終.みんな幸せになりました。
「いらっしゃいませ」
あの後私とサファイアは、喫茶店を開いた。
基本接客は私が、調理はサファイアが行う。当初は殆ど客が来なかったが、今では評判は上々だ。
それというのも…
「こんにちは、ガーネットちゃん。今日も来たよ~」
来店したばかりの男性客に、金髪美女(笑)が無言で微笑みかける。それだけで店中が彼女?に釘付けだ。
「ガーネットちゃ~ん、追加オーダーお願い~」
客を案内すると、すかさず他の客から呼ばれる。
元王子のガーネットちゃん(笑)は、今日も人気者だ。
「やぁ、今日も盛況だったな」
お店が一段落すると、ガーネットちゃん(笑)が、ガーネットさん(男)に切り替わる。
「えぇ、お陰様でいつも黒字ですが…」
「ん?何だい」
わざとなのか、本気で分からないのか、首を傾げる元王子に少しイラッとする。
「何でうちの店にいるんですか?ガーネットさん」
「何でって、アルバイトだからさ。今日も良く働いただろう?」
「えぇ、よく働いて下さってます。ですが雇った覚えは全くないのですが?」
そう、ある日突然閑古鳥だったうちの喫茶店に「友人のピンチを見捨ててはおけぬ、私も手伝おう!」と、押しかけて来たのだ…女装姿で。
そしてあれよあれよという間に、うちのウエイトレスとなり、その美貌で男客を大勢引き寄せた。
口コミで広がり、今では満員御礼だ。
「もちろん雇われた覚えもないぞ、友人のピンチを助けているだけだからな。あ、報酬はいつものでいいからな。ではまた会おう」
言いたい事だけ言って、去っていった。
「はぁ~」
「相変わらずマイペースな人だね」
どっと疲れて椅子に座りこむと、一段落したらしいサファイアが2人分の昼食を持ってきた。
「助かってるんだけどね、なんか疲れる…というか何であんなに人気なの?声が出せないウエイトレスなのに」
食事をしながら毎度の疑問をぶつけると、サファイアから冷静な指摘が入った。
「やっぱり顏だろう『親の虐待で喉を潰されて、双子の兄と一緒に逃げて来た薄幸の美少女」という設定も、受けてるんだろう」
「やっぱり世の中顔なんだねぇ~」
「まぁ会ったら最初に見る所だからな」
美形は得だなぁと、しみじみと感じた。
昼食後、約束の報酬を払いに隣の花屋に行った。
「こんにちは、パールさん。ガーネットさんがまた働いてくれたので、報酬を払いに来ました」
「こんにちは、ルビーさん。いつもすみません」
パールさんが奥に引っこむと、大声で宣伝を始めた。
「いらっしゃいませー!ステキなお花はいかがですかー!!」
道行く人が一斉にこちらを向く。
ちょっと恥ずかしいが、なりふり構っていられない。
花の国だけあって花屋は多いし、人見知りのパールさん(内気じゃなかった)に客の呼び込みは無理だし、ガーネットさんは女性客は釣れるが、トラブルも多い(連れの男と揉めたり、嫉妬した女性客がパールさんに嫌がらせをしたりする)ので、顔を出さないようにしている。
結局ガーネットちゃんの報酬は、私の花屋での呼び込みになった。
日が暮れる頃には、それなりの成果を上げられた。
「いつもすみません」
お店が終わった後、パールさんがお茶を入れてくれた。
枯れた喉に染みわたる。
「いえいえ、こちらも手伝って貰ってるので」
一息ついていると、パールさんが色々持ってきた。
「あのこれ、エメラルド王子から色々届けられたんです。よろしかったらどうぞ」
そう言って私の目の前に、置いた。
「………これをどうしろと?」
「や、やっぱり?」
2人して困ったように、目の前のドレスを眺める。
「…エメラルド王子は、何を考えてるんでしょうね?」
「ガーネットと私を、揶揄ってるだけだと思います。そういうのが好きな方なので…」
確かにそんな感じだった。
「ガーネットさんは、何て言ってるんです?」
「喜んでドレスを着て、肖像画を描いてもらって、エメラルド王子に送ってます…」
「「………」」
2人して無言になる。
「…本当にナルシストは、演技だったんでしょうか?」
「そ、その筈です…たぶん」
何だか気づいてはいけない事に触れそうなので、話題を変える。
「そ、そういえばエメラルド王子から、近況を知らせる手紙が来たとか」
「え、えぇ。国王夫妻が近くエメラルド王子に譲位して、隠居するとか…」
「やっぱりガーネット王子が亡くなった事が、ショックだったんでしょうか」
「いえ、それはないと思います。お2人とも仕事人間で、子供には無関心でしたから」
「そうなの!?」
「はい。2人とも幼少の頃は、私の母を親だと思っていたくらいですから」
意外な事実だ。
国民には良き王、良き王妃で通っていたのに…クズ親はどこにでもいるという事か。
「それとルビーさんのお父様が、王家所有の鉱山に送られたそうです」
「いい気味だわ」
本心が顔に出ていたらしく、パールさんが困ったように笑った。
その顔を見て、ピンと閃いた。
「そうだわ、このドレスお2人の結婚式に使いましょう!」
「え、ええ?」
パールさんは驚いた顔をしたが、意味を理解すると徐々に真っ赤になっていった。
「で、でもサイズが…」
「直せば済む話よ!そうと決まればガーネットさんを探してくるわ」
「あっ、ルビーさん待ってー!」
そう言ってドレスを持ったまま、外に飛び出す。
パールさんが慌てて止める声が聞こえたが、無視した。
クズ親は全員退場し、恋人同士は結ばれて、みんな幸せになる。
「これぞハッピーエンドよね!」
誰に言うともなく、笑顔で呟いた。




