片翼じゃ飛べない
マルベイリ王国の末の王子と婚約者の侯爵令嬢の仲良しっぷりは有名だった。
大人の都合によって六歳で婚約した王子と令嬢は、週に三回、王宮の一角で二人並んで勉学に励みながら仲を深め、空いた時間に遊ぶ姿を王宮で働くものたちに見守られていた。令嬢が冬から春にかけて自領に長期滞在すると、王子が追いかけるように彼女の元に向かうのはもはや毎年恒例だ。
数年が経ち彼らが思春期になっても、王都や侯爵領で仲睦まじく会話しながら歩き回る二人はあちこちで目撃され、目撃者たちは自慢するようにそのときの様子を語った。
曰く――彼らはまるで一対の羽のように二人でひとつのようだった――と。
しかし二人が一六歳を迎えるころになってその認識が覆されそうになっている。
現在王子と侯爵令嬢は、一四歳から二〇歳までの、将来を担う貴族の子どもや優秀な平民を集めた、開校されたばかりの四年制のマルベイリ学習庭学校に通っている。
二人が学校に通い始めて三年目、婚約者の令嬢が二週間欠席している間に、王子がロミージュ・ミューリーという女子生徒に近寄るようになってしまったのだ。
放課後のざわつく構内のカフェテリアの一角。マルベイリ学習庭学校は朝早くに始まり昼過ぎに終わるためこの時間に昼食を食べにくる者もいる。
四人席の丸テーブルに、垂れた目にぽってりとした唇の女子生徒が一人と、高貴な雰囲気を漂わせる男子生徒が二人。
女子生徒は去年入学した王子よりひとつ上のロミージュ・ミューリー、彼女の前に座っているのが件の王子のディズベリール・モーラスト、王子と彼女の間に座っているのが王子と同年入学でふたつ上のニノグレイ公爵家の次男のグリオンだ。
「ミューリー嬢、先日のベリータルトは気に入ってくれただろうか」
「ハッ、残念ですね殿下、ミューリー嬢はベリー類があまりお好きではないんですよ」
「ひょわわ、そんなことありませんよぉニノグレイ様ぁ、とってもおいしいベリータルトでしたわあ~」
高く甘ったるい声でやけに大きな声をあげたロミージュに、周囲の生徒から冷ややかな視線が向けられる。もちろんその視線は王子とグリオン、ついでに彼らの周りの席を囲むように占領しているロミージュの取り巻きにも刺さっている。
ロミージュの父は一代貴族のミューリー男爵だが、娘であるロミージュは平民だ。ミューリー男爵の家系は農家であり、植物に影響する魔術の研究によって功績を上げ陞爵されたが、それで王子や公爵令息と絡むような『何か』を彼女が持ち合わせているようにはとても見えない。
天才と言われるような頭脳も、ミューリー男爵から譲り受けた知識もない彼女に何故か侍る男たちのアホらしい光景に、女子生徒どころか男子生徒の大半も不信感を募らせている。
「それはよかった。あのベリータルトは子どもの頃、フィラメアがクワノルミの屋敷の料理人に誕生日に宝石みたいなお菓子が食べたいと言い出して、ちょうど僕もその場にいたものだから便乗していろんなベリーを入れたタルトがいいとわがままを言ってできたものなんだ」
思い出を語る王子に、婚約者に飽きた様子がないところにも不信感を抱く理由だ。
王子がロミージュと懇意にし始めたのは婚約者の令嬢が欠席して三日経ってからで、二人っきりになることもなく毎回グリオンと三人で堂々とお菓子や花などの貢物の話をしている。
その貢物には必ず婚約者との思い出語りが付随するので、最初は婚約者のいない寂しさを紛らわせていると思われていた。それにしては貢物が多すぎるため、とうとう殿下もあの女狐に陥落してしまったのかともっぱらの噂だ。
「フィラメア嬢のためにアドバイスをしたわけじゃないあたりに、当時の殿下の器が伺えますな」
「ぐ……しかし、フィラメアは『素敵!それにして!』とすぐに同意してくれたぞ」
「そういえば出会って一年後にはもう一心同体でしたねえ、あなた方……」
にやついた笑顔から遠い目になったグリオンがロミージュの取り巻きに加わったのは二ヶ月前だ。ロミージュの取り巻きは少しずつ上流階級の者や金持ちが加わるようになっていたため、あの女狐は殿下にまで手を出す気じゃないかと生徒たちはひやひやしていた。
