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フォーエバー・カドル(2)

「カドル!」


 カドルは疲れ果てて倒れ込んでいる。巨大な体は、丘を見下ろす様に横たわっていて、遠くからでも存在感を放っている。黄昏時の夕日が彼の体に差し込んで陰影を作り、その姿はまるで傷ついた戦士の様だ。


「ガァアアァアアアア!」


 近づいた私に対して、カドルが(くちばし)(ついば)む様にして攻撃してくる。それをヒラリと(かわ)して一歩前へでる。


「何が不服なの?」


 私の言葉に、カドルが傷ついた体を引きずりながらも臨戦体勢(りんせんたいせい)を取って待ち構えながら答える。


「誰も奪い合おう何て考えないで、皆で平等に分け合えば、皆が幸せになれる。略奪で相手に嫌われるより、好かれる方が最終的には得をする。ご主人はそれが分かっているのに、どうして破滅の道を進むんだ!」


 カドルの言葉に、私はカドルが卵だった時のアイテム説明欄の文言を思い出す。そこには"所有者の人格を元に学習する"と書かれていた。


「そっか、カドルは……もう1人の私なんだね」


「ご、ご主人……?」


 現実世界で自由奔放で他人の事を全く気にしないアニー・キャンが抑圧されているのと同様に、電脳世界では常識的で良識的で大人しい風間奏音(かざまかのん)としての考えは押さえ込まれている。


「私は、今この瞬間の私が本当の私だと思っていた。でも……違うんだね。カドルの考えている事は、確かに私の中にもある」


「分かってくれた?」


 カドルが嬉しそうな声を上げる。

 私はそれに対して、首を左右に振った。


「なんで!!」


「だって、しょうがないじゃん。そういうのが好きなんだから」


「え……?」


「合理的に考えてどっちの方が正しいのかって話と、じゃぁ感情的にどっちが好みかって話は全然別の話でしょ?」


「がぁぁぁぁああああ!」


 カドルが雄叫びと共に嘴を突き出してくる。私はそれを迎え撃って、腕と嘴で鍔迫(つばぜ)り合いの姿勢になった。


「私はこの世界に居場所を見出してから、1つ1つ確かめてきた! 私は何が好きで、何が嫌いなのか! 私は皆で分け合うより誰かから奪う方が好きだし、誰かを叩きのめすのも好き! 例え奪う必要がなくても……奪えるなら奪う! 私の心が! 魂が! 奪う側の形をしている!」


「そんなんじゃ! いつか破滅するよ! ご主人は強い、とっても強いけど! そんな世界中を敵に回す様な生き方、きっと辛いよ!」


 ガキィン!

 鈍い金属音と共に、カドルの嘴と私の腕が弾かれる。直後、カドルの両翼が前に突き出して左右から挟み込む様に襲いかかってきた。

 私はこれを腰の両翼で迎え撃つ。


「カドルの思い描く世界は正しいよ! だけどそれは、全員が健全で優しい、心を持っているのを前提にしているでしょ? その方が合理的だって理由だけで、それ以外の人には我慢をさせるの? そんなの、残酷(ざんこく)じゃない?」


「たとえ現実的じゃなくて、絵空事でも、理想を目指す事の何が悪いって言うんだ!」


「カドルはこの世界の名前、知ってる?」


「知らない! それがなんだって言うんだ!」


Inequality(イニクオリティー)&Fair(フェア)。この世界(ゲーム)は不平等で、公平な世界なんだよ。カドルの思い描く世界は確かに平等で平和かもしれない、だけどそんなの……不公平だよ!!」


「じゃあ、どうすれば良いって言うんだ!!」


 カドルが(くちばし)から雷が(ほとばし)る。


「サンダースタブ!」


「アンチライトニング!」


 カドルの電気を帯びた嘴が突き出される、私はそれを両手で持って正面から受け止めた。彼の両翼と嘴が塞がれ、これ以上の身動きが取れない。そしてそれは私も一緒だ。


「シマーズさん、カドルにその子ぶつけて!」


「……しゃぁねーなー!」


 私に全体重をかけて身動きの取れなくなっているカドルへシマーズさんのドラゴンが突撃する!


「ギィエ!」


「トンズラ!」


 カドルの体勢が崩れた一瞬の隙をついて、トンズラのスキルを発動させる。私を見失ったカドルが周囲をキョロキョロと見渡す。それを空の上から確認して、両翼で位置を調整しながら彼の頭部に取り付く。


「ご主人!」


「カドル! この問題は結局のところ、多数派と少数派、両方がちょっとずつ我慢して妥協するしか無いんだよ! 絶対に100%にはなれない! だって平等と公平はすごく似ているけど、相反する正しさだから!!」


「そんな……」


 カドルに、そして自分に言い聞かせる様に叫ぶ。お互いの主張がぶつかって妥協点が見出せないなら、最後にやる事は1つだけだ。


「だからね! 私、そんなに怒ってないんだ! カドルは力で自分の思いを通そうとして、私は力でそれに対抗している! これって当然の事だから! やって当然の事をして怒るなんて変でしょ?」


 この戦いに正義や悪は存在しない。ただ勝った方が我を通すってだけだ。もしここが現実世界なら、カドルの言うこと、風間花音が持つ倫理観の方が正しい。だけど、この電脳世界なら。


 勝つのは私だ!


「さぁ……終わりにしようか」


「ご、ご主人?」


「「「「セット、リボルビングパイル」」」」


 真・風間流裏秘技其乃一かざまりゅううらひぎそのいち、四重多重発声! 左右の腕と翼にリボルバー式パイルバンカーが生成される。

 総パイル数24本だ。


「フル・バーストォォォォォォォォォオオオオオ!!!」


 回転弾倉(シリンダー)が持ち上がり、先端へ移動する。トリガーを引くと魔力で形成された24本のパイルがカドルの角を打ち砕き、頭部を突き破り、致命的なダメージを与える。


 カドル(もう1人の私)、また後でね。






「アニーさん!」


 シュクレちゃんからメンション(呼び出し)が飛んでくる。


「どーしたー」


「PK反対連合が一斉に進行してきましたぁぁぁあああ!!」


「……は?」

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