001 ある同棲生活での一幕
これはなし崩し的に始まった二人の同棲生活での一幕である。
「んん。……もう朝か。」
窓から照らされる光で智之は目を覚ました。そのまま再度眠りにつきそうになる頭をどうにか起き上がらせて、瞼を手でこすりながら部屋を見渡せば、段々と意識が覚醒していく。
「あっ、智之起きたんだ。おはよう。」
「ああ、おはよう。いつも早いなぁ。」
当然のように智之の部屋にいる蓮に対してはもう慣れた様子で、最初の頃に言っていた文句も最近ではなくなり、普通に挨拶を交わすようになってしまっている。
その蓮は朝部屋に入って何をしているかと言えば、智之の寝顔を覗いたり、写真におさめたり、手を触ってみたりなどそれ以上のこともやりたい放題である。
「ニヘヘ。食事の準備しなきゃだから、ね。」
「いつも助かっているよ。……でも、無理しなくてもゆっくりしてていいんだぞ。朝なんて食べなくても何とかなるし。」
「無理なんて、そんな事ないよ。好きでやっていることだから。それに朝はちゃんと食べなきゃ、だよ。」
智之は申し訳なさそうに眉を下げて、蓮に気遣う様子を見せるが、蓮はぴんと人差し指を立てる。そして、智之に向けて少し頬を膨らませると、唇を少し尖らせて智之に小言を漏らした。
「あはは。ありがと。」
「ニヘヘへヘ。そうだっ、今日はずっと一緒にいられるんだよね。」
「まぁ、仕事が休みだからなぁ。」
可愛らしく小言を漏らす蓮に思わず智之は笑みを浮かべてしまう。そんな智之に釣られるように蓮もその頬をだらしなく緩めて、ぐいっと身体を智之の方へと寄せて、キラキラした瞳で智之を見た。
「ニヘヘヘへ。」
「そんなに嬉しいか?」
「うんっ。一日中智之といられるんだもん。……智之は嬉しくない?」
頬を床に落としそうなぐらいに緩めている蓮に智之は苦笑をしながら問いかけると、蓮は満面の笑顔を浮かべて返事を返すが、途中で不安になったのか瞳を涙で潤ますと首を傾げて智之の目をじっと見つめた。
「えっ、ああ、嬉しいぞ。」
「ニヘヘ。ん、ならよかった。」
「あはは。」
どうにも蓮の涙に弱い智之はあわあわと手を振りながらも、蓮の瞳を見つめ返してにこりと笑みを向けた。
その智之の返答に蓮は少し目を伏せるとはにかむように笑い。くるりと智之に背を向けてしまう。蓮のアイスブロンドの髪から赤く染まった耳が智之の目には見え隠れしていた。
智之の家のダイニングにはご飯、味噌汁、焼き魚とが並べてあり、智之の部屋全体に食欲誘う香ばしい香りが広がっていた。
智之のお腹からぐーと音が鳴ると、二人は見つめ合い笑い合った。そして、舌鼓を打ちながら朝食を食べる。
「今日は出かけたりしないんだよね。」
「そのつもりだったけど、どこか行きたいところでもあるのか?」
「ん-、ないよ。智之と二人でゆったりしたいなぁって、ニヘヘ。」
「そ、そう。」
朝食の途中で今日の予定の話に切り替わる。蓮はぶらぶらと床に付かない足を揺らしながら、智之に問いかける。すると、智之も朝食から蓮へと視線を移すと箸を宙で振りながら言葉を紡ぐ。
蓮には特に行きたいところがあったわけでないらしく、とにかく智之と一分一秒でも長く時を過ごしたいだけであったらしい。
「あっ、ご飯粒付いてるよ。」
「ん?」
智之は左手で自分の左頬に触れるとついているだろう米粒を探すが、一向に見つからない。
「ニヘヘ。反対だよ。」
「ああ、こっち。」
智之の様子を見つめていた蓮は口元に手を添えるところころと笑い、自身の右頬をつんつんと指で指示した。
智之は左頬を探っていた手を右頬へとずらして米粒を探すが、やはりいくら探っても全然見つからない。
「そこじゃ……。もうっ。」
智之が米粒を取れないでいると焦れたように蓮は机を乗り出して智之へと身体を寄せていく。そして手をそっと伸ばすと智之の頬を少しかすめる。頬を撫でるように触れていた蓮だが、はっと我に返って米粒を指で掴み、身体を離した。
「これ。……ん。ニヘヘ。」
「あ、ありがとう。」
蓮は米粒を見せるように智之へと指を突き出した。その後、何を思ったのかじっとその米粒を見つめていると、次の瞬間に指ごと口にぱくりと加えこんでしまう。
智之は頬を緩ませて笑っている蓮を困惑した様子で眺める。
「ニヘヘ。もう仕方ないなぁ。」
「あ、はは。」
「智之は僕がいないとダメだね。」




