007 開かずの間
「そう言えば、この部屋には何があるの?」
二人が立つのは智之の趣味部屋である。智之は蓮となし崩し的に同棲をし始めてからはこの扉を開いたことはなく、蓮は一度も立ち入ったことがなかった。
「ん?あー、知りたいか?」
「えっ、ダメなの?」
「いや、ダメではないけど。別に知らなくてもいいことだからなぁ。」
智之は曖昧な笑みをその顔に浮かべる。そんないつにない智之の様子に蓮は驚きに目を見開かせて、こてりと首を傾げた。
蓮の驚いた様子にも智之は曖昧な態度を崩さず、あまり聞かれたくなさそう雰囲気を身に纏わせていた。
「えぇ、逆に怖いんだけど。幽霊物件とかじゃないよね。」
「ははは、それはないから安心してくれ。」
蓮はぶるっと身体を震わせて自身の身体を抱くと、その顔を青ざめさせて恐ろしいものを見るかのように扉へと目を向けた。
蓮の大げさな反応に智之は思わず笑みを零すと、いつも通りの雰囲気に戻った。
「どうして渋るの?」
「……恥ずかしいから?」
「なぜに疑問形。教えてよ、ね?」
「まぁ、いいか。」
蓮に純粋な表情で問われた智之はふいっと顔を背けると、頬をポリポリとかいた。そして宙をいくらか見た後、言葉を漏らした。
蓮はそんな智之の様子に好奇心を抑えられないようでにまーと笑みを浮かべると、腕をくいっと指で引っ張った。
「……?」
「どうだ?」
「別に変なものないね。」
ガチャリと音を立てて開いた扉の先には特にこれと言って特徴のない殺風景な部屋があった。壁際には茶色の大きな机と一つ椅子が置いてあるくらいで、それ以外はクローゼットなどそれくらいしかない。
「ははは、表面上はただの部屋だからなぁ。」
「うん。」
「こっち、……よっと。」
智之がクローゼットの方へ歩いていくと、その後ろを不思議そうな表情のまま蓮は着いていく。
「わっ!!」
「これがこの部屋の正体。」
「可愛い!!」
扉を開けるとそこにはファンシーな空間が広がっていた。熊や犬、兎など様々な動物であしらわれたぬいぐるみが十数体置かれていた。
そのぬいぐるみたちを目に入れた瞬間に蓮は大きく歓声をあげた。そしてきらきらした瞳でぬいぐるみたちを見つめている。
「ははは、それはよかった。」
「これどうしたの?」
「作った。」
「え……?」
蓮の反応に智之は何処か微妙な表情を浮かべながらもにこやかに笑い、蓮の質問に淡々と言葉を返した。
智之の言葉に蓮は鳩が豆鉄砲を食ったように目を点にする。
「だから、作った。」
「誰が……?」
「俺。」
「智之が……えぇえええええ!!」
智之のあまりに意外な言葉に蓮は大きな驚きの声をあげる。
「ははは、やっぱり驚くよな。」
「それはそうだよ。こんな可愛いものを智之が……。」
「あはは、褒めてくれるのは嬉しいが……そんなに信じられないか?」
「うん。というか、もっと前に教えてくれてもよかったじゃん。」
意外過ぎる事実に蓮は困惑を隠すことなく、智之と会話を続ける。その顔には負の感情はなく正の感情しかない。
それでも智之は気まずそうな、不安そうな表情をその顔に浮かべていた。
「いやー、別に言うほどのことでもないしなぁ。……それにあまり男らしくないというか、だろ。」
「えぇ、僕が智之の趣味を否定するわけないじゃん。心外だよ。」
「……あはは、そうだな。すまなかった。」
智之はとうとう自身の感情を吐露すると蓮はその言葉に眉を顰めて、不機嫌そうな声を出した。その蓮の言葉に心の底から笑みを零した智之は蓮と目を合わせると頭を下げた。
「ん、いいけどね。それでいつから作ってるの?」
「んー、中学からだった気がする。家庭科の授業で裁縫があって、そこから?」
「そうなんだ。それにしては完成品の数が少ないような。」
「ああ、実家に置いてあるのと、最近作っているものは売っている。」
素直に謝った智之に蓮はにこりと笑みを浮かべると、目を合わせて穏やかな表情で話を聞いていく。
「売っている……!?」
「ん、ああ。公園とかでフリーマーケットが開催された時に売ったりしてる。」
「ほ、ほー、凄いね。」
蓮にとってはもう常識の埒外であった。自身でぬいぐるみを作るのもそうだし、それを売るなど到底発想になく、そのことに驚き以外の感情を持てない。
「ははは、買ってくれる人がいたりで、嬉しかったりする。」
「本当にすごいよ!!」
「あはは、ありがとう。」
蓮は驚きの顔を尊敬に変えるとその場を飛び跳ねながら智之を褒めたたえる。そんな蓮に智之は照れくさそうにしながらも、嬉しそうに笑いお礼を言う。
「ん-、でも売っているのかぁ。」
「どうしたんだ?」
「可愛いなぁと思って。」
蓮がちらりちらりとクローゼットの方へともの欲しそうな眼を向けている。だが、売ると聞かされると貰うのは憚られて、欲しいとは直接的に言えない。
「蓮にならいくらでも作るけど?」
「えっ?いいの?」
「あ、ああ。いつも世話になっているしな。」
「ニヘヘ、嬉しい。ありがと……!!」
智之は蓮のもの欲しそうな目に苦笑すると、軽い調子で言葉を掛ける。すると蓮は目をきらきらと輝かせて智之の方へと向けた。
智之は蓮の様子に若干身体を引きながらもつくるのは叶わないようだ。そんな智之に蓮は満面の笑みを浮かべると、飛びついて正面から抱き着く。
「だー、だから抱き着くなって。」
「ニヘヘいいじゃん。先払いだよ。」
「先払いも何も、蓮からは何も取らないから。」
「気持ち気持ち。」
智之は蓮を引き離そうとするが、ぎゅっと力いっぱい抱き着く蓮を引きはがすことは叶わない。無理に引き離そうとしてけがをさせるのを怖がり、力を入れられていないというのもあるが、つくづく甘い男だ。
「全く。」
「ニヘヘ。」




