東京バビロンプロジェクトなJK
「そんな訳ないじゃん」
「へ?」
私は深く息を吸い、彼女の目を真っ直ぐに見つめる。
「まだこの世界に無い物を作ることだって、自分の知識を上手に使う方法を考えるのだって、ニーズズさんが今までやってきたことでしょ? ちょっと雰囲気が違うだけで今までとやることは何も変わらないよ」
「アニーちゃん……!」
ニーズズさんの瞳にじわじわと光が戻ってくる。
「今の状況はただ単に新しい要素が増えただけ。ワクワクしてこない?」
「うん、そうだよね! アニーちゃん! 私、やってみるよ!」
彼女の表情はキラキラと輝く。まるで新しいオモチャを与えられた子供のようだった。だけど、彼女の顔色が突如として曇る。
「でも、今後のクラン運営において工場の保有数はかなり影響するよね? 正直、ウェーランドは機関車のイベントでボッコボコにされてほとんど工場を持ってないんだ……」
「今、この世界で一番、工場を保有しているのは誰?」
「それはもちろん、アニーちゃんのメメントモリ……」
ニーズズさんが目を見開き、私の方を見つめる。私はそんな彼女へ静かに頷いて見せた。
「メメント・モリは今を全力で楽しむ全ての者の為のクランだよ。作っちゃおう、実夢境街の魔銃を超える、新しい発明を」
夕方、太陽が金色に輝く水面へ落ちようとしていた。
それとは対照的に、遠くの水平線まで連なる鉄筋が、海上都市の雄大なビジョンを描いている。
「なんかもう、圧倒的すぎて逆に怖いんだけど……」
ヨイニの声が私の耳へ届く。私は自慢げに笑顔を浮かべて、彼女の方へゆっくりと振り返った。
風に舞う金髪、中性的な顔と高身長のシルエットは金属の鎧に身を包んでいて、騎士のような堂々とした存在感を放っている。
「まぁ、メメントモリは何をやっても良いクランだからね。奪うのも、作るのも自由だよ」
ウォーランドを吸収合併して5日後、メメントモリは順調にイベントランキング1位を独走しつつあった。
「PKを中心に各所で暴れ回っているメメントモリと、生産系のウォーランドが1つになるなんて、どうやって説得したの?」
ヨイニが不思議そうな表情を浮かべて聞いてくる。私はそれにニヤリと笑ってニーズズさんとの会話を思い出した。
私を含めて略奪を好むプレイヤーが多い、メメントモリ。そして、高い生産技術を持つウォーランド。これらは確かに水と油のような関係。しかし、そのギャップが今は力の源となっている。
「人を説得するのは、相手が精神的に弱っているタイミング。それだけ」
「そ、そっか……」
ヨイニが何かを察したように天を仰いだ。きっと、私の交渉能力の成長に喜んでいるに違いない(本人談)。
「でも、順調なのはここまでだよ」
ヨイニが疑問を浮かべる。
「え……そうなの?」
私は深呼吸をして、ヨイニを見つめ返す。
「そろそろ、実夢境街のクランが妨害に来る」
「もしかして未来予知もできるようになった?」
ヨイニは驚いた顔で私を見つめた。彼女の瞳には、半分冗談、半分本気な輝きが宿っていた。
「いや、ヨイニは私のこと何だと思ってるのさ。今回のイベントの性質を考えれば、この流れは予測できるよ」
私はヨイニの予想外な返しにちょっと笑ってしまう。ゲームの世界ではともかく、現実の私は普通の陰キャ女子高生だ。
当然、未来予知はできない。彼女は頷きながら、私の言葉を理解しようと次の言葉を待っていた。
「今回のイベントはさ、クラン対抗戦であると同時に、幻夢境街と実夢境界の対抗戦でもあるんじゃん?」
「そうだね」
私の質問にヨイニが頷く。
「普通にファンタジーゲームやってるつもりだった私たち、幻夢境街のクランは銃を開発しちゃった実夢境界のクランにボロ負けしてるじゃん?」
ただし、メメントモリは除く。
「う、うん……メメントモリ以外はそうだね」
「そう! この状況で幻夢境街と実夢境界のポイントが拮抗しているのは、幻夢境街のメメントモリが独走状態になってるからでしょ?」
私の質問に、ヨイニが顎へ手を当てて考える。
「……そっか、この状況下でメメントモリを潰す事ができれば、拮抗は完全に崩壊する」
ヨイニの言葉に、私は強く頷く。
「そう……今夜が、銃と魔法の最終決戦だ」
その時、空気が冷えるように感じる。夕日が沈むのを静かに眺めていると、ムエルケさんからのクランチャットが届く。
*「暴君! 来たっすよ!」*
*「どっち?」*
*「西側と東側、両方っす! とんでもない数っす!」*
「もしかして、早速かな?」
クランチャットを操作する私を見て、ヨイニが苦笑いを浮かべながら聞いてきた。私はそれへ無言で頷く。
「あっちは任せて良い?」
私は東側を指差した。
ヨイニはサムズアップで答える。
「もちろん"フォートシュロフ神聖騎士団"と"メメント・モリ"は同盟関係だし、そっちは元々、僕たちの担当地域だ」
「ありがとう! メメントモリからはゴングマンさん率いるブルーバロン部隊もつけるね」
「東側は良いの?」
「そっちはシュクレとシュクレ教の人達、それとレッドバロン部隊を付ける」
「アニーは?」
ヨイニの言葉に、私は画面端のメニューを確認した。予想される敵の配置、戦闘の推移を予想を予測する。
「私はまだ、出られない」
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