もう一回空を飛ぶタイプのJK
「いくぞー!」
掛け声と共に、機関車の前方へ向かって全力で走る。冷たい風が頬を打ち、髪を後に乱れ飛ばす。全身の力を込めて斜め前方へと飛び出した。
眼前には、ゴングマンさんによって機関車から切り離された貨物車両が見える。その速さと、自分の高さからの風景の変化を頭の中で計算していく。遠くの山々の風景がぼやけて流れていった。
「よっと!」
腰の翼を大きく広げ、風を捉える様にして高く舞い上がる。空気の抵抗を全身に感じながら、目の前に迫る貨物列車の屋上へ着地を目指して空を切る。そして、ギリギリのタイミングで屋上に辿り着く。
後方では、地面の砂塵が舞い上げられ落ちていくプレイヤーの叫び声や怒鳴り声が響いていた。
「うわぁぁあああ!」
「届くわけねぇだろー!」
「ふざけんなー!」
「と、届いた……」
意外な事に、貨物列車の側面えへばり付く様にして私の他にも数名のプレイヤーが車線移動に成功していた。
「さあ、あとはドンドンいくよ!」
車線移動はできたので、後は追いつくだけだ。
眼前には一定間隔で切り離された貨物列車が次々と接近してくる。その上を疾走し、ガタンゴトンという音と共に次の車両へと乗り移る。
「これは流石に……!」
最後の貨物列車に乗り移った先には、まだ距離のある機関車。諦めた様な声を漏らすプレイヤーを他所に、私は声を張り上げた。
「シュクレ!」
私の呼びかけに応じて、機関車が一瞬の間、その勢いを鈍らせる。その瞬間、前方へと勢いよく飛び出す。
「*******!」
ボイラー室の窓から金髪の幼女エルフ、シュクレがひょっこりと顔を出して大きな杖を掲げる。直後、急速に響く詠唱の声が溢れ、それによって魔法が完成する。彼女の杖から赤く脈打つ光球が放たれた。
「届けぇええ!」
光球は熱を放ちながら私の足元へ急速に近づいてきた。地面から上がる煙と焦げた匂い、そして瞬時に体を包む熱気。それと同時に、強烈な爆風によって、私は前方へと力強く押し出された。
タイミングを合わせて腰の翼を開き、その風圧を翼に受けてさらに推進力を得て加速する。
「っと!」
一瞬の不安と期待が交差し、時間がゆっくりと進む中で、ヘッドスライディングを思わせる流れる様な動きで機関車に接近。息を止め、伸ばした手が、ギリギリで冷たい手すりを掴み取る。
その瞬間、全ての緊張が解け、安堵の息を吐く。
「ふぅー! なんとかなった!」
装備や称号、ステータスでプレイヤートップレベルにAGIを伸ばしている私が翼まで使ってギリギリ届くラインだ。
当然、他のプレイヤーが届くはずもない。
「やっぱり無理だったぁああー!」
ここまでたどり着いた数少ないプレイヤー達が、途中で脱落したプレイヤーと同じ様に叫びながら地面へと転がっていく。
まぁ彼らの役目はもう終わっている。正直帰って来てもやること無いだろうしどっちでもいい。
「シュクレ、ただいま!」
ボイラー室まで戻って、ぶっこぬいたクリスタルの代わりにMPを注ぎ込み続けるシュクレへ話しかける。
「アニーさん、おかえりなさい」
シュクレは私の方を見てホッとした様な笑みを浮かべて答えた。彼女は元々クリスタルが有った位置を見つめながら口を開く。
「さっきは良く分からなかったんですけど、結局の所、これってどういう理屈でまだ走っているんですか? 流石に私のMPが動力って事じゃないですよね?」
「このイベントってさ、機関車のHPが減ると速度が落ちる設定だったじゃん?」
「はい、そうですね」
「でも実際の所、燃料炉と駆動系が生きていれば車体がどれだけベコベコになっても理屈の上では速度が著しく落ちる理屈はないじゃん?」
「えぇっと、はい」
「簡単に言うと、あのクリスタルが機関車のHPの減少に合わせて自動的に移動に必要なエネルギーの量を制限していたんだよ」
「えっじゃあ今やっているのって燃料炉の代わりに私のMPを使っているってことですか?」
シュクレの質問に、私は首を左右へ振った。
「今シュクレがMPを注いでいるのは、どれぐらいのエネルギーを供給するかを制御する管だよ。実際にこの機関車を動かすエネルギーはあのボイラーっぽい所から供給されてる」
「そう言うことだったんですね。でも、よくあの瞬間にそこまで分かりましたね。流石はアニーさんです!」
シュクレがキラキラした目で私を見つめてくる。なんと言うか、こうやってストレートに褒められると恥ずかしい。
「べ、別に大したことじゃないよ……」
顔が赤くなるのを自覚しつつ、そっぽを向く。だけど、シュクレのベタ褒め追撃は止まない。
「私なんて、この配線を見てもチンプンカンプンです!」
「こ、これは1つづつ追って行くと複雑に感じるかもだけど、特定の目的に対して必要な回路のテンプレートってある程度決まっているから、それに合わせて回路の集合をブロック化して捉えれば案外シンプルだよ……」
シュクレが軽く笑いながら、次の質問をぶつける。
「それでこれ、止まる時にはどうしたら良いんですか?」
「……あっ」
ニコニコしながら聞いてくるシュクレに対して、私は気がついたことの重要性に驚いて、返事というか、ただの感嘆符を返す。
「――アニーさん?」
シュクレがニコニコしながら私の名前を呼ぶ。だけど、その笑みはさっきまでと真逆の温度を持っていた。
「ごめーん! この機関車もう止まれなーい!」
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