ディザスター・カドル
翌朝、眠い目を擦りながら寝室から出る。
「アニーさん、おはようございます」
丁度、入れ違いになる様にシュクレちゃんとすれ違った。
「おお、シュクレちゃん早いね!」
「いえ、私はこれから寝ます」
よく見るとシュクレちゃん、目が据わっている。
「へ?」
「アニーさんが寝た後、他の方と詠唱に関する談義が白熱しちゃって……」
おぉ……。
普段のフワフワした雰囲気でついつい忘れちゃうけど、シュクレちゃんって結構ギークな子だよね。
生活リズムに注意した方が良いのかな? でも彼女が好きでやっているなら止める理由も無いか。
「じゃ、おやすみー」
寝室へ入っていくシュクレを見送り、クランチャットを起動する。ざっとログを漁って理解するのを諦めた。
「だれかー私が寝ている間にあったことを簡潔に教えてー!」
クランチャットからバラバラと返信が返ってくる。皆が楽しいのは良いけど、簡潔という言葉の意味は理解してほしい。
「だーいたいわかった! ありがとうー」
皆の話を要約すると、近辺のリスポーン地点は無秩序に狩ってたらそのうち最適化されて24時間体制でポイントを稼いでいるらしい。
トヨキンTVとの境界線は攻防を続けている。PK反対連合とは現状維持、まぁちょっと目障りではあるけど二正面戦闘になるよりは良い。
うーん、もうちょっと温存しておきたかった気もするけどそろそろ盤面を動かそうかな。
「これから遊べる範囲攻撃が大好きな魔法職の人々ー!」
「「はーい!」」
「爆撃機になってー」
「「は??」」
「カドルー」
アイテムボックスからドラゴンの石像を取り出して名前を呼ぶ。石造は一気に巨大化し、本来の姿を取り戻した。
「キュー! ご主人、呼んだ?」
カドルが長い首を折り曲げて私に視線を合わせて聞いてくる。前回のイベントでゲットし、喫茶店dreamerで孵化したドラゴンのカドルは今や、翼を広げれば12メートルを超える立派な成体になっていた。
全身は空色の鱗に覆われ、それぞれが緻密に重なり合って光を受けて輝きを放っている。
頭部は重厚な角に守られ、緑色の瞳は知性と好奇心を湛えている。規模感を他の言葉で表現するなら、空飛ぶキリン。
「10人ぐらい乗せて飛んでー」
「キュー! わかった! 何しにいくの?」
カドルが純真な目で私を見つめてくる。
可愛い。
「遊びにいくんだよー」
「キュー! やったー!」
カドルが翼をバタバタとさせて喜んでいる。
やはり可愛い。
クランチャットへ再び呼びかける。
「魔法使いの人は拠点前に集合ー! 一方的に相手を惨殺したい人はトヨキンTV山の近くに集結しておいてー」
「キュー!」
カドルがご機嫌に鳴き声を上げる。カドルに乗って件のリスポーン地点へ魔法使いと一緒に移動する。
彼らの内、1人が話しかけてきた。
「アニーさん、最初からこの手段を使っていればMAP埋めとかもっと効率的にできたんじゃ無いですか?」
「これじゃモンスターのリスポーン地点がわからないじゃん? 地形だけ分かってもあんまり意味無いじゃん?」
お、そろそろ目的地点が見えてきたね。
「カドル、もうちょっと高度下げて」
「キュー! ご主人、わかった!」
眼下にはトヨキンTVのクランメンバーとメメントモリのメンバーがお互いに牽制しながら睨み合いをしている。
まあ、長距離攻撃があって特定の地点を奪い合うなら必然的にそういう戦局になるよね。これはもう歴史が証明していた。それなら私がやる事の効果だってもう証明されている。
「魔法使い隊の皆、ここから相手クランのメンバーをバリバリ攻撃しちゃって」
「アニーさんよくこんなエグいアイディア思いつきますね」
「私が考えた案じゃ無いよ」
最初にこれを思いついたのが誰かは知らないけど、きっと悪魔に魂を売っていたんだろうね。
「キュ? ご主人、何するの?」
「カドルはそのままこの地点を旋回していてねー」
魔法職の人たちが躊躇いがちに魔法を放ち始める。
わぁ、人がゴミの様だ!
「ご主人! 下の人、痛そうだよ?」
「わー、カドルは目が良いんだねー」
高度を下げてはいるけど、この位置からだと人の姿は豆粒も同然だ。最初は遠慮していた魔法使いの人たちも、今はノリノリ魔法をぶっ放している。まあ現実世界でも人間はそうなるんだから、ゲームの世界なら尚更だよね。PKは経験値の入りも美味しいし、一方的に攻撃できるのは実に効率的だ。
「キュー! ご主人! ご主人! どうして?」
「領地を狙って戦争するより、人を標的にして戦争をする方が効率的なんだよ」
結局、人がいなくなったら領地を守りようがなくなるからね。頭と力とリソースを使って陣取り合戦をするのは面倒臭い。
「キュー……」
カドル、可愛い。ナデナデ。上空からの範囲攻撃でトヨキンTV側の陣形がグダグダになってる。
クランチャットで皆へ語りかける。
「トヨキンTV山にいるメメントモリのメンバーへー、今だぞー! このまま本陣までいくぞー!」
「うぉー!」
「やってやらぁああ!!」
私の号令で状況を理解したメンバー達が続々と山を登っていく。道中にいるトヨキンTVの残党は蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑う。
「カドル、もっと高度下げて山頂の方に移動してー」
「キュー……」
カドルは一声鳴くと私の指示に従って移動を開始した。やっぱり空を自由に飛べるって偉大だよね。
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