005 屋内型複合レジャー施設にて2
保之と蓮はサッカーでの勝負後も様々な場所で対決を繰り返した。そんなことをしているうちに時計の針は周り、十二時になった。
二人はカラオケにやってきており、飲み物を片手にソファーへと腰をおろした。
「遊びながら食べれるのっていいね。」
「ははは。これでこそって感じだな。」
「さっそく色々頼んじゃうね。」
「ああ、頼んだ。」
蓮が注文をし終わると注文の品が届くまでは歌う時間である。さっそくとばかりに蓮は歌をぽんぽんと入れていく。
「ふっふっふっ。」
「な、なんだ!!」
突然、蓮は目を瞑り低い声で不敵に笑いだした。そんな蓮に合わせるようにこれ以上なく目を広げて、大げさに驚いてみせた。
「貴様に聞かせてやろう!!男の時には歌えなかった領域の歌を!!」
「な、何ぃ!?」
「ふはーはっはっはっ。」
智之が乗ったことにいい気分になった蓮は席から立ち上がると、びしっと智之へと指さした。そして、腰に手を当てると天を仰いで高笑いを始めた。
カラオケのディスプレイに表示されているのは人気アイドルグループの楽曲である。
「って、アイドルソングかーい。」
「ええやん。アイドル好きだったしね。」
「ははは、そうだったな。男では高い音域は出ないからなぁ。」
「そうそう。意外と楽しみにしてたんだっ。」
蓮がノリノリに振付まで完コピして歌いきると、辺りはしーんと静まり返る。拍手もなく、歓声も、感想もない部屋に蓮は寂し気に智之を見ると、にたりと笑った。
「ふふふん。どうだった?」
「……。」
「おーい、智之?」
蓮が声をかけても智之はぼーと無反応であり、どこか熱に浮かされたように宙を見つめている。正しくは先ほど蓮が踊っていた空間を、か。
どや顔で鼻をならしていた蓮はいくらかしょぼんとした空気をその身に纏わせて、智之の眼前で手を上下に振るった。
「……えっ、ああ、よかったぞ。」
「ニヘヘ。ま・さ・か、見惚れちゃった?」
「……見惚れてない。」
ようやく蓮に反応を返した智之だが、やはりと言うべきか普段と違って少し歯切れ悪くどこか上の空である。
そんな智之をにたりと笑った蓮は口元に手を当てて、わざわざ下から覗きこむように座り込んで智之を見た。
「えぇ~、嘘だぁ。」
「って、どうして踊れるんだ?」
「案外振付覚えてたみたいだね。」
まだにやにやと笑う蓮を無視して智之が当然の疑問を口にすると、蓮はけろっと表情を戻してその理由を口にした。
「さて、もう一曲いくよ~!!」
「いやっ、アイドルかよ。」
「ニヘヘ。今日は君だけのアイドル、だよ。見惚れさせてあげる。」
蓮がいつもより一段階高い声で声をあげると、拳を天へと振り上げた。そんなテンションの高い蓮に智之が言葉を漏らすと、蓮は惚れ惚れするような笑みで智之へウインクを一つ送る。
思わぬカウンターを貰い智之は言葉に詰まってしまい、その間に次の曲が始まった。
「~~~~~♪」
蓮の妙に熱のこもった瞳と声で好き、大好き、愛していると言われるたびに智之はぼうと蓮から眼を離せなくなる。
熱のこもった声で好きと言われるたび勘違いする。好き、大好き、愛してる。その言葉が本当のようで、自分だけに向けられているようで。
「~~~~~♪」
今だけは私を見て、目を離さないで。そんな言葉と共にウインク一つ送られるだけで見惚れてしまう。踊っているからだろうか、蓮の頬が赤く染まっているものだから、その感覚はさらに鮮明に智之へと伝わる。
「~~~~~♪」
ちゅっというリップ音と共に投げキッスが送られて虜になる。歌詞を見ないで歌う蓮の視線は自然と智之の視線と絡み合い、お互いに妙に熱のこもった視線を交換し合う。
「~~~~~♪」
もう笑みを見るだけで何も考えられなくなる。私だけを見て、今日だけだから、好き。そんな言葉の数々が悪魔の誘惑のように智之を襲い、片時も目を離すことを許さない。
「ニヘヘ。どうだった?」
「あ、あぁ、よかったよ。」
蓮がついに歌い終わるが二人の熱い視線は交わったままだ。視線を絡み合わせたまま頬を染める蓮がだらしなく笑みを浮かべる。
すると、智之はごくりと一つ生唾を飲み込み、緊張したように震えそうになる声を必死に抑えて、言葉を紡いだ。
「ニヘヘヘヘ。ちゃんと見惚れてくれた?」
「あ、ああ。……いや、見惚れてないし!!」
「ニヘヘヘヘ。」
「見惚れてなんかないんだから、勘違いしないでよねっ!!」
「ニヘヘ。嬉しい。」
見惚れているなんて素直に言うことはできないから、でもネタ交じりなら言えるから。
それは見惚れているといっているに等しく、その言葉に蓮は蕩けるような笑みを浮かべると粗くなる呼吸を鎮めるようにほうと熱のこもった息を一つ吐いた。
「っ……。次、俺が歌うからな!!そっちこそ見惚れさせてやるよ。」
「……うん、もっと見惚れさせて?」
「っ~~~~~!!」
智之は蓮の漏らした呼気から熱を感じ取り、その妖艶さに息が詰まる。が、次には元通りの智之を演じてどうにか席を立ちあがり、マイクを受け取ろうと蓮の方へと近づく。
じっと智之の行動を見ている蓮はマイクを渡すときにそっと智之の手へと自分の手を触れさせて、ぐいっと身体を寄せると智之にだけ聞こえるようにぽつりとと言葉を離す。
そんな蓮に智之は声にもならない声をあげて、ばっとマイクを奪い取るように受け取ると、身体を離した。




