モンスターを撃退するタイプのJK
「アトラクトボール!」
天狗へ向かって照準を合わせる様に右腕を構えて、スキル名を唱える。発声に合わせてスキルが発動した。手の平に小さなスパークを放つ黄色い光球が生成され、天狗が移動する未来の位置へ放たれる。
「ギュエ!」
光球が天狗に命中すると、体を痙攣させながら私の方へ引っ張られる様に吹き飛ばされてくる。
「キヒヒッ! パイルバンカー!」
"アトラクトボール"はダメージが無い代わりに、命中した相手をスタンさせて私の方へ引き寄せるスキルだ。
引き寄せられている天狗へタイミングを合わせて右ストレートを叩き込む。同時に放たれたパイルが彼の頭を叩き潰した。彼はそのまま錐揉み回転をしながら吹き飛ばされ、地面へ激突して糸の切れた人形の様に転がっていく。
「これで最後かな?」
周囲を見渡すけど、すでに鉄虎や天狗の姿は見受けられない。
「そうみたいですね」
私の言葉に、シュクレが座ってラースージー弁当を食べながら答えた。今日もシュクレ砲は大活躍だ。
彼女の編み出した"魔法スキルを取らずに人力で詠唱を唱える事で魔法を発動させる"技術を前提にしたビルドは幻夢境街の魔法使いプレイヤー達にコペルニクス的回転をもたらした。
その新ビルド体系のパイオニアにして、第一人者である彼女の魔法は大規模な戦闘において比類なき戦力になる。
「他のクランはだいぶ離れちゃいましたね」
シュクレが目を細める。元々は頑張れば声が届く距離に居た他の蒸気機関車が今は遥か遠く、後方に見えた。
「あれ、距離もそうだけど……なんか速度に差が出てない?」
「イベント情報が更新されていますね。どうやら蒸気機関車の残り耐久値が速度と連動するみたいです」
シュクレちゃんが半透明なウィンドウを表示して、イベント情報を確認しながら答える。
「そっかー、このまま断続的にモンスターが襲ってくる感じなのかな?」
移動している蒸気機関車を守りながら戦うって言うのも面白かったけど、同じパターンが続くと流石に飽きてきちゃうな。
そう思った矢先だった。バコン! と音と共に地面が僅かに揺れるのを感じる。音の方を見ると、湖の中からトンネルが現れる。
「……どうやら、違うみたいですね」
シュクレが弁当箱をアイテムボックスへしまって答えた。トンネルからは勢いよく別の蒸気機関車が現れる。水面に隠れてよく見えなかったけど、ちゃんと線路もあった。
「状況からみて、実夢境街のクランだよね?」
「はい、メメントモリ横に来るって事は、おそらく向こうでも最高ランクのクランです」
今回はクラン対抗戦であると同時に、幻夢境街と実夢境街のプレイヤー同士の対抗戦でもある。前回イベントの様子から鑑みるに、大規模クランには大規模クランをぶつけてくるだろう。
「シュ」
「*****************!」
「クレ!」
早い! 私が言い終わるより先に、シュクレが詠唱を始める。いつの間にか立ち上がっていた彼女足元には幾何学的な魔法陣が浮かび上がり、淡い光を放っていた。
事実上、彼女の専用スキルとなっている"詠唱加速"のスキルだ。
「――せよ!」
シュクレが杖から煮えたぎるマグマの様な球体が放たれる。それは放物線描いて敵対クランの機関車へと飛んでいく。
「あっ」
シュクレが小さな声を漏らした。
彼女の放った球体が目標を逸れ、大きく後方へと流れていく。私たちは高速で動く機関車の上に立っている。この状態で何かを放っても撃ち放った瞬間に機関車から置いて行かれてしまう。
「うーん、これは当てにくいね」
シュクレの放った光球が遥か後方で炸裂する。地響きと共に、天を貫く様な火柱が上がった。その一部は相手の機関車へ擦る様に命中したけれど、ほとんど意味を無していない。
*「アニーちゃん! お返しが来るぞ!」*
クランチャットが点滅し、再び赤い文字が表示される。今度はゴングマンさんからのメッセージだ。
「へ、何あれ……?」
敵対クランの機関車の上に、魔法使いと思われるプレイヤーが杖を構えて整列する。そこまでは別に普通なんだけど、なんだか杖の構え方が独特だ。杖を肩で抱える様に、地面へ対して水平に持っている。
「あれじゃまるで、ライフルでも構えてるみたいな……」
口に出した瞬間……閃光の様に思考が駆け巡り、その可能性を脳が評価する。結果は、是だ。
*「しゃがめぇぇえええ!!!」*
クランチャットで叫びながら、私は機関車の反対側へ飛び降りる。ズババババン! 直後、独特の破裂音と共に車体が大きく揺れた。
*「は? 何、何が起きたんだ?」*
*「おい、何人か落ちて行ったぞ!」*
*「減速してる!」*
クランチャットは大混乱だ。
「アニーさん、何が起きたんですか?」
幸運な事に、メメントモリの主砲であるシュクレは被害から免れたらしい。動揺する彼女とクランメンバーへ向けて私は結論を伝える。
*「銃撃された! あのクラン、このゲームでライフルを開発してる!」*
*「おい、マジかよ……!」*
*「世界観ぶっ壊れるじゃねーか!」*
*「暴君! どうするんだ?」*
クランメンバーに動揺が走り、皆が次の指示を求める。私は機関車の反対側にヤモリの様にへばり付きながら音声認識でチャットを返す。
*「わからーん! ちょっと考えるからそれまで各自でなんとかしてー!」*
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