今まで護衛のように傍にいたグリオンが王子を放置するようになってからは、ますます婚約者の令嬢と一緒にいるようになったので安心していたのだが。
「そうだな。城ではいつのまにか二人まとめて双子と呼ば――」
「あらあ?殿下ぁ~、頬にまつげがくっついてますわ~」
「あ、ああ……」
あからさまに話を遮ったロミージュに顔を近づけられた王子が赤面する。甘酸っぱい空気に何人かが内心で舌打ちをし、何人かは立ち上がってどこかにいった。
そもそもこのマルベイリ学習庭学校は、先代王の意思を継いだ現マルベイリ王によって創立された、身分制度の垣根を越え、優秀な者だけが入学できる国内初の学校である。
時代の流れに敏感であった先代王は将来性のある優秀な人材の保護と育成、そして他国への流出防止に尽力していた。反王派に妨害を受けながらも平民ための学校をつくり、貴族が占領していた場に平民登用の機会を与え、少しずつ様々な体制を整え、ようやく二年と数ヶ月前に、念願のマルベイリ学習庭学校第一期生を迎えるに至ったのである。
開校まもない学校にはまだ卒業生はいない。今後どのような影響が出るか憶測の域を出ない状況であり、反王派に邪魔され高レベルな勉学の機会を失うわけにはいかないと、貴族も平民も緊張感を漂わせている。つまり真剣に学びに来ている生徒ばかりで、恋愛だの青春だのは二の次のはずだった。
「うふふ、わたしが取って差し上げますぅ」
「い、いや、自分で」
「まあまあ、遠慮なさらずにぃ」
カチコチになっていてもロミージュから目を離そうとしない王子は顔がさらに赤くなっている。
王子と婚約者の間にはこんな甘い雰囲気はない。よく目を合わせているが、見つめあっているのではなく、意思を確認しているようにしか見えない。
一対の羽と揶揄される王子と令嬢は、恋人というより双子といったほうがしっくりくる二人なのだ。
このままいちゃいちゃするんだろうと、吐き出すのを我慢するように口の端に力を入れるする者、興味が隠し切れない者、完全無視を決め込む者、威嚇する取り巻き、と周囲はそれぞれの反応を示していたが。
頬にロミージュの手が触れ――る直前、王子は突然顔をしかめて勢いよくのけぞった。
「おっと、虫が……」
「殿下、私が取りますよ」
一連の流れで悔しそうな顔をしていたグリオンがすかさず懐からハンカチを取り出し、身を乗り出して王子の顔を揉みくちゃにし始めた。力はそこまで入ってないがここまで揉みくちゃだとまつげも何もあったもんじゃない。
「ありがががもも!いった!痛い!おいグリオン!」
「さ、取れましたね」
優雅な仕草でハンカチをしまい込み姿勢を正したグリオンを、王子はヒリヒリする顔を手で押さえて恨みがましく睨んだ。ロミージュは気がそがれたのか、うっすい笑みでミルクティーを飲んでいる。
そのときだった。グリオンと王子の気安いやり取りを熱心に眺めていた女子生徒の後ろから、春先の冬の空気の残るそよ風のような優し気で凛とした声がかかった。
「探しましたわ、ディズベリール殿下」
二週間ぶりに登校した王子の婚約者、フィラメア・クワノルミである。
「そろそろお迎えの時間でしてよ。準備はお済みですか?」
「ああフィラメア、いや荷物をロッカーに入れたままだ。一緒に行こう」
「殿下ぁ~、またお話しましょうね~。きゃっ、クワノルミ様そんなこわい顔なさらないで!」
「ん?こわいかお?」
フィラメアのほうに歩きだしていたディズベリールが思わずフィラメアの顔を覗き込んだ。その表情をしっかりと確認して、不思議そうにロミージュに問いかける。
「ミューリー嬢にはこれが怖い顔に見えるのかい?これは驚いた顔だよ。あ、今は少しムッとしているね。僕が遠慮なしに顔を覗き込んだから。これが怖く見えるなんて……君は子うさぎにさえ怯えて逃げてしまうのだろうね。なんてか弱いんだろう。今までどうやって生きてきたんだい?」
