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TSした親友がヤンデレ化しました  作者: 如月
第一章 TSした親友が大変です
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021 二人並ぶ夜

 旅館に帰ってきた二人の間に寒々とした空気はなく、普段通りの空気が流れていた。何の緊張感もなく、心地悪い空気が流れているわけでもなく、いつも通りで親友としていた時の穏やかな空気。空元気もなく、誤魔化すこともなくいつも通りだった。


「ニヘヘ。花火綺麗だった、ね。」

「……ああ、綺麗だった。」

「また来たいなぁ。」


 きらきらと目を輝かせている蓮を見て普段通りに微笑む智之。蓮のぎゅっと身体の前に握った手は震えることなく、普段通りであまりに普段通り過ぎる二人が空恐ろしく、二人がお互いに少しの違和感を感じていた。

 お互いの自覚が進み今日という日の花火大会の時、二人は確かに何かが変化したこと事をお互いに感じていただろうが、その変わったという事実に熱はなく、ふわふわと宙を舞っているようで現実味がなかった。


「ははは、来年きっとな。」

「ニヘヘ。うんっ。約束、だよ。」

「ああ。約束は守らなくちゃ、な。」

「ニヘヘヘヘ。」




 寝巻に着替えた二人はぴたりとくっついて引いてある布団に何も触れることなく、それが当然であるかのように普段通りの空気感のまま、共に布団に潜り込む。蓮が智之の方へ顔を向き、その氷のような蒼い目に色なく智之を見つめる。


「……ねぇ。」

「なんだ?」

「……今日、寝たくないな。」


 普段通りの空気もしかし、変えようと思うものがいれば簡単に変わってしまうものだ。普段の喜怒哀楽で激しく色を変える蓮の眼は対照的に一切の色が抜け落ちたように色がなく、無であった。

 蓮の布団から伸びた手は簡単に智之の手を掴み、蓮の温度が智之に移っていく。温度をなじませるように二人の手は離れたり、繋がれたり、絡められたりする。二人の手だけがお互いの温度を混じり合わせ、繋がる。


「……今日の感想でも語り合うか。」

「……ニヘヘ。そうだね。今日、楽しかったもんね。」

「ははっ、終わってしまうのが寂しくなるよな。」


 智之は蓮の方へ眼を向けるわけでもなく、天井を見上げるように見つめていた。混じり合う手とは違い目は合うことなく、意図も伝わりはしない。意図を読もうともしていない。手と手は繋がり、この瞬間にも二人の熱を馴染ませて、混じり合わせている。


「ニヘヘ。」

「ははは、勝負に全勝しちゃったしな。」

「むぅ、ひどい。……本当に酷いよ。」


 湿度が急激に上がる。かっと蓮の手の温度が上がり、絡め合うように繋がれた手は離れず、じわりじわりと手から身体へと熱が伝わろうとする。しかし、身体は冷えて固まったかのように固定されたままだった。

 蓮の濡れた様な声に、しかし瞳と顔は変わらず色は映さず、元から何もないかのように無であった。智之も智之で頭上を見つめるように顔が固定し、何も変わることはない。


「……。はは、そんなに勝ちたかったのか?」

「ニヘヘ。」

「また今度、スポーツでもしよう。」

「スポーツ?」


 からっとした智之の声は場の湿度を変えるほどの力はなく、じわりじわりと熱は移り続ける。手は絡まり、お互いの存在を確かめるように指と指を絡ませる手を隣りへとずらし、また戻すを繰り返している。


「どこか運動に行くって約束したろ。」

「んー?……初日の話?」

「そうそう。」

「ニヘヘ。覚えてたんだ。」


 智之は天井を見ながらも、蓮がいつも通り口元を緩ませているのが容易に想像できた。手の熱は移り続け、完全に混じり合うように同化していく。蓮の手は初日、実際のところは二日目だが。どちらにせよ、覚えていたという事実に熱を上げる。


「当然だろ。……全部覚えてるよ。」

「ニヘヘ。嬉しい。待ってるよ。」

「ははは、悪いな。」


 蓮の熱を上げた手に追従するように、智之の手の熱も上がる。じわりと上がっていく熱に二人はお互いの熱を混じり合わるのを速めるように、手の平と平を密着させる。密着させて絡められる手は余すことなくお互いの手の熱を混じり合わせる。


「ニヘヘ。いいんだよ。あまりに遅いと僕が誘っちゃうからね。」

「ははっ、それは困るなぁ。やっぱりこっちから言わなきゃなぁ。」

「ニヘヘヘヘ。……待ってるから、ずっと、ずっと。」


 熱の完全に混じり合った手ではお互いの熱を交換することはできない。変わることのない熱はお互いの熱がどうだったか、どうなっているかを確認する術はなく、熱だけは完全に一体化している。


「あ、ああ。」




「......ねぇ、起きてる?」

「......。」

「やっぱり気持ち悪いって思うよ、ね。」


 蓮の泣きそうな声と諦めの混じった声が智之の耳を震わす。絡まれた智之の手は蓮の手を逃さないように少し冷えた手を熱で包み込む。じんわりと熱が馴染んでいく感覚に蓮は酔いしれ、熱が移りきるころには少しずつ熱が上がっていく。


「......。」

「分かってるんだ。おかしいってことは。でも......。」

「......。」

「ね。贅沢は言わないから、だからずっと側に居させてよ。ね。」


 今度は蓮の手の熱が智之の手の熱とじんわりと混じり合っていく。熱で生じた二人の汗さえも混じり合わせ、二人の熱と熱を交換する。二人の手と熱は変わらず二人の絡まれた手の中にあり、熱は一体化している。


「......。」

「......。絶対に離さないから。嫌だって言っても、ずっとずっと一緒だから。一生逃してあげない。」

「......。」

「なんて、ね。......ニヘヘ。」


 混じり合って絡まった手は同じ熱で、これ以上熱を混じり合わせることも、熱を伝え合わせることもない。天井へと顔を向け目を瞑る智之では蓮がどのような色を目に浮かばせているか、顔をどんな感情で彩っているか分からなかった。


「......。」

「おやすみ。」




「......どうしろってんだよ。」


 智之は絡ませ合ったままの手の親指で撫でるように蓮の親指を触る。混じり合った熱では蓮個人の熱を感じることは出来ず、触り心地の違う肌というだけしか分からない。それもただ心地よいだけで、智之にはもうどうしたらよいかの答えなど出せず、困惑するのみだった。


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