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大人をあやすタイプのJK

 今日も今日とて、IAFへログインする。


*「IAFへようこそ」*


 真っ白な空間にAIの声が響いた。

 私はそれへ適当に答える。


「おはー」


 いつもの真っ白な空間に浮かぶメニューの1つ、イベントの進行状況とランキング順位を示すウィンドウへ視線を向ける。


「うーん、結局、互角かー」


 私がクランマスターを務めるメメント・モリはランキング1位を独走しつつある。だけど、幻夢境街と実夢境街の合計ポイントは一進一退を続けていた。


*「ポイントの内訳を表示しますか?」*


「お願いー」


 私の声に答えて、新しいメニューが表示される。やはり、2位以下は実夢境街のクランがズラッと並んでいた。


 幻夢境街が高速近接戦闘と魔法詠唱の技術が発展したのに対して、実夢境街では魔銃の技術が発展している。


「やっぱり、銃はダメだよねー」


 メメントモリ以外のクランが実夢境街のクランにボロ負けなのは、蒸気機関車レースの結果が色濃く影響している。


 実夢境街で運用されている魔銃は弾速が早い上に、特別なビルドや技能を必要とせず雑に強い。


*「IAFは公平で不平等な世界です」*


「そして、理不尽な世界でもあるよね」


 蒸気機関車レースで、遠くから一方的にバカスカ撃たれまくったのを思い出す。銃のなにがダメって、普通に有用なのが本当にダメ。


 このまま魔銃が幻夢境街にも広まってしまうと、私が最高に気持ちいい剣と魔法の近接戦闘の満載された戦闘環境が芋スナ警戒ゲームになってしまう。


「……やっぱり、ここで叩き潰すしかない」


 私がこのゲームを最大限に楽しむ為、今後のIAFを私が望む環境にする為、このイベントは負けられない。


*「剛輪禍へログインされますか?」*


 メメントモリが獲得した工場の各種、生産状況を確認していると、AIが声をかけてくる。私はそれへ首を左右へ振った。


「今日は久々にフォートシュロフへログインさせて」


*「承知しました」*


 AIの言葉と共に、視点が暗転していく。

 久々に、あの人に会おう。






 扉を開けると、木の香りと油脂の匂いの入り混じった独特な空気が室内を満たしていた。


 壁と床、天井まで、全てが緻密に組み上げられた木材に包まれ、その上には様々な武器と装備の模型が飾られている。室内の中央には大きな木製のテーブルが鎮座し、その上には様々な図面や設計図が並んでいた。


「もしもーし」


 テーブルの中央で両手をテーブルへ突き出したまま突っ伏している金髪丸メガネの女性へ声をかける。彼女の白衣は照明の灯りを受けて淡く輝き、まるで魔法使いのようだ。


「ああ、アニーちゃん。いらっしゃい……」


 疲れ切った声で答えた女性は、フォートシュロフ最大……そして幻夢境街でも最も名高い鍛冶クラン"ウェーランド"のクランマスター。


 設計士のニーズズさんだ。


「まぁ、そうなるよね」


 ニーズズさんの様子を見て、私はウンウンと頷く。


「わかる……?」


 ニーズズさんが潤んだ瞳で私の方を見上げる。以前、私の専用装備を作ってくれた時の生き生きとした姿は見る影もない。


「工場システムは、ダメだよね」


「そう! そうだよ!! 今まで私たちが知恵を絞って必死こいて少しずつ性能を上げていたのに! 工場に素材ポポーイ! はい完成! 大量生産ができて高性能! それじゃあ私たちの立場はどうなっちゃうのさ!!」


 私の答えに、ニーズズさんが怒りを爆発させたようにテーブルをバンバンと叩いて抗議の声を上げる。


「よしよし、やるせないよね」


 私はそんなニーズズさんをヨシヨシする。


「うぅううアニーちゃーん!」


 ニーズズさんは私の方へ歩み寄って、ガバリと抱きついた。どう考えても彼女の方が年上だけど、完全に幼児退行している。


 まあ誰にだって子供に戻りたい瞬間ってあるよね。

 

「うう、もうこのゲーム辞めようかな……」


「なんで?」


 らしくない弱音を吐くニーズズさんに、私は頭を撫でながらピシャリと疑問を返す。彼女の体が一瞬、ピクリと反応したのが分かった。


「え、だって……」


「このゲームはさ、公平で不平等な世界だよ。プレイヤーの事情とかは全然考慮されない。だからそれまで有効だった努力が一瞬で無価値化することもある」


「そう、そうだよ! だから、もう……」


「PKを通して色々なプレイヤーの装備を見ていた私には分かるよ」


 ニーズズさんの肩を掴んで、視線を合わせる。


「ニーズズさん達がこれまでどれだけ研究を重ねて、スキルを伸ばして、常に新しい事へ挑戦しながら……少しずつ、プレイヤーメイド装備の性能を上げていたのが」


「でも、それは全部無駄だった」


 一瞬視線を合わせたニーズズさんが、すぐに目を逸らす。


「そうだね今の段階では、ニーズズさん達の努力は無価値化している」


「今の段階?」


 力なく聞き返すニーズズさんへ話を続ける。


「今はただ、これまでの鍛治スキルを活用する方法が発明されてないだけ。無ければ、作れば良いんだよ。この環境で、今までのスキルや経験を活用する方法を」


「そんなの、アニーちゃんみたいな天才と違って凡人の私には無理だよ」

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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