「そ、そうじゃなくてぇ、殿下が見てないときにぃ、こわい顔をなさっていたんですぅ!ふええ」
ディズベリールはフィラメアの表情を細やかに解説しているが、彼女の表情はディズベリールに話しかけたときからほとんど変わっていない。周囲の生徒からすればロミージュの反論はおかしく思えた。あと「ふええ!」でまたカフェテリアから人が減った。
「なんてかわいそうなんだミューリー嬢!ささっ君を怯えさせるような彼らはほおっておいて私と話をしましょう」
「そうするといい。行こうフィラメア」
「はい」
「んえぇ?」
ロミージュを大げさに哀れんだグリオンに雑な同意を返し、ディズベリールはフィラメアの手を掴んでその場をさっさと後にする。あっさり振られた女狐の無駄に響く間抜けな声が聞こえた。
ディズベリールがいなくなった途端、ロミージュの取り巻きたちが彼女に集っていく気配を背後に感じながらフィラメアは表情に出さずに戸惑っていた。
ディズベリールの様子がおかしい。彼は警戒心が強く、ロミージュみたいな距離感が近いタイプは苦手なはずだ。自分のいない二週間で何かあったのか。
辿り着いたロッカーの周囲には人がいなかったので、フィラメアは荷物を取り出しているディズベリールに小声で話しかけてみた。
「ディズ、ディズ、いつのまにあの子と仲良くなったの?何かあったの?」
「……」
あ、泣きそう……。
ロッカーに鍵をかけて振り向いたディズベリールはほんの少し潤んだ瞳で口をぎゅ、と引き結んでいる。理不尽を感じているのだ、とフィラメアは理解した。
ディズベリールは理不尽なことが嫌いである。幼い頃は無知が故に、どうして自分がこんなことしなきゃいけないんだろう?と思うことが多かったらしく、しょっちゅう理不尽だとメソメソぐちぐちしていた。
なんなら婚約者になって二回目の顔合わせのときに「どうしてぼくは、けっこんあいてもえらべないんだろう」とむすむす言われたので、当時のフィラメアは元気いっぱいに「しりません!わたしも、すきになったひととけっこんしたかったです!でもこれからよろしくおねがいします!」と答えたせいか、理不尽を共有する相手だという認識になったらしく、今や仲良し婚約者で名が売れている。
「部屋で言う……」
「わかったわ」
待合場に向かうときも、迎えの魔道力車に乗って王宮に着いても、ディズベリールの部屋に辿り着くまで、手は繋いだままだった。
侍女がお茶とお菓子を用意して静かに退室する。護衛はドアを少しだけ開けて、外で待機していた。
長年ディズベリールとフィラメアを見守ってきた者たちだ。学校から帰ってきたディズベリールがフィラメアにくっついているのを見て、気分がよくないのだと察した。
フィラメアはそばに寄るとスペアミントのようなほのかに甘い清涼感のある匂いがするので、ディズベリールは気分をスッキリさせたいときに彼女にくっつく癖がある。
体調が悪ければ向こうから申告してくるので、ストレスが溜まっているのだろうとそっとしておく。こういうときは二人にさせて思う存分言いたいことを言い合えってもらえばいい。
侍女が退室した途端、ソファーに並んで座っていたディズベリールが寄りかかってきた。フィラメアは数種類の小さめのクッキーが乗った皿のジャムサンドクッキーに手を伸ばす。これからメソメソぐちぐち男の愚痴を聞くのだ。腹が減っては戦はできぬ。
「フィーが学校を休んだ初日にロミージュ・ミューリーが話しかけてきた」
「ふ~ん」
「『あなたはわたしを愛してるのよ。だってあなたはわたしの王子様だもの。そうよね?』って」
「それはちょっと気味が悪いわ」
「そう、気味が悪かった。実際はもっとねっとりした言い方でさ、なんだこいつはって思ったはずなのに、」
ディズベリールが言葉を詰まらせた。フィラメアがジャムクッキーを噛むサクサクとした音が、涙を耐える彼の深刻そうな雰囲気に全くそぐわない。気にせずカップを持ち上げて紅茶をコクリ。ココアクッキーと悩んでまたジャムサンドクッキーを取る。
