暗躍するタイプのJK
朝の陽光が街を照らす中、学校へ向かっている途中に、見慣れた背中が目に入った。だけど、その姿はいつもと違う。シャツの上から透ける朝日の光、流れる髪の間から見える女子制服の襟元。
声をかけてみる。
「おはよう、与一ちゃん」
「……」
あれれ。
風が軽く髪を揺らすだけで、与一ちゃんの反応はない。
「もしもーし?」
「うーん、今ちょっと向かい風が強くて聞こえないなー。なんだかよそよそしい呼び方が聞こえた気がするなー」
「う……お、おはよう、与一!」
「おはよう! 奏音!」
その瞬間、与一は振り返り、笑顔で私に抱きついてきた。彼女は女子制服を着ていた。そのスカートは風に揺れ、頬は朝日に照らされて輝いていた。
「うう、はずいぃ……」
「大丈夫大丈夫! これぐらい周りから見れば女の子同士の普通のスキンシップだよ!!」
「もっと内面的な方向から見た場合の影響を考えてよぉー」
なんとかやんわりと与一を引き剥がす。
「今日はそっちの制服なんだね?」
「だって、僕が男装して他の女の子とイチャイチャしてたら嫌でしょ?」
「う……それは、まぁ……」
一週間前、私と与一は彼女同士になった。誰かとこう言う関係になるのは初めてで、すぐに顔が赤くなってしまう。
耳が熱くなるのを感じながら、なんとか返事を返す。
「奏音、赤くなってる?」
「うるさーい!」
ガルルル。
半眼で与一を睨み上げる。
「ハハハハ、ごめんごめん」
与一はそう言って私の頭に手をおいて軽く撫でた。もしかして私を猛獣か何かと勘違いしてる?
「そういえばメメントモリはイベント一位だよね、イベント報酬はどうしたの?」
「半分はクランメンバーへ均等分配、もう半部はクランメンバー全員に適用されるステータス上昇シンボルの取得に全部使ったよ」
「へー! ステータス上昇は何を取ったの?」
「全部AGIに振り分けた」
「……不満出なかった?」
「私と一対一で勝てたらクランマスター交代するって言ったら黙った」
「流石、暴君だね……」
「与一の方はどうしたの?」
「僕の方は公平に全ステータスへ均等分配にしたよ」
「あー、ヨイニの場合はそれでもステータス腐らないもんね」
「そういえば気になってたんだけど、メメントモリって普段はどんな活動しているの?」
「特にクランとしての活動はやってないよ? 各自が好きに遊んでる感じ」
そもそも自由にやろうぜってクラン方針だからね。
「あれ、そうなんだ? 噂だと喫茶店を経営しながら裏でPKクランとして暗躍してるって聞いたけど……」
「そんな事してないよ! 確かに喫茶店を運営して料理スキルを伸ばしたい人は喫茶店の料理作ってるし、裏で|獲物《狩り易い一般プレイヤー》の情報交換とかしたり、皆で有用な称号の獲得方法の情報共有とかしてるけど、暗躍なんて全然!」
「……そ、そっか」
なんとなく与一の歯切れが悪い。
なんでだろうね。
学校はいつもの通り忍者の様に(忍者じゃないけどね)気配を消しってヌルッと帰宅し、両親や家族の気配を察知しながらそれらを避ける様に経路を選択して自室へ引き篭もる。
さぁIAFへログインだ!
