7.種明かしです(前)
起きるとお茶会でした。
「ふむ、やはりこちらの紅茶の方が質が良いな。まぁ庶民向けならあんなものか」
「花のジャムか…。帰りに買っていこうかな?」
「あ、それダメですよ?一見オシャレで良さそうだけど、味は大したことないです」
ベッドで目を覚ますと、第一王子と見知らぬ人(第一王子に似てるから、多分第二王子)と弟が、仲良くお茶していた。
「ふむぅー!」
とりあえず気づいてほしくて声をかけたが、言葉にならなかった。
何故か猿轡をされていた。よく見たら手足も縛られていた。
私の声に一同がこちらを見る。どうやら気づいてもらえたようだ。
「あ、姉さんおはよう」
「やぁ、こんにちは。男爵令嬢」
「御機嫌よう、婚約者殿」
「むむむぅー!!(ご機嫌良い訳あるかー!!)」
抗議のつもりでベッドの上で暴れてみるが、縛られた状態なので通じなかった。
「アハハ、打ち上げられた魚みたいだね」
「元気だねぇ」
「睡眠薬の量、足りなかったかな?」
「!」
ワザとらしく首を傾げる弟の言葉に、驚く。
「むがぁー!!!!(お前の仕業かー!!!!)」
怒りでそれまで以上に暴れると、3人からため息をつかれた。
「元気も良し悪しだね」
「話が進まないな」
「姉さん大人しく話を聞くなら猿轡を解くけど、どうする?」
弟の言葉に抗議を止めて頷く。
腹が立つが、ひとまず後だ。
弟がこちらに来て、猿轡だけ解いてくれた。
「…手足のロープは?」
「今解いたらまた暴れるだろう?全部説明が終わってからね」
(チッ!見抜かれてたか)
内心舌打ちするが、顔には出さない。
弟が席に戻ると、第一王子が口を開いた。
「まず最初に言っておくけど、君と婚約する気はない、もちろんジュエリー王国に連れ帰る事もない」
「え、じゃあなんで追って来たの?」
「早い話が駆け落ちだ。ここにいるパールと私のね」
そう言って第一王子が部屋の一角に目を向けると、私と同じ年くらいの黒髪の少女が静かに佇んでいた。
「あの…初めまして。パールと申します。幼少の頃より母と共に、ガーネット王子にお仕えしております…」
内気な性格なのか、パールさんはそれだけ言うと王子の陰に隠れてしまった。
(可愛い~)
童話に出てくるようなお姫様って、こんな感じなんだろうなと思うような儚げな美少女だった。
ガーネット王子も微笑んで彼女を見ている。
「彼女は私の乳兄妹でね。物心ついた時からずっと一緒だったんだ」
「なるほど」
(恋愛に発展する典型的なパターンだな)
しかし疑問が湧いてくる。
「わざわざ駆け落ちなんてしなくても、王様と王妃様に許しを得ればよかったんじゃないんですか?」
この変態と結婚してくれるなら、どんな相手でも泣いて喜んで承諾するだろう。
思っていた事が顔に出てたのか、ガーネット王子が嫌そうな顔をする。
「失礼な事を考えているようだけど、あのお見合いパーティの件はお芝居だから」
「え、女装大好きな変態ナルシスト王子じゃなかったの?」
私の言葉に、王子がますます渋面になる。
「何でそこまで飛躍するんだ。ナルシストのフリはしたが、女装大好きなんて誰も言ってないだろう」
思い返してみればそうだった。
『美は力~』とか言っていたが、女装大好きとは言っていない。
女装のインパクトが強すぎて、すっかり思い込んでいた。
「ゴホン!とにかく私は変態じゃない、ノーマルだ。私のように身分も財力もあり容姿も能力も優れている完璧王子が、いくら王妃のお気に入りとはいえ、平民の娘と結婚したいなんて許される筈がない」
「………」
やっぱりナルシストは演技じゃなくて、本気じゃないだろうか。
疑問が頭の中を闊歩したが、話が進まないのでサッサと追い出す。
「平民って…パールさんが?王子に仕えてるのに?」
そう言えば名前だけで、家名は名乗ってなかった。
しかし平民が王族に仕えるなんて、あるんだろうか?
「正確には『元伯爵令嬢』だ。伯爵…彼女の父親が、暴力癖のある酷い男でね。このままでは母子もろとも殺されかねないと、離縁したんだ。伯爵夫人の方から申し出た離婚だから、慰謝料もなく殆ど無一文で追い出されたも同然でね。本来なら平民になった時点で城から出されるんだが、気の毒に思った王妃が、そのまま雇い続けたんだ。人柄や能力はお墨付きだったからね」
「なるほど…」
馬鹿親父を上回る、最低のクズ親だ。
「話を戻すが、私とパールの仲は到底認めてもらえそうにない。そこで考えたのがあの一件だ。国中の貴族令嬢から拒否されれば、パールとの仲を認めるか、私を王家から出すだろうと考えたのだが…計算違いが起きてね」
「?」
「そこから先は、僕が話すよ」
ずっと蚊帳の外だった、第二王子が手を上げる。
「当初の計画では、国中の貴族令嬢から拒否されるのを見計らって、国王夫妻にパールを紹介して2人の仲を認めてもらう予定だったんだ。国中の令嬢から拒否されて貰い手が無くなれば、2人も諦めて平民でも認めると思ってね」
「ふむふむ」
「ところが君のお父上が、承諾してしまってね…ホント参ったよ。そこで第二の計画…万一承諾するような馬鹿、もとい物好きが現れた時の為に、死んだと偽装して駆け落ちする計画に変更したんだ。君が国外に逃亡してくれたのは、好都合だったしね」
「なるほど~」
ようやく理解した。
バカや物好き呼ばわりはムカつくが、承諾したのは馬鹿親父の一存なので関係ない(と思う事にした)
「それならそれで、もっと早く言ってくれればいいのに。そうすればフラワー国まで逃げずに済んだのに」
私がそう言うと、文句の集中砲火が来た。
「言う前に逃げていったのは、君だろう」
「姉さん…人の話はちゃんと聞こうよ」
「国外が好都合とはいえ、ここまで追いかけるのは予定になくて、こっちが迷惑なんだけど?」
「う…ゴメンナサイ」
事実なうえ三対一で分が悪かったので、素直に謝った。
エメラルド王子からバトンタッチして、再びガーネット王子が話し出した。
「とにかくそこで弟君に事情を話して、これ以上君が暴走しないようこちらに情報を流しつつ、君を誘導してもらうことになったんだ…報酬は高くついたけどね」
遠い目をするガーネット王子にあの金貨はそう言う事かと納得した。
(よくやった弟よ!)
親指を立てて弟に笑顔を向けると、弟も笑顔で返して来た。
それを見たエメラルド王子が、深いため息をついたのは無視した。




