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偽りの噂で隣国の老王に嫁がされた悪役令嬢は、復讐の機会を逃さない  作者: 海野宵人


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35 パルマ王国へ

 そうと決めたなら、まずはサンドロ王へ報告と相談をしなくては。


 ホリーに侍女長経由で確認してもらったところ、すぐに時間をとれるとのことなので、さっそく国王の居室へ出向く。挨拶もそこそこに、これまでにわかったことを詳しく報告する。そして単刀直入に要望を伝えた。


「つきましては、王兄殿下とソフィアの救出のために、パルマに向かいたく存じます」


 ところが、サンドロ王はこれに渋い顔をした。


「誰か代理で向かわせるのでは、だめなのかな?」

「代理では、解呪ができませんから」

「鏡を手に入れて持ち帰ればよいだろう。そうすれば、ここで解呪できるじゃないか」

「魔法なしで無理に鏡を強奪すれば、国際問題になりましょう。それに代理の者に対して闇魔法を使われてしまえば、強奪することすらかないません。わたくしが直接対処するのが一番確実なのです」


 サンドロ王が案じているのは、コンスタンツァの身の安全だった。せっかく庇護下に置いたというのに、祖国に戻ってしまったら、何が起きても手出しできない。


 何とかして代理で済ませたい国王と、自ら赴いてさっさと直接解決したいコンスタンツァとの間で、しばらく押し問答が続いた。が、最終的に折れたのはサンドロ王だった。彼女のほうには一歩も譲る気がないのを悟ると、国王は深くため息をついた。


「仕方ない。何でも手助けすると約束してしまったからな。では、供をつけよう。十分に気をつけて行っておいで」

「もちろんです。ありがとう存じます」


 サンドロ王がコンスタンツァの供として選んだのは、トレッティ公爵だった。トレッティ公爵は、パルマ王国のサンチェス公爵と同様、外交を担っている。もともと外遊の機会が多い上、サンチェス公爵家とは以前から深く交流しているので、パルマ王国を訪れても不自然ではないのだ。


 折しも王太子ルキーノとソフィアの婚約式まで二か月弱だ。トレッティ公爵はソフィアと血縁関係にないが、オルドリーニ侯爵を介した姻戚ではある。したがって祝いの品を持って行くという口実があるのだった。


 パルマへは、ソフィアも連れていくことにした。

 体調が心配ではあるものの、彼女の体を取り戻すためには、ソフィア自身が魔女と対峙する必要があるからだ。


 それに先立ち、これまで話しそびれていた諸々のことをすべて話して聞かせた。彼女が入れ替わった人物が、実際には悪しき魔女であること。その悪しき魔女がこれまでに働いてきた、悪事の数々について。こうしたことをひとつひとつ、コンスタンツァの知り得た範囲で説明した。


 すべての説明を聞き終われば、いくら疑うことを知らないソフィアといえども、自分が騙されたことを理解する。


「コニーお姉さま、軽率なことをして迷惑をかけて、本当にごめんなさい」

「まったくだわ。しっかり反省なさい。ルキーノにだって、とても心配をかけたのだから」

「そうなの? 殿下はすっかり闇魔法で繰られているのではないの?」

「そうね。あなたのことを考えると頭の中にもやがかかるような闇魔法を使われていると思うわ。でも、少しでももやが晴れたときには、あなたのことを心配していたはずなの。だってわたくしが国を出るとき、ルキーノは最後に『たすけて』って言ったのだもの。あのルキーノが、自分のことを助けてほしいなんて言うわけがないから、あれはきっとあなたのことよ」


 ソフィアはコンスタンツァが言い聞かせるのを情けない顔をして聞いていたが、聞き終わるとうつむいて、声を絞り出すようにして「ごめんなさい……」と言ったきり黙ってしまった。やがて膝の上で握りしめた両手の上に、ポタポタと涙をこぼす。そのままそうして声もなく泣いていたが、しばらくしてから顔を上げた。


 その表情はあまりソフィアらしくなく妙に静謐で、何か覚悟を決めてしまったように見える。


「あのね、お姉さま」

「なあに?」

「もし……。本当に、もしも、の話なのだけど……」

「ええ、どうしたの?」

「もし、わたしとライモンド殿下のどちらか一方しか助けられないようなことがあれば、殿下を助けて差し上げてください」


 コンスタンツァはギョッとした。いったい何を言い出すかと思えば、本当におかしな覚悟を決めているではないか。たまらず彼女はピシャリと「縁起でもないことを言わないでちょうだい!」と声を張り上げてしまった。


「何のために婚約式の前に着くように行くと思っているの。さっさと体を取り戻して、ちゃんとあなたが婚約式に出られるようにするためよ! しっかりしてちょうだい」

「でも……。でも、本当はお姉さまが婚約者なのに」

「それはいいのよ。だってルキーノが結婚したい相手は、わたくしじゃなくてあなただもの」


 コンスタンツァがすげなく言い返すと、ソフィアは「え」と固まってから、じわじわと頬を紅潮させた。それを見て、コンスタンツァは呆れたように苦笑する。まったく本当に、老女の姿をしているくせに初々しくて愛らしいとは、どうしたことか。


「それにね、わたくしはこの国で王妃になるの。それも、あなたよりひと足お先によ」


 ツンとあごを上げ、わざとらしく見下すような視線を向けてみれば、ソフィアはぽかんと口を開けて目をパチクリさせている。呆けたようなその表情に吹き出しそうになりながらも、コンスタンツァは呆れ声で小言を繰り出した。


「ほら、その間抜けなお口をお閉じなさい。あなたは王妃どころか、王太子妃としてもまだ全然足りていないのだから、本当にしっかりしてちょうだいよ? 今回のような軽率な行いは、二度としてはなりませんからね」

「はい、お姉さま」


 こういうとき、ソフィアはいつでも返事だけはよいのだ。本当にきちんとわかっているのか、正直なところ、コンスタンツァはあまり期待していなかった。だが驚いたことに、パルマへ向かう馬車の中で、ソフィアは一度も泣き言をこぼさなかった。少しでも彼女が楽に過ごせるよう、コンスタンツァが大量のクッションを運び込んだお陰はもちろんあるだろう。


 けれども、いつもならすぐに体が痛いと哀れっぽい声を上げるのに、つらそうな表情を見せることがあっても、不思議と口には出さない。悪しき魔女の話を聞いて、何か思うことがあったのだろうか。じっと耐えているソフィアが不憫で、ついついコンスタンツァはいつも以上に甘くなり、せっせと世話を焼いては、車内に吊した鏡の中からライモンドにからかわれる羽目になった。

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