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ボスに余裕で圧勝するタイプの筋肉ゴリラ

 どうやら俺達が担当したエリアは、メカエイプだけで構成されているらしい。モンスターの種類が増えると対処の難易度が倍増するから、これはありがたい。


「最初はどうなるかと思ったが、何とかなったな」


 全員で連携を取りながら、エリア内のモンスターを倒していく。戦術とパターンが分かった今となっては、最初に会敵した時の様な絶望感は無い。


 この戦いを通して、俺やブルーバロンのメンバーも一段、プレイヤースキルが上がった。


「何だかんだ2時間ぐらいか、ちょうど良いペース……」


 安全になりつつあるエリアの十字路を通りかかった時に、一瞬だけ違和感を覚える。試しに数歩戻って、通路の右手を確認した。


「ウホ?」


 機械的な赤い光を放つ2つの目が、俺との視線と交差する。そこにいたのは、全身が鈍い銀色の光を放つ装甲で覆われたゴリラの怪物だった。


「猿の次はゴリラかよ……!」


 3メートルはある巨体が機械の体とは思えない程、滑らかな動きで不思議そうに首を傾げ、片腕で頭をポリポリと掻いている。


「アルゴノトス・メタリウム……!」


 ゴリラの怪物の頭上に、源界フォントの赤文字でモンスターの名前が表示される。ボスモンスターだ!


「ウホ! ウホ! ウホ!」


 メタリウムが体を持ち上げ、ドラミングを始める。周囲へドコドコと威圧的な音が広がり、自然と緊張感が高まっていった。


「来るぞ!!」


 次の瞬間、巨獣がジャンプした。まだ10メートルはあった距離を一度の跳躍で飛び越え、その大きな右腕を振りかぶる。


 ズガダン! 巨腕から繰り出された隕石の様な一撃は大地を粉々に粉砕する。脅威的なスピード、パワー、そして装甲。


 まじでこのゲーム、プレイヤーへの遠慮が無さすぎる。だけど、それこそがこのゲームが面白い理由でもあった。


「おーしお前ら! ボス戦だ! 出し惜しみは必要ないぞ!」


「おう!」


「やってやるぜ!」


 俺の声に、ブルーバロンとシュクレ教の面々もそれぞれの表情で応える。シュクレ教の魔法使いは緊張しているが、意を決した表情で自慢の詠唱を始め、ブルーバロンの戦士たちは勇気を振り絞って武器を構えた。


「攻撃の後には隙があるはずだ! なるべく包囲を崩さない用にして、自分が攻撃されてない時だけその隙を付いて攻撃するんだ!」


「了解!」


 全員がメタリウムを取り囲む形で広がった。シュクレ教の魔法使いは後方から攻撃魔法を唱え始め、ブルーバロンの戦士達は前線で盾や武器を構える。俺はその隙間を()って攻撃のチャンスを(うかが)っていた。


「グルグル……!」


 メタリウムが周囲へ視線を向け、獰猛(どうもう)な顔つきで包囲の一方、シュクレ今日の魔法使いの方向へ突撃する。その巨大な拳が空気を切り裂き、目の前の魔法使いを吹き飛ばした。


「今だ!」


 吹き飛ばされたプレイヤーには構わず、モーション後の硬直を狙って攻撃を仕掛ける。


「グルルァア!」


 しかし、メタリウムは生物的な滑らかな動きで直ぐに身を翻して、俺の飛び蹴りを片腕で受ける。


「やっ……トンズラ!」


 凄まじい力を感じさせる真紅の目と視線が合い、背筋が凍る。咄嗟(とっさ)にスキルを発動して、距離を取った。


「こりゃヤベェぞ……!」


 数秒前まで俺が居た位置を、衝撃波が突き抜けていく。空気の破裂する様な音が響いた。







 メタリウムとの戦闘が始まってから徐々に、俺たちの部隊は追い詰められていく。強力な衝撃は攻撃で1人、また1人と仲間が倒れ、30分後、とうとう俺たちの部隊は壊滅状態にあった。


 もしかして、敗北が前提の負けイベント的な何かじゃ無いだろうか。そんな思いが脳裏にチラリと浮かび、それを首を振って振り払う。


「ゴングマンさん、でもこれは流石に……!」


「このゲームに、あらかじめ勝敗が決まっている戦いなんてねぇ!」


 生き残った数少ないブルーバロンの1人が、絶望的な表情で口を開いた。確かに、メタリウムのHPはまだ7割以上、残っている。


 対して俺達は満身創痍で、生き残りも10人かそこらだ。


「あのアニーちゃんが、俺達にこのエリアの攻略を任せたんだ。やっと変わり始めたあの子の期待に応えられなくて、何が大人だ!」


 そうは言うが、状況は如何(いかん)ともし難い。もし、彼女がここにいればこの状況をどうやって解決するだろうか。


「おーい!」


「あはは、ヤバイ、幻聴が聞こえて来た」


「ゴングマンさん?」


 小さく笑う俺に、ブルーバロンの男が首を傾げる。


「ここにアニーちゃんがいたらどんなに頼もしいかって思ったら、アニーちゃんの声が聞こえて来たよ」


「おーーーい!!」


「……」


 幻聴だと思った声が、いよいよ無視できないレベルで聞こえて来て、ブルーバロンの男と2人で顔を見合わせる。


「ゴリラマンさーーーん!!」


「ゴリラじゃねぇゴングだこらぁああ!!!」


 声のする方、(はる)か上空を見上げならすでにお決まりとなったやり取りを反射的に返してしまう。


「ってマジかよ……!」


 視線の先には、曇天(どんてん)を突き破り、俺達の方へ急降下してくる我らがクラン"メメントモリ"のクランマスター。

 フォートシュロフ13騎士の1人にして"暴君"の異名を持つ最上位プレイヤー、アニー・キャノンの姿があった。

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