「次の日から何故かあの女を見つめてしまうようになって、だんだん彼女に話しかけたい、もっと一緒にいたい、彼女が喜ぶことをしようって思うようになって」
「ええ……あなたの警戒心どこに行っちゃったの」
「そうなんだよ!普通あんなこと言われたら警戒するだろう!?でも気が付いたら、あの女に惚れてるような行動をしていて、僕が僕じゃなくなっていくみたいで、怖かった……、怖かったんだよ、フィー。僕の中の君の居場所まで消えてしまうんじゃないかって、焦ってるのに、態度に出そうとしてるのに、いつのまにかあの女のために動いてるんだ」
「あらら」
言いながらディズベリールの頭が落ちて行ってフィラメアの膝に乗る。そのままお腹に縋りついてきた。手に持っていたクッキーの最後の一口を落としそうになって怒るところだったが、まあ二週間自我を失いそうな恐怖と戦っていたのだから、と受け入れる。
「だからせめてもの抵抗で、宝石だとかドレスだとか高いものはプレゼントしなかったし、手軽な花とかお菓子だけ渡してこれ見よがしにフィーとの思い出を語って、つまらない顔をしてるあの女にほっとしてさ。ベリータルトだって本当は腐ったベリーを混ぜてやりたかったぐらいだ」
「やめなさい!!」
フィラメアの叫び声に反応した護衛がサッとドアを開けて中を確認する。膝枕でフィラメアのお腹に顔を埋めるディズベリールが、腕をバシバシ叩かれながら説教をされているという平和な光景に、護衛は敵を排除しようとした視線を気まずげなものに変えて、後ろで身構えていた護衛に大丈夫だと手を上げて引っ込んだ。
「パティシエの矜持に反する命令よそれは!!」
「やってない」
「もしそんなことをやったとしてもああいう人間は勘が鋭いから、最悪取り巻きに食べさせて本人はのうのうとしてるわよ!おいしくないベリータルトを作ったパティシエも、おいしくなれなかったベリータルトも、食べさせられた取り巻きもかわいそうでしょう!?」
「やってない」
叩かれ続けた腕が痛くなってきたので、ディズベリールは仰向けになった。フィラメアが大きなため息をついてソファーの背もたれに沈む。
「たぶん魅了の術よねそれ。誰かに言おうとは思わなかったの?ご両親は難しくても、お兄様方なら相談できたのではなくて?」
五人兄弟の末っ子のディズベリールは四人の王子たちに可愛がられている。とくに長兄と次兄はディズベリールが相談したいといえば仕事を放り出してすっ飛んで来るだろう。
「そん、なこと、全然、思いつか、なかった……」
「……話してて気づいたけど、何かおかしいわ。ロミージュ・ミューリーがあんなに学校の風紀を乱しているのに、誰もそれを報告していない気がするの。私も報告していない。どうして?学校の外で、あの女のことがひとつも噂になっていない」
違和感に気づいたことで、違和感に気づかなかったことに驚愕する。ロミージュが入学して一年と数ヶ月。自分たちが彼女の噂を聞くようになってから半年は経っているはずなのに。
「魅了の術だけじゃない、何かが仕掛けられている?あの女一人でそこまでできるのか?」
「……反王派が関わっているんじゃないかしら。奴らは平民と貴族女性の地位が上がるのが許せないんでしょう?先王様の念願の学校で平民の女が高位貴族を巻き込んで問題を起こせば、そこをつつける。『ほら!平民や女なんて、こんな高水準の勉学をするところに通わせても問題を起こすだけでしょう!』ってね。うまくいけばついでに将来いい地位に付けるだろう高位貴族の子息たちも蹴落としておけるし」
「……なんで、そこまでして、自分たちは楽したいだけの癖に、大した将来像もない癖に……っ」
ディズベリールの祖父や父がマルベイリ王国の教育水準を上げて、永く豊かな国にしようと励んでいても、反王派は目先の利益と貴族の誇りを守ることに囚われてばかりで将来国がどうなろうと知ったことではないのだ。
今を生きている民だって大事なので、邪魔さえしてこなければ反王派のような目先の利益を考える人だって必要だ。青い血がうんたらとか、女に賢さはいらないかんたらとか言って邪魔さえしてこなければ!
