ダンジョンを攻略するタイプのJK
ダンジョン攻略を始めて1時間、中ボス的な蜘蛛のモンスターを倒した広間で腰を下ろす。
「ひぃーながいー!」
「ちょっと休憩しようか」
ヨイニの提案で休憩する事になった。なんて言うか、このダンジョンは性格の悪いアンブッシュのモンスターが多すぎる。
戦闘中にあちこち移動しながら戦う必要があるから脳内にマップも入れておかないと行けないし、すごく神経をすり減らす。
「……やっぱり、おかしいですよね」
シュクレちゃんが壁の装飾を見つめながらポツリと呟く。それにヨイニが聞き返した。
「おかしいとは?」
「このダンジョンもですけど、このゲーム全体の構成がちょっと不思議なんです」
「もう少し具体的に教えて欲しいっす!」
ムエルケちゃんが興味津々と言った様子で聞き返す。シュクレちゃんはそれに頷いて、話を続けた。
「えっと、この世界というか……私たちの活動している地域ってまず円形になっているんです」
シュクレちゃんの発言に全員が頭上にクエッションマークを浮かべる。その様子を見て彼女はヨイニの方へ視線を送った。
「ヨイニさん、フォートシュロフ、エターナルシア、それと幻夢境街の地図を出してもらえますか?」
「ああ、もちろん」
ヨイニはアイテムボックスから大きめの丸テーブルとそれぞれの地図を取り出してそこへ並べた。
「多分、意図的に縮尺が調整されているので分かりにくいですが、それぞれの町の位置関係に合わせて並べるとこうなります」
私も腰を上げてテーブルの方に集合する。ヨイニが踏み台を用意してくれてテーブルの上を見つめた。
「うーん?」
それぞれの道は繋がっている感じはあるけどそれだけで全容が円形であるかどうかは何とも言えない。
確かに、町の位置関係だけに注目すれば切り分けられたピザみたいな形に見える、気もする。
ヨイニが首を捻りながら代表して質問を投げかけた。
「この3つの街が大きな円形の一部だったとして、それの何がおかしいの?」
「イベントの進行に伴って、私たちは円の内側に進んでいるんです」
「それで……?」
「えっと、現代においてこの手のVRMMOは大半の部分はAIによって生成されていますよね」
昔の人はグラフィックを全部人力で作って何百億円と言う予算と十年近い制作期間を要していたらしい。
狂気かな。
「そうだね」
「ただリアリティのあるだけの世界を作ってもプレイヤーは楽しくありません。そのため、この手のゲームはある程度の矛盾を内包しているのですが、それでもAIで生成する都合上、大部分は整合性の取れた状態にする必要があります」
「あー、アンビルドってやつっすね! 突飛な世界観のゲームを作ろうとして偶になるって聞いた事あるっす!」
ムエルケちゃんの話に私がクエッションマークを浮かべていると、ヨイニが補足してくれた。
「最初に作られた情報を元に世界の時間を進めるだけならAIの必要な処理能力はさほど大きくないけど、それだとゲームを遊ぶ側が楽しい状況になるとは限らない。だからAIは随時、世界に調整を加えているんだ。矛盾の多い世界はAIの処理が追いつかなくなって、とてもじゃないけど遊べない状況になる」
ヨイニの話にシュクレちゃんが頷く。
「はい、その上で考えて……この手のVRMMOにおいて、モンスターというのは概ね街から離れる程、強くする様に設定するのが一般的です」
「そうなの?」
そもそもVRMMOの知識に乏しい私が首を傾げると、シュクレちゃんは小さく頷いた。
「最初から未開の地に放り出されるのが好きなプレイヤーは少数派なので、ゲームの開始地点はそれなりの規模の都市になります」
「あー、プレイヤーが街からスタートする以上、モンスターの分布は街から遠ざかるほど強くなるって事だね」
「その通りです。また、世界観の整合性を取る為にも町の近くのモンスターは驚異度が低くなるはずです」
そりゃ危険な場所より安全な場所に住みたいし、そもそも危険なところだと逆説的に街が作れないもんね。
この矛盾に対して特別な処置がなければ、仮に街を作っても危なすぎてNPCがすぐにいなくなるのは容易に想像できる。
「この話がさっきの町の配置が円形であることとどう繋がってくるの?」
「このゲームは新しい町の周囲の方がモンスターの驚異度は高いですよね?」
シュクレちゃんの言う通り、フォートシュロフより幻夢境街の方がモンスターは強いし報酬も良い。
「うん、そうだね」
「しかし、円というのは構造上、内側にいく方が町の密集率が高くなります」
ここまでの話でシュクレちゃんの話を理解した全員が地図から視線を外して正面を向く。確かに、その通りだ。
これは例えるなら、大都会の中央に行くほど野生のクマの出現率が増えて田舎に行くほど小さなネズミや小鳥しかいなくなるみたいな状態だ。私たちの様子を他所に、シュクレちゃんは話を続ける。
「運営側がこの構造的な欠陥をちゃんと認識していればしかるべき設定がされていると言う事でしょうけど……爆弾を抱えている状態ではありますね」
「ちな、それが分かると……?」
「え、特に何も無いです?」
ズコーン! 画期的な新発見に一同の緊張感が高まっていた中、一気に脱力して崩れ落ちる。
「ないんかーい!」
私が思わずツッコミを入れると、ヨイニが答えた。
「あはは……、まぁ運営側の意図がわかれば隠しボスとか、メインストーリーの攻略を考える上でのヒントになるよ、きっと」
「ひぅっ……お役に立てずごめんなさい!」
シュクレちゃんが恐縮した様子で頭を下げる。私はそれを手のひらをひらひらして制した。
「いーよいーよ、シュクレちゃんはそのままで。基礎研究ってそういうもんだし」
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