爆発するタイプのJK
「ヨイニー! ごめんー!」
煙幕の中、シュクレを守りながら戦っていたヨイニへ声をかける。それだけで彼女は全てを察した。
「装備は拾ってくれよー!」
ヨイニがシュクレちゃんを掴んで私の方へ放り投げる。
「アトラクト・ボール!」
飛んできたシュクレへ引き寄せスキルを撃ち放つ。私の眼前まで上がってきた彼女をキャッチして、さらに飛び上がる。
「よぉっと! トンズラ!」
キャノン流忍術、二段ジャンプ!
さらに上へ、もっと上へ。
「逃げる気か!」
はるか下方からカタンの声が聞こえる。まさか、私がなんの為に黒煙をこんなに撒き散らしていたか教えてやろう。
「アンチライトニング!」
暗い暗いダンジョンの底、大空へ手を伸ばす。
「空の王が生み出せし、星を紡ぐ光よ。その力もて暁よりも尚眩きもの、我にただ天空を貫く一筋の槍を与えん!」
シュクレは自分の事をまるでダメな子の様に言うけれど。この詠唱を私に作ってくれたのも彼女だし、これはこの世界で彼女にしかできないことだ。
「私のシュクレを舐めるなぁ!」
私の体に雷が落下する。雷が伸ばした腕へ槍の形で収束していく。本来は屋内では使えない詠唱だけど、ここは天井が高すぎる。半ば祈る様な気持ちでやってみたけど奇跡的に詠唱は成功した。
地下にいるはずなのに雷がどこで発生したのかとか、難しいことはこの際考えないものとする。
「スピアーボルトォ!」
雷の槍を黒煙が舞う眼下へ叩きつける。
バチバチバチバチ!
落雷の音とは別に、大量の炸裂音と爆風が轟く。スパークから黒煙の成分へ引火し、周囲の酸素を吸収して周囲へ破滅的な爆発を拡散していく。
「イヤッハァァアアアアアァーーーー!!!」
瞬間、強烈な衝撃派が縦穴を駆け抜ける。
皆大好き、粉・塵・爆・発!
「ぐわぁぁぁあああ!!」
「あいつ、やりやがった!!」
強烈な爆風によって私とシュクレがさらに上空へ吹き飛ばされる。
縦穴へ縦横無尽に張り巡らされていた配管が衝撃に耐えきれず吹き飛ばされ、ダンジョン内を飛び回った。
「せぇい! やぁ! とぉお!」
シュクレちゃんを抱えたまま、襲いくる配管を避けたり弾き返したりする。途中、配管に隠される様に配置された横穴が視覚の端をかすめた。
「ぐえっ!」
数瞬後、酸素が消費された空間に大量の空気が流れ込む。自由落下の何倍もの速度で地面が迫ってくる。
爆縮だ。
「トンズラ!」
大急ぎでトンズラのスキルを上方向へ発動する。このスキルはAGIに比例した距離を瞬時に移動する効果を持つけど、同時に移動先でキャラクターの運動エネルギーはリセットされる仕様だ。
普段、高所からの落下時には、位置エネルギーを相殺する為に地面方向へ使っているんだけど、今それをやると、直後に降ってくる配管の雨によってペシャンコに潰されてしまう。
「トンズラ!」
MPが底をついた。HPをMPへ変換するスキルで補って配管が落ち切るまでの時間を更に稼ぐ。
「影踏み!」
最後は影へ移動するスキルで落下し終えた配管の影へ飛ぶ。私のHPはもう二割以下だ。
「んー! スッキリ!」
煩わしかった配管も、どこに潜んでいるかわからないモンスターも、鬱陶しいプレイヤーもいない。全てが破壊し尽くされた世界で、私だけが1人、立っている。
まるで私が望む最高の世界だ。
「アハ、アハハハ、アハッアハッッアハハハハハハハハハハハハ! ィヒヒヒヒッ!」
バゴン!
私が溢れ出る感情をなるべく抑えてお淑やかに笑みを浮かべていると地面が盛り上がって、配管の山から大きな赤いドラゴンが現れる。見上げる様な大きさのドラゴンは背中に畳んでいた城壁の様に分厚い装甲の翼を広げた。
「やってくれたな"暴君"! たった1人で200人以上倒しやがって!」
赤いドラゴンの背中からPK撲滅連合のクランマスター、カタンとその親衛隊と思われる十数名の姿が現れた。
「持ってたんだ、ドラゴン」
「ドラゴンの存在は今後、クラン間の争いでは必須級の存在になるだろうな」
「カドル!」
配管が全てなくなってだだっ広い空間になった今、私だってドラゴンが呼べる。アイテムボックスから翼竜の銅像を取り出して掲げた。
「キュイ! ご主人! ご主人!」
私の可愛いカドルちゃんが顕現する。相手は粉塵爆発を乗り切った後だ、体力全快のカドルの方が有利なはず!
「あいつらやっちゃって!」
「キュイ! がんばるっ!」
ケツァルコアトルスの様な姿をしたカドルが大きく飛び上がり、翼に魔法陣が浮かび上がる。
彼が大きく羽ばたくと、魔法陣から無数の雷が発生して一斉にカタン達へ襲いかかった。
「……べへモス、やれ」
カタンに命令された赤いドラゴン、べへモスが再び翼を閉じる。そこには盾の様な紋章が浮かび上がりカドルの雷を全て防ぎ切った。
「ガァァァァァァァァァァッーーーーーーー!」
べへモスはガラパゴス島の亀の様にゆっくりと首を持ち上げると、草でもむしるかの様な様子で口を開く。
そこから螺旋を描くゴン太ビームが放たれる。
「キュ」
べへモスから放たれたビームは光速の様な速度でカドルへ襲いかかる。不意をつかれたカドルは辛うじて避けようとするも、ビームが太すぎてこの縦穴だと回避するスペースが足りない。
「ごしゅじ、ごめ……」
空から落ちてきた銅像を私は両手で拾う。
「い、一撃……」