「クラン参加申請が32件あります」
ログイン画面でAIからアナウンスが流れる。
「全部許可でー」
この間のクランイベントで1位になって以降、メメントモリへの注目が高まっているらしい。
特に参加条件の緩さとクラン報酬の豊富さに惹かれて毎日、沢山のプレイヤーが押し寄せてくる。もちろんメメントモリの方針は各自が自由にすることなので、特に何も考えず全部許可でいい。
「アニーさん、こんにちは!」
喫茶店dreamerに転移すると待ってましたと言わんばかりに金髪エルフ幼女のシュクレちゃんが話しかけてくる。
私も健全な高校生にしてはかなりのプレイ時間だけど、何気に彼女のプレイ時間もヤバそうだよね。
学校とかどうしているんだろうか。
「おはー、どうしたの?」
「えっと、実はその……相談がありまして」
「聞くだけ聞こう!」
「エターナルシア遺跡ってご存知ですよね?」
「あーうん、私もちょっと前まで狩場にしてたよ」
第1回イベント前まで、IAFでは初めてゲームを開始する時に転送される街を4つの内から選ぶことになる。
それぞれの名前がクロノシア、オーディアス、エターナルシア、そして私やヨイニが選んだフォートシュロフだ。
イベント後に今はクロノシアとオーディアスが何とかって街で合流して、フォートシュロフかエターナルシアを選択したプレイヤーがこの幻夢境街で合流している。
「ご存じの通り、エターナルシアは最初のイベントでゴブリンの襲撃によって崩壊して今はダンジョン化しています」
「私達フォートシュロフ組もこの街経由で行けるもんねー。正直、モンスターの強さとかドロップがそんなに良い所じゃないけど」
エターナルシア遺跡ダンジョンのモンスターは基本的に完全武装のゴブリンか巨大ネズミだ。
金属装備が揃わない今の中間層にとっては程よい狩場だけど、上位陣からすれば今更普通の鉄装備は重いしそんなに貴重でもない。
「詠唱研究の過程で気になることがあって、あのダンジョンを隈なく探索したいんですけれど、私だけだとどうにもならなくって……」
「あー、今あそこ大変なことになってるからねー」
「どうしてあんなことになっているんですか?」
「まず、あそこは金属装備とインゴットのドロップを狙いつつ戦闘系の経験値が稼げるから、今の中間層にとってかなり良いダンジョンじゃん?」
このダンジョンはエターナルシア近郊に有った様なダンジョンより普通に効率が良い。新規プレイヤーが上位へ追いつくブースター的な意味が有るのかもね。私の回答にシュクレちゃんがこくりと頷く。
「それは、はい。わかります」
「でもあのダンジョンって曲がり角とか複雑な建物とか結構あるからすごい不意打ちを受けやすいからPKプレイヤーがそこに集結しちゃってさ」
「あー……」
私の話に、シュクレちゃんが感嘆符で反応を示した。理解していそうなので、そのまま結論まで話を進める。
「今度はそういうのが許せない自治厨が集まりだして、一般攻略プレイヤーとPKプレイヤーとPKKプレイヤーの血で血を洗う混沌とした不毛極まりない戦いが今日も繰り広げられているって感じ」
「そして、アニーさんはそこを"狩場"にしていたと……」
シュクレちゃんが天を仰ぐ。
「隈なく調査って具体的にはどれぐらいの環境が必要なの?」
私の質問にシュクレちゃんが申し訳なさそうに答えた。
「完全な湧き潰しとPKプレイヤーの介入が無い状態を作りたいです」
「んーーー」
悩ましい。
私にとってあのダンジョンの攻略価値はあんまり無い上に、要望が割と面倒そう。だけど、範囲攻撃系魔術師の一大派閥となりつつあるシュクレちゃんにはクラン全体で育てるだけの価値がある。
「私の予想では、この調査で新しい魔法スキルを開発できそうなんです!」
シュクレちゃんが潤んだ瞳で私の方を見上げてくる。言うてシュクレちゃんは大体いつも涙目だけど。
「魔法スキルって具体的にはどんなのか目星が着いてるの?」
「ヘイストです……多分」
「よし分かった私に任せてクランメンバー総出で挑戦しよう!!」
費用対効果とかレベリングとか関係ねぇ! どれだけコストがかかろうとそのスキルが手に入れば費用対効果は最高だ!
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