告白に回答するタイプのJK
イベントを終えた翌日、私は与一ちゃんといつもの公園で直接会う約束をした。
学校終わりに夕日を背にしてブランコをギコギコして彼女を待つ。
彼女から色々と衝撃な告白を受けてから今まで、私は沢山の経験をして、沢山、考えた。
今日はその結論を出す。
「ごめん、奏音。待った?」
いつもの公園でARを使っていると聞き馴染みのある声が聞こえた。
ウィンドウを消すと、与一ちゃんの顔が鮮明に見える。
「んーん、私も今きたところ」
今日の与一ちゃんはとても与一ちゃんしている。
可愛いとかっこいいが同居していて頭がバグりそう。
「もしかして今日……返事がもらえるのかな?」
与一ちゃんが不安そうな表情を浮かべる。
「うん、そのつもり……だけどその前に聞いて欲しい事があるんだ」
深く息を吸って吐き出す。
与一は私へ告白するにあたり、嘘偽りの無い、本当の事を話してくれた。
だから私も、彼女へ本当の事をはっきり伝える必要がある。
「私は、誰かを、何かを害するのが大好きで、他人の感情が分からない社会不適合者だよ」
「うん、知ってる」
私の言葉に、与一ちゃんが優しく微笑んで答えた。
「与一ちゃんなら、他にも沢山の選択肢があるのに……」
「奏音じゃ無いとダメなんだ」
私の問いに、与一が真剣な表情で答える。
彼女は私みたいな社会不適合者と違って、極めて一般的で、良識を持った人間だ。
私が現実で仲良くできる人は彼女だけだけど、彼女は私以外とも仲良くできる。
「……なんで?」
「確かに奏音の持っている趣向は人間社会と共存可能な物じゃ無い。だけど奏音は、その大きな欲望を完全に抑え込むだけの、高い社会的倫理観を持っているだろ」
現実世界で人や物を無闇に壊しちゃいけない。
誰かを傷つけてはいけない。
そんなのは当然の事だ。
「そんなの、誰でもやっている普通の事じゃん」
私の言葉に、与一ちゃんが首を左右へ振る。
「生まれて15歳の僕が言うのも変だけど、この世界にはそれを守れない人はすごく、すごく多いよ。だけど、奏音は心にそういう思いを抱えていても、現実世界ではそんな事をしちゃいけないってちゃんと分かってる」
「怖く無いの? 直ぐ隣に居る人が、内心でそういう事を考えているのって」
「それが他の人なら怖いよ? だけど、奏音なら心配は無い」
やばい、ちょっと目が潤んできちゃった。
与一が言葉を続ける。
「高校で再会した時、奏音は本当に酷い表情をしていた。何もしなかったら次の日にはもう居ないんじゃ無いかってぐらい」
「うん……」
あの頃は、本当にこの世の終わりの様な気分だった。
正直、与一の考えはそんなに間違っていない。
「そんな状態でも、奏音はその怒りを外へ向けようなんて全く考えていなかったじゃ無いか。心で思ってしまうのはどうしようもない、だけど絶対に行動へ移さないなら……それを他人が責める権利なんて無いよ」
この世界に、彼女ほど、私のことを理解してくれている人がいるだろうか。
彼女ほど、私を肯定してくれる人がいるだろうか。
居るわけがない。
だけど、だからこそ。
私と付き合うことで、彼女を不幸にしたくない。
「でも、私って馬鹿だし、人の気持ちとかよく分からないし……」
「僕は、奏音が馬鹿だって思った事は一度も無いよ。確かに、ちょっと人の感情を読み取るのは苦手みたいだけど、そんなのは僕が間に入れば解決する」
「与一がそれをする意味がないじゃん」
確かに、与一が私と他の人の間に入ってくれるのは助かる。だけど本来、普通の人はそんな無駄な事をする必要は無い。私が社会へ関わるために彼女の自由を奪うのは間違っている。
「あるよ。奏音はちょっと他の人と脳の回路が違うだけで、本当はすごく頭が良い。シュクレちゃんの件、覚えてる?」
「うん、号泣ランチの事だよね」
「もし奏音があの料理を作らなかったら、シュクレちゃんのあんなに嬉しそうな笑顔をする事は無かった。ほんのちょっと、僕たちが伝え方を工夫するだけで、奏音には誰かや世界を幸せにできる力がある」
ポロリ、と涙が溢れる。
私は今まで、これほど誰かに認められた事はない。
私は言い訳の余地がないぐらいの異常者だ。
だけど、異常者だって誰にも受け入れられないのは辛いんだよ。
普通の人みたいに認めてもらいたいし、仲良くしたいし、感謝されたいし、誰かを幸せにしたい。
だけど私にはその能力が無かった。
与一はその橋渡しをしてくれると言っている。
暗闇を掻き分けて進む様な人生に、一条の光が差した気分だ。
「僕はどこにでも居る様な普通の人間だよ。奏音みたいな天凛の才能は1つもない。だけど、だからこそ……僕には奏音と世界を繋ぐ力がある」
「……」
「僕にとって奏音は憧れで、尊敬していて、特別な存在なんだ。だから……」
与一が手を差し出して頭を軽く下げる。
「僕と、付き合ってください!!!」
私は与一に抱きついた。
「……よろしくお願いします」
与一が私の事を抱き返す。
彼女の暖かさを全身に感じる。
「よかった……」
高校に進学した時は、こんな事になるとは夢にも思っていなかった。
世の中、どうなるか分からないね。
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二章完!!!





