ボス戦をするタイプのJK
目の前に現れるモンスターはリビングメイルとカリブスコープの二種類だけ。順調に倒してきたけど、だんだんと退屈が募ってきた。
約1時間が経つ頃には、モンスターの姿を見るのに苦痛を感じ始めてきた。そろそろ飽きてきたなー。
「"暴君"! 上だ!」
シュクレ教の1人が空を指差しながら声を上げる。彼の指し示す方向へ視線を向けると、巨大な人型が空を舞う姿が見えた。
「……は?」
背中から炎を噴射して飛翔した巨体が放物線を描いて私達の方へ落下してくる。
「えっ、ちょまっ、退避ぃ!」
その巨体が地面に激突すれば、それだけで周囲は一瞬にして崩壊するだろう。私達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
空気を切り裂く様な爆音が耳をつんざく。
背中を押し飛ばす衝撃波、それに続いて立ち上がる粉塵が視界を奪う。一拍置いて、一陣の風が吹き抜け、視界がクリアになる。
「|アーマジェット・ヴェロシティタン《ArmorJet VelociTitan》……」
砂塵の中から、その巨体が姿を現す。頭上には、赤い源界フォントでモンスターの名前が表示されていた。
「キヒッキヒヒヒヒヒ!」
空間に、ビリビリとした緊張感が満ちた。このモンスターはどれ程の強敵で、どんな攻撃をしてくるのか。コレを壊したらどんなドロップがあるのか、どれ程気持ちいいのか。
緊張とワクワクが入り混じった感情に心が踊る。口角が痛い程に吊り上がるのを止められない。
*「メインシステム、戦闘モード起動します。脅威度7、危険因子を排除します」*
ヴェロシティタンから女性風の合成音声が放たれる。言っている事はあんまり分からないけど、要は敵ってことだ。
「「セット・リボルビングパイル!」」
風間流裏秘技其ノ二、多重発声で1つのスキルを同時に発動する。私の両腕に、トンファーとリボルバーピストルが合体した様な独特の形状を持った釘打ち機が生成された。
「トンズラ!」
発声と共に、私の体がヴェロシティタンの眼前へと移動する。スキルの名前からして本来は逃亡用のスキルなんだろうけど、私にとってはほぼ、強襲用の移動スキルと化していた。
「パイルバンカー!」
右腕を振り抜く、そのタイミングに合わせて釘打ち機のトリガーを弾いた。発声によるスキル発動と合わせて、2本の釘がヴェロシティタンの顔面へ打ち込まれる。
「ギギ……」
パイルの突き刺さったヴェロシティタンの顔面から煙と共にスパークが発生する。よし、ダメージは通る!
「なんっ……!」
そう思った直後、ヴェロシティタンが地面を蹴り、体の各部からブーストを噴かし、高速で後方へと引いていく。
「トンズラ!」
発生した乱気流に体が振り回されるのをなんとか抑えて、再びスキルを発動してヴェロシティタンを追いかける。
再び眼前にソレを捉えるけど、さらに急加速。慣性を無視した様な挙動で進行方向が変わった。
「そうきたか……!」
腰の翼を振り回してヴェロキティタンが移動した方向へ視線を向けると、眼前には巨体から振り下ろされた大剣があった。
「影踏み!」
タイミング的に"トンズラ"スキルのクールダウンが開けているか微妙だったからもう1つの移動スキルで大剣を躱す。
直後、轟音と共に地面が爆発した。
「こんなん、人に向けていい攻撃じゃないじゃん!」
思わず憤慨して抗議の声を上げるも、私の声に応えてくれる者はいない。もし居たとしても"お前が言うな"って言われるんだろうけど。
「トンズラ!」
今度はヴェロシティタンの反対方向、本来の正しい向きで"トンズラ"を使う。そのままさっと物陰へと隠れた。
私には考える時間が必要だ。
*「皆生きてるかー!」*
*「なんとかー!」*
*「俺たちにはあんなのどうしようもないぞ!」*
*「早くなんとかしてくれー!」*
とりあえずチャット欄から今、私についてきている部隊の被害状況を確認する。まあ被害は2割って感じかな?
*「誰かあの化け物を倒すアイディアはないかー!」*
*「あるぞ」*
私の質問に、今日は良く話しているレッドバロンの男が即答で返してきた。私は期待を胸に次の言葉を待つ。
*「何々? 教えて!!」*
*「ヴェロシティタンの相手は我らがクランマスター"暴君"アニーキャノンに任せて俺らは戦いが終わるまでひたすら隠れて逃げ続ける」*
*「私に丸投げかー!」*
期待が裏切られて、感情のままにチャット欄へ文字を入力する。ヴェロシティタンの攻撃でビルが崩れ落ちる音をBGMに、私達はチャットを続けた。
*「うるせぇ! 化け物には化け物をぶつけんだよ!!」*
*「勝手に人のことを化け物扱いするな!!!」*
*「日頃から1人だけ別ゲーやってるみたいなプレイしておいて、今更一般人ぶるんじゃねぇ! そもそも前から思ってたんだがお前は自己認識が低すぎなんだよ!!」*
*「そ、そんなの今は関係ないじゃん!! て言うか1ペタバイト譲って私が"化け物"だったとして、その私が解決策を求めるんだからその回答に私をぶつけるって何の回答にもなってないじゃん!!!」*
ふんぬ、ふんぬ! 口で喋るよりも遥かに早く、流暢で滑らかに指先が走る。極めて切迫した状況で、極めてどうでも良い戦いが始まっていた。
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