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協力してボスを倒すタイプの筋肉ゴリラ

 空から突然の襲撃(しゅうげき)


「とりゃぁー!」


 突風と共に、闇夜の様な鎧を身に(まと)った少女、アニーちゃんが降下して来た。彼女の体を包む鎧は深い黒の装甲が鮮血の様な赤い縁取(ふちど)りで(いろど)られ街の炎に照らされて煌々(こうこう)と輝いていた。


 鎧の下から、ティラノサウルを彷彿(ほうふつ)とさせる力強い足と尻尾、そして腰から伸びる翼が見える。


 同じ風間流を収める俺には分かってしまう。彼女の姿勢、動き、それらは全て、空中からの()りを放つ構えだ。


「マジかよ……」


 あまりの出来事に言葉を失う。


 降下の勢いで、アニーちゃんの空中回し蹴りが炸裂。一瞬の内に、さっきまで俺達を圧倒していたメタリウムがオモチャの様に軽々と吹き飛ばされる。直後、彼女は颯爽(さっそう)とその場に着地した。


「やっほー」


 アニーちゃんは風に舞う黒髪と赤いメッシュの間から、ルビーの輝きを放つ蛇目で俺を見つめながら呑気に言った。彼女の額からは捻れた異形の角が静かな威圧を放っている。


「アニーちゃん、どうしてここに?」


「私の担当エリアは制圧したし、ボスが割と強かったからゴングマンさんは大丈夫かなって思って様子を見に来たんだよね」


「なんで空から来たの?」


「ん」


 俺の質問に、アニーちゃんは空を指差す。そこには、彼女が飼うドラゴンのペット"カドル"が上空を旋回していた。


「あぁ、和解したんだ?」


「べ、別に喧嘩してないし!」


「カドルは参戦しないの?」


「危ないからヤダ」


 軽く会話をしつつ、アニーちゃんが周囲を見渡す。


「それで、ボスは? もう倒しちゃったの?」


「えっ」


「え?」


 俺は無言で、ついさっきアニーちゃんが蹴り飛ばした"アルゴノトス・メタリウム"の方を指差す。


「ウホ! ウホ!」


 全身からスパークを(ほとばし)らせながら、銀色の巨大な機械のゴリラが立ち上がって威嚇(いかく)をしている。


「もしかしてゴングマンさんのしん……」


「親戚って言ったらいい加減怒るからな」


 俺の返事に、アニーちゃんが喉元まで出かかっていた言葉を飲み込む。その後、メタリウムの方に向き直って口を開いた。


「貰っても良い?」


 アニーちゃんのルビーの瞳が怪しい輝きを増して、口元には嗜虐的な笑みを浮かべた。一応、聞くと言う体はとっているが事実上、俺に拒否権が無いの伝わってくる。ダメと言っても奪うだろう。


「ま、好きにしてくれ」


「キヒヒヒヒヒヒッ!」


 俺の返事をするかしないかのタイミングで、アニーちゃんが放たれた弾丸の様に走り出していく。


「あの……大丈夫なんですか?」


 この場の数少ない生き残り、ブルーバロンの男が俺に話しかけて来た。俺はアニーちゃんの方へ視線を向けながら答える。


「まぁ、俺達にやれる事があったら言うだろ」


「でも、あのボスですよ? 俺たちは100人以上やられて、やっとHPを2割ぐらい削るのがやっとだったのに……」


 尚も心配そうにするブルーバロンの男に、アニーちゃんの数多ある2つ名の1つを伝える。


「アニーちゃんはさ、1人だけやってるゲームが違うから」


「え? それはどう言う……」


 これは、俺達は普通にファンタジー風VRMMOを遊んでいる筈なのに、彼女だけまるで無双ゲームでもやっているかの様な戦いぶりに付けられた通称だ。


 曰く"1人だけやってるゲームが違う人"。


「ゴルルァァア!」


 アニーちゃんと巨獣の戦いが始まった。


 迫り来るアニーちゃんに対して、メタリウムが迎え撃つ形で咆哮を上げてその巨腕を振るう。


「パイルバンカァー!」


 一撃で十数人を吹き飛ばすメタリウムの剛腕が振るわれた瞬間、大ダメージを受けたのはボスの方だった。


「ゴルルァア!?」


 剛腕はアニーちゃんの横をスレスレで抜けていき、代わりに彼女の飛び上がる様なアッパーがメタリウムの顎を捉える。しかも、インパクトの瞬間に彼女の代名詞である"パイルバンカー"が発動した。


 魔力で構成された(パイル)がメタリウムの顎へ深々と突き刺さる。それだけでボスのHPがさらに1割ほど削れた。


「キヒッキヒヒヒヒヒヒ!」


 振り払う様に繰り出された腕を蹴り、今度は高くへと飛び上がる。あーあ、上を取らせちゃったか。


「空の王が生み出せし、星を(つむ)ぐ光よ。その力もて(あかつき)よりも尚眩きもの、我にただ天空を貫く一筋の槍を与えん!」


 空中で詠唱が高速で流れる。


「チャージライトニング!」


 詠唱の完了と共に、雷がアニーちゃんへと落下する。しかしそれはすぐに彼女の右腕へと収束し、一本の槍を形成する。


「スピアランス!」


 発声によるスキルの発動と共に、アニーちゃんの雷槍が放たれた。


「ゴルルァァアアア!」


 メタリウムが雄叫びを上げた。俺達が戦っていた時、その声は恐怖の象徴だったが、今となっては悲痛な悲鳴にしか聞こえない。


 巨獣がその両腕で地面を打ち鳴らす。不可視の衝撃はがドーム状に広がり、アニーちゃんを吹き飛ば……せない。


「よっと!」


 軽い掛け声と共に、アニーちゃんが"衝撃波を蹴って更に上を取る"。もうそれ空中二段ジャンプじゃん。忍者じゃん。


「えっと、あの、あのボスってあんなに弱かったでしたっけ? 俺達がやってた時はボスって言うかもう全体イベントのレイドボスみたいな感じだった気がするんですけど……」


 ブルーバロンの男がドン引きしながら俺へ声をかけてくる。うん、その気持ち、すごく分かるよ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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