表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りの噂で隣国の老王に嫁がされた悪役令嬢は、復讐の機会を逃さない  作者: 海野宵人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/44

13 六十二年前の追放劇

 さて、侍女の問題が解決したなら、次は調べ物だ。


 コンスタンツァは図書室から借りてきた本のうち、まずは貴族年鑑を開いた。先頭の目次や凡例の部分を飛ばすと、すぐに王家のページが始まる。もちろん先頭は国王サンドロだ。


 所持する称号、生年と即位年に続き、次のように系譜が記載されていた。


 ──ピエトロ三世の次男にして、現存する唯一の子。


 コンスタンツァは、この記載を意外に思った。てっきり長男だと思っていたからだ。


(陛下には、お兄さまがいらしたのね)


 だがサンドロ王は、父であるピエトロ三世の後を継いで即位している。つまり、兄はサンドロ王が即位するよりも前に、若くして亡くなっているということだ。親または子に限っては故人でも記載されるが、兄は二親等のため、名前の記載がない。名前を知りたければ、生存していた頃の古い貴族年鑑をあたる必要があるだろう。


 この記載の後に、二人の伴侶の名前が続く。


 最初の王妃は、リヴォルタ公国の公女マリアンジェラ。二番目の王妃は、国内貴族であるマリーノ伯爵家の長女ラウラ。ミラーはこの二人が同じ顔をしていたと言っていたが、貴族年鑑で確認できる範囲では血縁関係になかった。


 いずれも婚姻時には二十歳前後と、若い。没年のほうは、ミラーから聞いたとおりだ。いずれも結婚後ほぼ三十年ほどで病没していた。


 さらにその後、イラーリア王女の名前が出てくる。コンスタンツァの知るとおり、イラーリア王女がサンドロ王の唯一の子だった。


(貴族年鑑からは、これ以上の情報は得られそうもないわ)


 コンスタンツァは貴族年鑑を閉じ、もう一冊の「タリーニ王国王朝史」を開いた。古い時代の話は、今はどうでもよい。知りたいのは、サンドロ王に関わることだ。王朝史の中では最新の出来事、つまり最後に書かれている部分だから、本の最後からページをめくる。


 即位前の出来事も一応は押さえておきたかったので、ピエトロ三世の項目から読み始めた。と言っても、ピエトロ三世には興味がない。知りたいのは、その子どもたちについてだ。結婚して子どもが生まれるところまでは読み飛ばす。


(国王陛下のお兄さまは、ライモンドさまとおっしゃるのね)


 大変に才気煥発な王子だったようだ。


 二年後には、次男サンドロも生まれる。幼少期は病弱で、いつでも兄の後ろに隠れているようなおとなしい少年だったらしい。


(どこかの兄弟を思い出すわ……)


 利発な兄と比較され続けたであろう少年時代を思うと、どうしてもコンスタンツァの頭の中には元婚約者ルキーノの顔が浮かぶ。コツコツと努力型だったというところも、ルキーノとよく似ていた。なんだか急に、サンドロ王に親近感がわいてくる気がした。


 やがて王太子だった兄ライモンドは、国内貴族の娘コルネリア・トレッティと婚約を結ぶ。しかし結婚を目前にして、ライモンド王子は早世してしまった。このためサンドロ王子が王太子に繰り上がり、同時にコルネリア・トレッティと婚約を結んではどうかという話になる。


(あら? おかしいわね。最初の王妃さまの名前は、コルネリアじゃなかったはずよ)


 首をひねりながら読み進めると、事情がわかった。最終的にコルネリアとは婚約を結ぶことなく、別の娘と婚姻することになったのだ。驚いたことに、コルネリアとサンドロ王の婚約が流れた事情は、コンスタンツァとルキーノの婚約解消とあまりにも経緯がよく似ていた。


 きっかけは、タリーニ王国の友好国であるリヴォルタ公国での内乱だ。内乱が落ち着くまでの間、タリーニ王国で公女を預かることになった。もともと二国間では交流が深かったため、二人の王子と公女は幼馴染みだった。


 そんな公女を王宮で預かって一緒に暮らすうち、サンドロ王子が恋に落ちてしまったのだ。このためコルネリアとの婚約を見送り、公女と婚約を結ぶことになった。


 ところが婚約の見送り自体は円満に行われたにもかかわらず、どうしたことかコルネリアの悪評が広まる。いわく「公女とサンドロ王子の仲に嫉妬して、公女をいじめた」「公女を亡き者にするために、後ろ暗いことに手を染めようとしている」などなど、根も葉もない噂がまことしやかに語られるようになってしまった。


 王家が火消しに走っても、噂は消えない。そればかりか、噂を鵜呑みにして義憤に駆られた者がコルネリアに危害を加えそうになる事件が相次ぐ始末だ。いずれも護衛により阻止され、未遂に終わったものの、王家とトレッティ家はコルネリアの身の安全に不安を覚えるようになった。


 そこへ事情を聞きつけた隣国パルマ王国から、救いの手が差し伸べられる。コルネリアに縁談が持ち込まれたのだ。


 二年ほど前にサンチェス公爵家の嫡男が来訪した折、コルネリアにひと目ぼれしていた。だが当時は、涙をのんで諦めた。彼女はまだ王太子の婚約者だったからだ。しかし婚約がなくなったという話を聞いて、取るものも取りあえず、婚姻の申し入れをしてきたというわけだった。


 政略的にも双方に利のある縁談であり、コルネリアはパルマ王国に嫁ぐことになった。


 ──と、ここまで読んで、見覚えのありすぎる家名に、コンスタンツァは目を見開く。


(え? サンチェス公爵家?)


 パルマ王国のサンチェス公爵家なら、母の実家だ。


(コルネリア・サンチェスと言えば……、おばあさまの名前じゃないの!)


 コンスタンツァの祖母コルネリアは、確かにタリーニ王国の出身だと聞いたことがある。けれども、こんな事情があったなんて。今の今まで、まったく知らなかった。


 タリーニ王国王朝史はこの事件に関して、「『悪女が国外に追放された』と心ないことを言う者もいたが、事実無根である」と締めくくっていた。これを読んで、コンスタンツァは嘆息した。


(まあ。追放扱いまで同じだなんて。まるで何か因果があるかのようだわ)


 祖母が存命でないのが残念だ。彼女は数年前、当時の王太子オリンドが亡くなったのと同じ流行り病によって亡くなっている。生きていれば、当事者の口から事件について話が聞けただろうに。けれども当事者と言うならば、確実に存命中の当事者がひとりいる。サンドロ王だ。


(陛下のお加減はいかがかしら。せめてお話だけでもできるとよいのだけど)


 コンスタンツァは遠い過去の事件に思いを馳せながら、サンドロ王に関わる人物の名を紙に書き出し、本を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