閑話.とある側近の憂鬱2
長めです。
初いいねありがとうございます(*´Д`)
(アイオライト視点です)
「ふぅ。とりあえずここまでにして、休憩しようか」
エメラルド王子が、ペンを置いて一息つく。
「そうですね、お茶を入れてきます」
立ち上がってお茶の準備をする。
ガーネット王子が婚約者探しにフルーツ国に向かってから、仕事が二倍になった。エメラルド王子も優秀なのでそつなくこなしているが、疲れが溜まるのはどうしようもない。
(せめてお茶菓子は甘いものを用意しよう)
お疲れ様な王子の癒しになるよう、甘めの菓子を用意してると、王子が引き出しから手紙を取り出して読み始めた…今朝早く届いたガーネット王子の動向を知らせるものだ。
「へぇ。兄上フルーツ国ついたそうだよ……あっはははははは!」
突然王子が、背もたれに寄りかかりながら、足をばたつかせて大笑いした。
「どうしたんですか?」
用意したお茶と菓子を王子の前に置くと、聞いてみた。
「男爵令嬢ってば、兄上の顔を見た途端、悲鳴上げて宿を飛び出したそうだよ…あははははは!」
ツボに入ったらしく、そのままちょっとの間笑い続けた。
「ハァハァ…あぁおかしい」
ようやく落ち着いた頃、ちょっと涙目になってた。
「落ち着きましたか?」
「うん………おや?」
手紙を読み進めてた王子の視線が、途中で止まった。
「どうしました?」
「兄上が、男爵令息を買収したそうだよ」
「おや」
ちょっと意外だった。
一緒に逃げる辺り、親子関係は悪そうだが姉弟仲は良さそうだったのに。
「令息が誘導して、今度はフラワー国に行くよう仕向けたらしい」
「フラワー国、ですか…」
「………」
王子が手紙を持ったまま、しばし考えこむ。
「…フルーツ国もいいと思ったけど、フラワー国は第一王子の死に場所として、もっと好都合だな」
「やっぱりそうなりますか…」
はぁ、とため息をつく。
「報告を聞くのも楽しいけど、実際に見る方がもっと楽しいだろうね」
そう言って、王子が立ち上がる。
「フラワー国に行く気ですか?仕事はどうするんです?」
「父上と母上に頑張ってもらうさ。兄上と未来の王太子妃の為と言えば、嫌とは言わないさ。一番の悩みの種だしね」
笑いながら手を振る王子に、ため息をつきながらついて行った。
「やぁエメラルド、久しぶりだな」
ジュエリー王国を出発して数日後、フラワー国に到着した。
早速ガーネット王子を訪ねたのだが…僕とエメラルド王子は唖然とした。
「あ、兄上…仮にも一国の王子が、どうしてこんな安宿に泊まってるんですか?」
そうなのだ。
ガーネット王子が泊まってる宿は、中流以下の庶民が使うような宿だ。いくらお忍びとはいえ、王子が使うような宿じゃない。
ところどころ破れかけたソファーに腰かけて、水みたいなお茶を飲むガーネット王子に眩暈がした。
「はぁ、やっぱり安宿の紅茶は口に合わないな。これなら水を飲んだ方がマシだよ」
そう言って、渋面でカップを遠ざける。
「あぁ、来客を立たせっぱなしも悪いな。まぁ座るといい…座り心地は良くないが」
そう言って正面の、同じく穴の開いたソファーを勧めてくる…立ってるのとどちらがマシか悩んだが、とりあえず礼儀に反するので、言われるまま座った。
「それで先ほどの質問だが…まぁ、男爵子息がしっかり者だという事だよ。旅費の三分の一を報酬として持って行った…」
天井を見上げて遠い目をするガーネット王子に、僕とエメラルド王子は開いた口がふさがらなかった。
「三分の一って…それじゃあ残りの三分の二は?それにコンクパール親子と、護衛の騎士達半数もいなくなってるけど、どこに行ったんですか!?」
エメラルド王子が聞くと、ガーネット王子が何でも無いことの様に答えた。
「パール達をこんなところに置いておけないだろう?愛する家族は守るものだ。護衛騎士共々、街の高級宿に泊まってるよ」
僕とエメラルド王子は、眩暈がして頭を抱えた。
(そうだった。ガーネット王子にとって『家族』は、弟のエメラルド王子と、母代わりに育ててくれた乳母のコンクパールと乳姉妹のパールだけだ。国王夫妻は『便宜上家族と呼んでるだけの他人』だ。いや、それはエメラルド王子もか…)
「何で一緒に…いや、旅費が足りなかったんですね。よくコンクパール達が許しましたね」
はぁ、と察しのついたエメラルド王子がため息と一緒に吐き出すと、ガーネット王子が笑顔で言った。
「もちろん許すはずないだろう?人数の関係で別の高級宿に泊まると言って誤魔化した。けどお前が来てくれたならちょうど良い、お前の宿に泊めさせてくれ」
そう言ってガーネット王子が立ち上がり、荷物を纏め始めるとエメラルド王子が慌てた。
「ちょっと待って下さい、それって宿代も僕に出させるって事ですよね?こっちも旅費が足りなくなるんですけど!?」
「何、全額出せとは言わない、こちらと折半だ。これで公平だ」
「兄上の尻拭いをする自体が公平じゃないでしょう!何日逗留するかわからないのに、旅費が尽きたらどうするんです!?」
「その時は兄弟仲よくこの安宿に戻ろう、はっはっは!」
「はぁ!?嫌なんですけど!」
2人の王子が争うのを眺めつつ「微笑ましい?兄弟喧嘩だなぁ~」とか現実逃避してると、扉がノックされて、護衛騎士の一人が何やら手紙を持ってきた。
「ガーネット王子、何か手紙が来てますよ」
その言葉に2人の動きが止まる。
「見せてくれ」
「はい」
手持ちのナイフで(城じゃないのでペーパーナイフはない)注意深く封筒を切ると、ガーネット王子に手渡した。
手早く一瞥すると、王子がニヤリと笑った。
「喜べ弟よ、どうやら宿の心配は無くなったようだ。男爵子息が姉に一服盛って、捕獲したらしい」
「それはそれは」
つられたのか、エメラルド王子もニヤリと笑う。
こういうところは、兄弟だと思う。
「眠ってる間に縛ってあるそうだから、今のうちに来てほしいそうだ」
「それはぜひ行かないといけませんね、行きましょう兄上」
「そうだな、思ったより簡単に済みそうだ」
そう言って2人の王子は、部屋を出て行った。
後を追いながら、こんなのに巻きこまれてしまった男爵姉弟に深く同情しかけて、考え直した。
(男爵令嬢は気の毒だけど、弟の方はそうでもないか…)
一国の王子にぼったくる相手に、何を同情する必要があるのか。
そんな事を考えながら、2人の後を追った。
ヤバイ来週は投稿できないかも…(*´Д`)