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フォーエバー・カドル

 シマーズさんの白いドラゴンの背に(またが)って、雷をばら()くカドルを追いかける。私はもう落下したと思ったらしく、カドルは新たな目標を"対人戦闘中のプレイヤー"に定め、容赦無く雷を降らしていた。


「アニーちゃん、あの雷は打ち返せないのか?」


 雷は基本的に上から下へ落ちるものだ。気象条件によっては例外もあるんだけど、少なくとも今はそういう状況では無い。


「むーりー」


「そっかー。このままだとイベント期間中、対人戦を始めた瞬間空から雷が落ちてくるPvEイベントになっちゃうよなー」


 私の回答にシマーズさんが残念そうにカドルを見上げながら愚痴(ぐち)をこぼす。そんな事になったらせっかくのイベントが台無しだ、なんとしても回避しなくてならない。

 今度は私の方から、彼に提案をしてみた。


「シマーズさんも、この子とカドルでドックファイトできない?」


「できるけど、多分負けるぞ?」


「そーかなー?」


 うちの子、カドルは大きいし沢山の人を乗せて高い高度を飛ぶことができる。だけど機動性の面で言えば今、私たちが乗っているシマーズさんの白いドラゴンの方が高いと思う。


「俺たちが乗ってなければ、互角には戦えるだろうけどな」


「あー確かにー」


 うーん、どーしよっかなー。

 それならば、と次の提案を投げかけてみる。


「シマーズさん"縮地ッ"で空中戦できない?」


「"ッ"はいらん!! あとそのスキルは地上の移動にしか使えない!!」


 ぐぬぬ、それ運営もそれぐらい融通を効かせてくれても良いのに。無駄にこだわりを見せている。


「それこそ、アニーちゃんの"トンズラ"で空中戦ができるんじゃ無いか?」


「いやいやそんなの流石に……いや、いけるかも」


 即座に否定しようと思ったけど、そう言えば私、姿勢制御用(しせいせいぎょよう)だけど、一応……翼はあるんだよね。


「アニーちゃんができないことを俺ができるわけ……ってえ? できるの?」


「なんかいける気がしてきた」


「マジかよ……」


「じゃ、サポートよろしく」


「お、おう!」


 私たちを乗せたシマーズさんの白いドラゴンがグングンと高度を上げ、雷を撒き散らすカドルへ近づいて行く。


「トンズラ!」


 元々AGステータスの大半を割り振っている上に、専用装備で上昇した私のAGIから発動する"トンズラ"の射程はかーなーりー長い。一瞬でカドルを眼前に捉えることができた。


「カドル!」


「がぁぁぁぁぁあああ!」


 カドルが(ついば)んでくる。それを鷹穿(たかうが)ちで強制的に閉じさせて吹き飛ばす。


「私の! 何が間違ってるって言うの!」


「ご主人は間違っている! そして、それをご主人は認識している!」


 落下体勢を取って降下速度を稼ぎ、そのまま翼を広げて滑空する。カドルは私の周囲を旋回しながら隙を(うかが)っている。


「だーかーらー! それが何かって聞いてるのー! むぅー!」


「人の物を壊したり奪ったりするのは悪いこと! 皆がきちんと話し合って協力すれば、皆が幸せになれる! そしてご主人はそれを理解している! だってその方が合理的だから!」


「アニーちゃん!」


 滑空を続ける私をシマーズさんがキャッチする。私を乗せた白いドラゴンがグングンと高度を上げていく。


「これ以上の高度は無理だぞ!」


 私とシマーズさんを乗せる白いドラゴンがゼェゼェと息をしている。人間を2人も乗せているんだ、よく頑張ってくれている。


「トンズラ!」


 "トンズラ"のスキルで再びカドルの付近まで移動する。だけど、カドルもそれを見越していたのか既に上昇気流を捉えて更に高度を上げていた。


「キャノン流忍術そのいち! 二段ジャンプ(空中トンズラ空蝉返し)!」


 咄嗟(とっさ)に空中で空蝉返しを決めてカドルの足に取り付く。そのまま暴れる彼になんとかしがみ付き背中付近まで登る。

 本来、航空力学的にカドルがこんなに自由自在に飛べるのかって言われれば多分それは否だ。

 あくまでゲームとして飛べる設定だから飛べている、同じ理屈で、ゲームの設定として、飛行能力は翼に依存しているはず。


「落ちろぉぉぉお!!」


 ガントレットの爪でカドルの皮膜を大きく切り裂く!


「ギュア!」


 カドルが小さな叫び声を上げた。同時に錐揉(きりも)み回転をしながら急速に高度を失っていく。


「降りろ!」


 カドルと一緒に視点がグリングリンと動いて状況が掴めない中、シマーズさんの声を頼りに両手を離す。

 パッと視界が開けると再び空へ投げ出された。全身と翼を大きく広げると一気に降下速度が落ちる。

 まあギリギリ、好意的に解釈すれば滑空と言っても良いか。より適切な表現としては普通より多少、ゆっくり落下していると言った方が実情に即している気もするけれど。

 落下速度が安定したタイミングでシマーズさんのドラゴンが私を横からキャッチして飛び去っていく。


「カドルは?」


「あっちだ!」


 シマーズさんが指差した方をみると、必死にバランスを取ろうと(もが)きながら落下していくカドルの様子が見えた。


「追っかけて!」


「はいよ!」


 数分後、着陸と墜落の中間ぐらい様子でカドルが草原の小さな丘に辿り着く。シマーズさんのドラゴンが着陸体制に入ったタイミングで、ひと足先にドラゴンから飛び降り、カドルの元へ急ぐ。

 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 仮初めなれど、その世界は確かなる現実 だからーーーそんなご主人様、修正してやる!的な事も起きる
[一言] プレイヤーがほとんど行動にあらわしていなかった性格まで読み取って反映するとは、このゲーム、ないしこの世界の技術は凄いですね。脳波だか信号だかを解析しているのか、それとも膨大な行動パターンから…
[良い点]  キツい対決の回ですね…。  平等と公平は違う、ってのは深い。才能実力を問わないのは平等かもしれないが、それは不公平だろうというのがいま世界を分断しているので。あえて深くは踏み込みませんが…
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