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TSした親友がヤンデレ化しました  作者: 如月
第一章 TSした親友が大変です
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014 自覚

 蓮の家の玄関にこつんと扉に何かを当てた様な音が響く。その音に合わせるように蓮はそっと自身の頭を扉につけた。ひんやりとした扉の感触に目を閉じる。しばらくそうしていると扉が熱を持つ。その熱に勘違いなのは蓮も分かっていたが、智之と自分の心が通じているかのように錯覚してしまう。


「まだ、いるんだ。ねぇ、何を思っているの?何を考えているの?僕、全然智之のこと知らない。……でも、そろそろ色々なことが見えてくるから、安心。お互いに知らないことを無くさなきゃ、ね。ニヘヘ。」


 蓮は呟くような声でとりとめのない思考を言葉で紡いでいく。ふわふわと夢心地に智之のことを想い、蓮はその感覚に酔いしれる。心が通じているような錯覚は消え、ありもしない不確定の未来に想いを馳せていく。

 口元を緩ませ、少し冷めた酔いは蓮の身体を動かし、玄関から寝室までを確かに歩かせる。月の光以外ない薄暗い部屋は蓮の心をすっと冷ましていく。その感覚に身体まで冷えたように思い、蓮は肩に手を触れさせた。


「あっ、返しそびれちゃったな。また、今から返しに行けば一緒にいられる時間、増えるかな?でも、迷惑、だよね。迷惑、なのかなぁ。僕のこと嫌いにならない、よね?大丈夫。大丈夫、だよ。だって、親友だもん。ニヘヘ。」


 蓮は肩にかかった上着に心の中で智之のぬくもりを感じる。そのぬくもりを逃さないように床に座り込み上着を胸の中に抱いて、ぶつぶつと独り言を呟いている。蓮の勝手な想像に蓮自身が目から涙を零し、胸に抱えていた上着にぽつりと一滴、二滴とシミを作る。

 だが、次の瞬間には涙が止まり、明るい未来に目を虚ろにさせる。だらしなく緩ます口元から蓮の幸福に浸る様子がよくわかる。痛いくらいに上着を抱きしめた腕をふと緩ませ、そのまま上着を床に落とし、ベットの上に蓮は寝転がった。


「うー、でも、親友。いけないのは知ってる。おかしいのは分かってる。でも、仕方ない、よね。うん。仕方ない。仕方ない。だって、もうおかしんだもん。もう一つおかしくなっても一緒だよ、ね。」


 蓮は親友。という自身の呟いた独り言に機嫌悪そうに唸り声をあげる。親友という関係が満足できない様子で、親友を超える関係を智之に求めていた。蓮はいけない、おかしいと言いながらも本心のどこかでは普通のことだと思っていた。

 蓮の中では仕方ないというのは、おかしい状況だからから仕方ない。ではなく、自分がそうなるのが至極当然であるから、仕方ない。なのだ。おかしな状況でなくても、そうなることが必然だから、その必然は正常なことなのだ。だが、その本心に本人は自覚することなく、何事も仕方ないの言葉一つで片付けている。


「明日もまた智之といられる。明後日も、明々後日も。毎日毎日。これからずっと一緒だから。ニヘヘへヘ。」


 蓮は幸せな毎日を、未来を口に出し、想い一日は終わっていく。これからも仕方なく状況は変移し、仕方なく選択し、仕方なく自分の想う未来を望むだろう。蓮はいつまでも口元をだらしなく緩ませて、夢心地のまま夢の世界に旅立った。




 智之と蓮の家の真ん中にある公園は薄暗く、公園の街灯は時折消灯し、また点灯してを繰り返していた。街灯の下をチカチカと点滅する様は夜の公園の不気味さをより深くしていた。そんな公園の中で一人智之はブランコに座り、頭をうなだれていた。


「……どうすれば正解なのだろう。現状が正しいことでなく、おかしいのはとうに分かっている。でも、突き放せないよな。」


 智之の言う現状とは蓮の関係のことだ。毎朝起こしに来てもらい、行きを見送られ、そして帰りを迎えられる。夕食を共にし、風呂に入れては、家まで送る。そんな日々は当然に普通とはかけ離れており、おかしなことだ。

 しかし、おかしくても突き放せないでいるのが智之だ。突き放そうと少々抵抗しようとすると、会話の通じない返答や明らかにおかしい返答。そして、表情で、瞳で、態度で全力で蓮自身の感情をこれでもかと伝えようとする。それを拒む術を智之は持ち得ていなかった。


「不安な眼も、悲し気な眼も、恐怖に塗られた眼も。そんなの見たくないし、させたくない。解決策は、ある。でも、おかしいこと、なんだ。何でこんな発想になっているのか。」


 結局、蓮の感情に訴えられて突き放しきれないのは、智之の心の問題なのだ。その感情を突き放せていれば、今よりはおかしくない関係を築くことが出来ていただろう。その分、共に多く傷つき、苦しんだのは間違えないだろう。蓮が最も傷つくが、普通の範疇に留まれた。

 しかし、その選択をできなかった。今の関係を、それを作る環境をなぁなぁに流して、ふらりと状況の推移を見ていただけなのだ。傷つくのが、傷つけるのが怖くて何もできなかった臆病な一人、只の人間だ。しかし、それも仕方のないことだろう。勇気ある人間など、それこそ限られているのだから。

 今現状とれる解決策は後一つだろう。智之がただ蓮を受け入れれば済む。それをそう悪くないと思っている智之はだいぶ毒されているのだろうし、それを分かっていても悪くないと思ってしまっていた。今更突き放すと、それこそどうなるか分からないのだから。


「これもとうに分かっていることか。ははは、自分が嫌になるな。とはいえ、それが一番簡単で、確実な方法で……。それに……。……恋愛か。はっ。」


 こんな発想なのは最初からだ。最初から突き放せないのは親友だからか、それとも彼女の存在感に魅せられたからか。どちらにせよ最初から彼女なら、蓮という個人ならばそう悪くないとい想いが智之の心の中にはあった。

 その想いを自身で認めた智之は自嘲するように皮肉気な笑みを浮かべた。智之は心底自身のことを失望するかの如く、ブランコに最初からうなだれたままであった。

しばらく自嘲するような笑みを浮かべていた智之であったが、たんと地面を蹴り立ち上がった。


「こんな馬鹿なことを考えるのは自分が未熟だからだろうな。どちらにせよ、出来るのは現状維持のみ。DNA検査の結果と、病院の検査結果のどちらも揃えないと。それから、病院に行って医者に相談して、……うん。帰るか。」


 いつもの仏頂面を顔に張り付けて、足取りを確かに歩みだした。家へと続く道を一歩一歩確かに踏みしめて、智之の一日は終わっていった。


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