空を飛ぶタイプのJK
シュクレが声を上げる。
「第2波、来ます!」
ズバガカカン!
炸裂音と共に弾頭が私たちの機関車を襲う。何かしらスキルを使っているのか、見た目以上の破壊力を発揮している。体が前につんのめる様な感覚と共に、機関車が急激に減速していくのを感じる。
「まーずーいー!」
私は頭を抱えて悩む。
こっちの魔法使いも反撃を仕掛けているけど、命中率が芳しく無い。ダメージレースで完全に負けている。
「アニーさん!」
そこで、シュクレが私へ声をかけた。
「どうしたの?」
「えっと……実は、ヨイニさんから困ったら開ける様にって言われてたんです」
シュクレはアイテムボックスから謎の包みを3つ、取り出し、その内の1つの封を開いた。
「孔明か」
私のツッコミを他所に、シュクレが包みの中に書かれた羊皮紙へ視線を走らせる。そして少し考える様な仕草をとった。
「なんて書いてあったの?」
「アニーさんは今、レーシングゲームをしています」
「え? うん」
そういうイベントだよね?
「あっえっと、そうじゃなくて……。うーん、じゃ、じゃあ脱出ゲームです。今ある物や情報を使って、あの列車より先に辿り着かないと、脱出できないというルールです」
「脱出ゲーム……」
私の中で、脳のスイッチがカチリと切り替わる。思考が閃光の様に駆け巡り、視界がフラッシュカメラで撮影された様に明滅した。
「まずは、問題を分離して考えよう」
「あ、アニーさん?」
「私たちは大幅に減速してしまった。再加速が可能なのか、再加速を可能にするためのプロセスがどれぐらい時間のかかることなのかを検討する必要がある」
私は視線を天井へ向ける。
「これ、電子回路だね」
天井に埋め込まれた水晶を見上げながら、呟く。
「電子回路?」
シュクレが首を傾げながら答える。
「ほら、今、私たちが日常的に使っている機械って有機コンピュータを使ってるじゃん?」
「は、はい」
私の質問にシュクレが何を当然なことを、と言った様子で頷いた。
「その前って何を使っていたか知っている?」
「確か、量子コンピュータですよね? 博物館で見た気がします」
「そうそれ! その量子コンピュータの基礎理論というか、前身になったのが電子コンピュータ」
「ま、まさかアニーさん……その古代の技術を、理解できるんですか?」
シュクレが恐る恐ると言った様子で尋ねてくる。私はそれに対して、首を左右に振った。
「いや流石に複雑すぎてそれは無理、だけど……これを電子回路と見立てれば、かなり原始的な構造をしているよ」
私はボイラー室を指差す。
「あれを電流電源に見立てれば、こっちのグチャットしたのはたぶん昇圧回路」
次に天井のクリスタルを指差す。
「多分、これが操縦席からの信号を受け取って動力を制御するICの役割をしている。それなら反対側から伸びている構造と宝石みたいなのはダーリントンペアで、全容は分からないけど多分|PWM《Pulse Width Modulation》制御だと見て良い。あっちの構造とか典型的なフライバック接続っぽいよね」
私がパパッと完結に説明すると、シュクレが宇宙の真理について考える猫の様な表情を浮かべた。
「ええっと……」
頭を左右に部分と振って正気に戻ったシュクレが、ヨイニから託された包みの2つ目を開いて大きく頷く。
「つまり、何をすれば良いんでしょうか?」
「あのクリスタルっぽいのをぶっ壊して、こっちのチューブに直接MPを注ぎ込んで!」
「わっ、わかりました!」
作業に取り掛かるシュクレを置いてその場を後にしようとすると、背後から彼女に呼び止められた。
「アニーさんはどうされるんですか?」
私はそれに背中越しで答える。
「もちろん、あのクランをぶっ潰す!」
*「あのクランに仕返しがしたい近接軽装プレイヤーは屋上に上がれー! タンクは軽装を守ってー!」*
クランチャットでメメントモリのメンバーへ呼びかける。各色々な返事が返ってきて、皆が動き出した。
*「アニーさん! やりますよ!」*
クランチャットからシュクレが合図を飛ばす。
*「皆、振り落とされないでね!」*
既に耐久値の減少によって置いていかれ気味だった機関車がグン、と加速する。進行方向へ向けていた背中に強烈な追い風が襲いかかった。私たちの機関車は銃撃を仕掛けてきたクランの機関車を一気に追い抜く。
*「者ども、かかれぇー!」*
クランチャットで合図を送り、自分の乗っている機関車の端へと駆け出した。強風が背中を打ちつけてきたが、気にせず走り続けた。
「いけぇぇええ!」
私の足元、機関車の振動と音が一体となり、それが私の心臓の鼓動とリンクするかの様だった。大きく息を吸い込み、力を足元へ集める。助走の勢いをそのままに、最後の一歩を踏み出し、全ての力を解放する。
「キャハハハ!!」
私の腰に生えた翼を大きく開く。この翼で飛ぶことはできないけれど、空気抵抗によって空中での姿勢制御を可能としている。
距離、風向き、重量。全てを計算しながら、私は空を舞う。あの蒸気機関車の屋上へと向かって。時間がゆっくりと進む様な錯覚にとらわれながら、私は空中でこの飛翔が成功したことを確信する。
「キヒッキヒヒヒ……!」
これから起こる出来事への期待に胸が高鳴り、口角が痛いほど釣り上がった口からは笑い声が溢れた。
「うおりゃぁー!」
「ひゃっはー!」
私の後を追う様にして、他のメンバーも奇声を発しながら各々が飛び出していく。目指す先は、後方の横車線に位置する敵対クランの蒸気機関車だ!
「な、何だ! モンスターが飛んできたぞ!!」
バゴン! 着地の衝撃で車体が僅かに揺れ、金属で覆われた屋上部分が歪む。その姿を見て、ライフルを構えたプレイヤーが声を上げる。
「あ、あれはまさか……!」
何が起きたか分からず狼狽えるプレイヤー達の中で1人が私に気がつき、震える指を私の方へ向ける。
「あ、あれはまさか……"フォートシュロフ13騎士"の1人"暴君"アニー・キャノン!」
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