最初の街に降り立つタイプのJK
ようやく、長い道のりを経てキャラクターメイキングが終わり、心躍る冒険の始まろうとしている。
「おぉ……」
思わず、簡単の声を漏らす。
フォートシュロフは、古代ヨーロッパの城砦都市を思わせる風情が漂よっていた。巨大な石壁が全体を囲み、その壁の内側に様々な建物が建ち並んでいる。
高い塔や巨大な大聖堂、広大な広場、そして石畳の道が錯綜していて、その全てが絶妙に配置されていた。
街の中心には、高い塔がそびえ立ち、その周囲には数々の商店や宿屋、酒場が並んでいた。それぞれの建物は精巧に掘り込まれた装飾が施され、中世の貴族の邸宅を彷彿とさせる雰囲気を醸し出していた。
「(さて、私の感じは……)」
キャラクターメイキングと実際のプレイでキャラクターの印象が変わることは良くある。祈る様な気持ちで、広場の中央に設置された噴水の鏡面の様な水面に体を映す。
「うん、いい感じ!」
120cmの小柄な体型に、全身を覆うダークブラウンの外套から太くて大きい尻尾がちょこんとはみ出していた。
顔は私の顔をベースに、身長に合わせて幼くしている。瞳は赤い蛇目、額の片側には捻れた小さな角が生えている。髪はダークブラウンの色調で、そこに赤のメッシュを施した。
人々の波は絶えず、休日昼頃の渋谷ハチ公前みたいだ。彼らの服装は中世ヨーロッパ風の物に統一されているけれど、耳や尻尾が生えている者や、人間とは異なる形状の人もいてまるでアニメキャラクターのコスプレ会場のよう。
「……」
ふと気がついて、水面に指先を入れてみる。まだ私が与一君と一緒にゲームをしていた頃は、水の表現はどうも難しいみたいで流動性の高いゼリーみたいな表現が限界だった。
だけど今目の前にある噴水は現実と遜色ない。この数年で、ゲームもすごく進化したんだね。
「えーっと、金髪大柄で盾を上に掲げているのは……」
|IAF《Inequality&Fair》にはプレイヤーの名前を表示する機能は無い。だからフレンド登録をするまでは、お互いにキャラクターメイクが終わった段階でプレイヤーIDを外部的な手段で交換するか、外見の特徴と目立つポーズとかでお互いを探す必要があった。
「ごめん、待った?」
「いいや、俺もキャラメイクに時間かかったからそんなに待ってないよ。連絡くれてたし、先にちょっと探索してた」
そう、いくら私でもこんな素晴らしいゲームに誘ってくれた友達を連絡無しで2時間も待たせたりはしない。ちゃんと時間がかかる旨を連絡しておいたのだ。えっへん。
「えっと、フレンド登録しても良い?」
「もちろん」
ゲーム内で相手の本名を呼ぶことは今時のどんなオンラインゲームでもマナー違反と言うか、もうほぼ禁忌だ。
視界の端で半透明に表示されているメニューから、与一君のキャラクターを視線選択UIでフレンド登録する。フレンド情報から与一君のキャラクター名を確認する。彼のキャラクター名は……ヨイニ。
「一個増えたの?」
「そっちも"n"が一個増えて物騒になったな」
二人で顔を見合わせてちょっと笑う。フレンド情報からお互いのステータスを確認する。
名前:アニー・キャノン
種族:カオスルーラーLv1
Lv:1
HP:55/55
MP:30/30
【STR:10】
【VIT:8】
【DEX:10】
【AGI:40】
【INT:30】
装備
頭【】
肩【初心者の外套】(防御力+10)
体【】
右手【初心者のナックル】(近接攻撃力+5)
左手【】
腰【】
脚【】
靴【】
ファーストジョブ:アウトローLv1
セカンドジョブ:マジックユーザーLv1
スキル
【鼓舞】
【パイルバンカー】(ベース:ロックショット)
「どうしたの?」
ヨイニが私のステータスを見て絶望した様に天を仰ぐ。すぐに気を取り直して、私の方を向いて口を開いた。
「アニー、カオスルーラーがどう言う種族か知ってる?」
「選択できる種族の中で一番、自由度の高い種族!」
ヨイニの疑問に私の認識を説明すると、彼は大きなため息をつくと残念な子を見る様な視線を向けてくる。
「確かに、見た目は他の種族に比べて大幅に変更できるけど……その代わり他の種族に比べて種族別の恩恵が受けられないし、NPCからはすごく嫌われていて、SNSでもネタ枠扱いになってるぞ」
「えー、良いと思ったんだけどなー」
「ちなみに……ジョブのアウトローも人気ない、すごく」
ヨイニが倒置法を使って否定してくる。
「なにゆえ?」
「……ジョブの説明読んだ?」
「熟読した」
私の回答にヨイニは腕を組んで僅かに考える仕草を撮った。
「これはいつものポンなのか、それとも奇跡パターンなのか……」
「さてはヨイニ、このゲームの秘密に気がついて無いね」
言うべきか悩んでいるヨイニへ対して、私は自慢げにニヤリと笑って彼の方を指差した。
「……そう言えば小学生の頃もアニーはこの手のゲームやるとバランスブレイカーだったな」
「そうだっけ?」
「運営がゲームバランス確認装置として監視するレベルだったぞ」
「あんまり覚えてないなー。私は純粋にゲームを楽しんでただけだったから」
「あはは、アニーは昔からそうだもんね。とりあえず、あまり時間もないし狩に行かないか?」
「うん! 連れてって!」