2.乙女の夢が壊れました
ようやくタイトル思いついた(*´Д`)
~半年前、ルビーの回想~
その日私は『未婚の貴族令嬢は身分にかかわらず、第一王子のお見合いパーティに参加するように』という、国王のお触れの為、王宮のパーティに参加していた。
「あぁ面倒くさいな~。ドレスとか肩凝るし、早く帰りたいんだけど?」
しかし私には使命があった。
『隙を見て持参したタッパーに、パーティの食事をこっそり詰めて持ち帰る』という使命が。
(どうせロクに手をつけられないまま、捨てるのだから有効活用しなきゃ)
食べ物は大事にするべきだ。
荷物検査の際に兵士が呆れていたが、身の上話をしたら同情してくれた。
結局『危険物ではないから』という事で、目溢ししてもらった。
「早く王子様来ないかな~」
すでに国王夫妻は、揃って席についている。
主役が来れば、皆そちらに注目してくれるだろう。
それに噂によると王子様は、かなりの美形だそうだ。
令嬢らしさはとうの昔に捨ててるが、乙女心はまだ捨ててない。ぜひとも憧れの王子様を見てみたいものだ。
その時だった。
王族専用である筈の入り口から、見た事もない絶世の美女が現れた。
「…………」
その瞬間、広間が静まり返った。
あまりに現実離れした美しさに、誰もが身じろぎすらできなかった。
物音一つでも立てようものなら、その瞬間に消えてしまいそうな程、儚げな美しさだった。
(何だあれは。本当にこの世の者なのか?)
広間にいた全員が、共通の思いに駆られた。
静かな広間に、美女の靴音だけが響いた。
やがて美女は広間の中央まで進むと、口元を扇で隠しながら、ニッコリと微笑んだ。
その微笑みで、また広間の空気が変わった。
先ほどの張りつめたものが、春が訪れたかのように、穏やかなものへと変わった。
ホッとため息をつく者、美女につられてにっこりと微笑む者、美女の微笑みにあてられて気絶する者もいた。
そんな周囲の反応を楽しむかのように見渡すと、美女が口を開いた。
「諸君!今日は私のお見合いパーティに、よく来てくれた!」
美女が明らかに男性の声を発し、さっきとは別の意味で、広間が静まり返った。
皆大口を開けて、唖然としている。
かくいう私も、顎が外れそうだ。
「皆も今体験してくれたように、美とは力である!ゆえに私は今ここで宣言する!我が妃となる者は、今の私以上に美しい容姿の者でなければならないと!!」
「…………」
「今の私より自分の方が美しいと思う者は、遠慮なく名乗り出るがよい!ちょうどここに国王夫妻及び、たくさんの貴族達がいる、公平に裁定してもらえるだろう!」
もちろん名乗り出るものはいなかった。
大口開けている一同を尻目に、王子様は延々と話を続けた。
曰く、候補が現れた場合は、容姿だけでなく人柄や振る舞いも美しいか、細かくチェックすると。
その後婚約が成立しても、条件を満たし続けているか、時折抜き打ちチェックをすると。
来客の前や公の場などで現在の女装姿で現れて、どちらが美しいか審査してもらうと。
条件を満たせなくなった時は、即婚約破棄や離婚だと。
そこでようやく我に返った国王が、衛兵に命じて第一王子をムリヤリ退場させた。
主役がいなくなったパーティは、モヤモヤしたまま終わった。
その後国王はやけくそで身分の高い貴族から順に、婚約の打診をしたが、当然断られた。
誰が自分より『美女』な夫を持ちたいものか、女のプライドずたぼろだ。
しかも抜き打ちチェックをされるのだ。
他人の前で女装男と比較される(そして下だと判断される)など、更に屈辱だ。
噂では国王もほとんど諦めていて、承諾しない限り成立しないだろうというのが、貴族共通の見方だったが…
「父さん、何で承諾しちゃったのよ!しかも私がいない時に!」
バイトから帰ってくると、父が珍しく笑顔で「喜べ、第一王子との婚約が決まったよ!」と、言って来たのだ。
「いやだってさ、使者の人が『こんなチャンス2度とない』『今だけの早い者勝ち』とか、言って来たからさぁ~」
さすがに気まずいのか、父が手をもじもじさせながら、言い訳する。
「………」
そう、この父は昔から『限定』とか『今だけ』とか『これを逃したら次はない』という、あおり文句に弱いのだ。
そのせいで昔から、家の生活費を持ち出したり、勝手に借金を作ったりして、ウチはいつも貧乏だ。
(だからと言って、娘まで売るか!?)
頭痛を感じて、頭を押さえる。
そして思った。
(あぁ母よ、何故あなたはこんな男を選んだのか?)
亡き母は商家の跡取り娘だったが、たまたま客として来たこの男を見染めて、結婚した。
残念ながら母は商才はあっても、男を見る目はなかったらしい。
叔父の話では、結婚当初からこの男はこんな調子だったそうだ。
それでも母が生前目を光らせていたので、さほどではなかったが、母が亡くなると一気に暴走した。
明らかなガラクタを『今だけのお買い得品』だとか言われて、買いこんできたり、借金を作ったり。
そうなる事は目に見えてたので、母が亡くなってすぐ叔父と相談して、叔父に商会を継いで貰う代わりに、毎月少額の援助を(父に内緒で)してもらう事にした。
(使者もわかってるんだろうな…この親父は『限定』や『今だけ~』に弱いって事を)
だから私の留守を狙って来たんだろう。
「とりあえず王家の迎えが来たら、支度金をお返しして誠心誠意謝ろう」
(それしかない)
どうせやけくその申し出だ。お金返して謝れば、それほど重い罪にはならないだろう。
そう考えてると、またも気まずそうに父が切り出した。
「いやぁ~それが…もうお金使っちゃったんだよね、借金返すのに」
父の言葉に眩暈がした。
倒れかけて、傍の柱にしがみつく。
「い、今何て…」
息も絶え絶えになりながら聞くと、父がおずおずと言った。
「そのぉ~支度金全部使っちゃったんだよね…借金返すのと、これ買うのに」
そう言って後ろから金色の招き猫を、差し出して来た。
「スゴイだろ~?福を招く黄金の招き猫だって!これなら、あっという間に大金持ちになれるよ!」
「………」
絵の具で塗られた(メッキですらない)子供だましのガラクタを目の前に差し出されて、もう言葉も出ない。
項垂れていると、心配したのか父がフォローのつもりで、更に火に油を注いできた。
「で、でもほら、ルビーが王家に嫁げば万事解決!王子様は美人だし、お金持ちだし、これでもうお金の心配はないよ。良かったじゃないか、はっはっは」
その一言に我慢が限界を迎えた。
「くたばれ、馬鹿親父―――!!!!」