どうして世の中うまくいかないことばかりなんだろう。
とうとうぐずりだしたディズベリールにフィラメアは苦笑した。片腕で目を隠しているディズベリールの頭をなでる。
「ディズ、ディズ、ディジー」
フィラメアに歌うように名前を呼ばれるとディズベリールは彼女と目を合わせないといけない気分になる。幼少期からの刷り込みだろう。ディズベリールがメソメソしているとフィラメアはこんな風に名前を呼んで「こっちをみて」と言っていたから。
片腕をどけて赤くなっているだろう目元を晒す。
「誰かに相談しましょう。私たちだけじゃ無理だわ」
「……うん」
もともとマルベイリ学習庭学校の第一期生として通う予定だったのは、四番目の兄だった。いろいろあって役目が回ってきたのが六歳だったディズベリールだ。
まだなんの役目もなかったディズベリールは、今後教育の分野に関わっていくことになったのだ。
最初こそ兄の代わりにやれと言われて、しかも婚約者もあっという間に決められて不満だったが、祖父も父も力を入れていた分野だと理解してからは張り切った。張り切って、努力して、もっともっとと手を伸ばして、慎重に、大事に、積み上げたものを、気に食わないからと崩されそうになっている。
生徒同士の問題であったなら自分の力で解決したかったが、反王派が関わっているのなら年長者たちの手を借りたほうがいいだろう。
観念してフィラメアのほうに体を向け、了承の意を込めて抱きしめる。
「んぁ、もう、元気になったならお腹に顔埋めるのやめて。くすぐったい……」
「ご、ごめん」
咎める声が艶めかしく聞こえてディズベリールは勢いよく体を起こした。しかし視線はフィラメアのお腹に向けたままだ。
そこ、くすぐったいんだ……そっか……へえ……。
これ以上考えるとちょっと危険なので、思考を止めて冷めた紅茶を飲む。
あと二年で結婚すると思うと、年頃のディズベリールはどうしても夜のことを考えてしまう。お互いもう家族だと認識しているが、いざってときにフィラメアに今更そういう行為できないと拒絶されたらショックで泣くだろう。
最初こそ不満だったが、なんだかんだディズベリールはフィラメアを妻として愛したい気持ちがあるので、幼少期の延長の体でスキンシップを増やし、最近は別れ際におでこや頬にキスをして、あわよくばドキドキしてくれないかと期待しているのだが、彼女はスキンシップを受け入れてはくれてもドキドキしてる様子はない。しまいには「恋人ごっこブームなの?」なんて不思議そうに聞かれてどうしたらいいのかわからない。もうちょっと意識してくれ。
いっそストレートに「好きだー!!」と叫んで口に熱烈なキスでもかましてやったらいいのだろうか……。
真剣に悩むディズベリールの横で、フィラメアが「相談するならノルお義兄様が適任よね。魔術師が関わっているでしょうし。ディズ?聞いてる?」と三枚目のジャムサンドクッキーを食べていた。