅっと握りしめて、己の胸へと抱え込んだ。

智之は蓮の豊満な胸に当たりそうになる手を慌てて引き抜こうとするが、思いのほか蓮の握る力が強かったのか、中々抜けることはなかった。


「ニヘヘ、いいでしょ。」

「はぁ、全く。これも今日だけだぞ。」


 智之はにこにこと正面から蓮に笑みを向けられ、またじわりと伝わり合う体温に達観したようにため息を吐くと、蓮の好きなようにさせた。

 仕方なさそうな態度をとる智之だが、そんな智之もまた蓮の体温を心地よく感じており、離し難い魅力を感じているのは確かであった。


「ニヘヘ、今日は特別な日だからね。」

「ああ、今日だけだ。」


 今日だけ。なんていう魔法のような言葉に二人は握っていた手を離して、また絡み合わせる。二人のは体温の違い、質感の違いを密着する肌から感じとり、それを強く感じようと痛いほどにその手を握りしめあう。


「ニヘヘ。」

「……。」


 握りしめ合っている手は緩まり、続いて指を一つ一つ隣の指と指の間に移動させる。途中、

手の平と手の平が完全に重なると、蓮はだらしなくその頬を緩ませて、その感触を堪能するように己の手を押し付ける。

 押し付けられる蓮の手を智之もまた押し返すように力を込めて、増々二人の手と手は密着して、お互いの存在の一つ一つまでも伝え合う。


「……。」

「……。」


 長いこと無言の時間が続くが、その時間の中で二人の手と手の動きは静かな空気とは反対に激しさを増す。

 手と手だけでは飽き足らず、手首、腕までお互いの手が触れ合わせる。お互いに触れれあった場所は神経が研ぎ澄まされたようで、布の擦れる感触でさえ敏感に感じ取る。


「……。」

「智之。」

「……なんだ。」

「おやすみ。」


 無言の空間で熱のこもった目を見つめ合わせる二人だが、ふと連が智之の名前を呼んだ。

 すると、智之は高まった体温を深い息と共に掃き出し、億劫そうに言葉を漏らす。そんな智之に蓮は眠る挨拶を言葉にした。


「……ああ、おやすみ。」


 そう言った後もお互いの手と手は二人の存在を確かめ合わせて、二人の体温を交換した。二人が完全に寝つくまでその交換は続いたのだった。

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