闘技場のチャンピオンになるタイプのJK
闘技場でスキンヘッド筋肉ダルマのゴングマンと対峙する。試合とは全く関係ない緊張感で背筋にヒヤリとした汗を感じた。
「風間流? 何のことかなー? 私、分からないなー」
「はは、ゲームでの事を現実まで持ち込む気は無いさ。お互いに、不要な事へは不干渉で行こうじゃないか」
最後の希望を託して惚けてみたけど、やっぱり無理そう。そりゃそうだよね、ゴングマンのカウンター攻撃を、私は最初から知っているみたいに防いでしまった。別に流派専用の防御ってわけじゃ無いけど、攻撃を防がれた際に風間流的に一番カウンターをしやすい位置に習慣的に防御を置いちゃった。テンプレ行動によって流派バレである。
「絶対?」
「おう! 男に二言はないぜ!」
「ぜーったいの絶対?」
「くどいな! 分家間の上下関係を気にするのは分かるが、ここでは気にしなくて良い!」
「キッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
バンッ。
駆け出す為に蹴られた床が爆発する。
「はやっ」
ゴングマンは強いし、上手だ。だけど装備や各種称号によって高められた私のAGIとそれに伴う思考加速は今やそんな物、関係ない。
「ウオリャァアア!!」
技もへったくれもない。最高速ダッシュからのドロップキーック! 同流派同士の面倒臭い読み合いとかやってられるか!
読み合いなんて結局は運が絡んでくる。読まないで勝てるならその方が良いに決まってるじゃないか!
「ウグッ」
遅れ気味で反応したゴングマンが両腕を交差してガードする。両足のスパイクが彼のガンドレッドを穿つ。
「影踏みッ」
影踏みは上位クラスローグのスキルだ。効果としてはトンズラに近くて、有効範囲内の影を標的に瞬間移動できる。
トンズラはどの方向にも移動できるのに対して、影踏みは自分以外の影へ移動できる。これだとただのトンズラの下位互換なんだけど、影踏みは移動している間の障害物を通過できるし、影を指定する特性上、移動距離が固定のトンズラより融通が利いて便利だ。
というか、普通に方向指定するより影指定した方が使い勝手良いって言うのも有るけどね。
「どこにっ」
スキルの効果でゴングマンの真後ろに瞬間移動する。
「セット、リボルビングパイル」
登録した発声によって、新たに作ったスキルが発動する。私の右腕にトリガーのついたトンファーの様な構造をしたパイルバンカーが生成された。回転弾倉には6発の魔力で作られた釘が装填されている。
今まで使っていた単発のパイルバンカーも悪いスキルじゃないんだけど、連射できなかったし、いくら攻撃力を最大にしているとは言っても初期スキルだった事もあって瞬間火力が物足りなくなっている。
レベルアップによってMPに余裕が出てきたので高威力、連射版のパイルバンカースキルを作ってみた。
「フル・バースト!」
「あがっ」
リボルバー式パイルバンカーが私の発声で変形する。後方に設置された回転弾倉が素早く持ち上がり先端へスライドする。
トリガーを引くとゴングマンの脇腹に六本のパイルが同時に打ち込まれた。だけど、このスキルはここでは終わらない。
「アババババババババッ」
パイルを通してゴングマンの体内へ直接、高圧電流が流される。ちなこれ、スキル発動側もダメージを受けるらしい。私の場合は種族の特性として雷耐性とドレインタッチを取ってるから、実質ノーダメージだけどね。
発動の瞬間だけピロっとHPゲージが減る。
「グフッ……」
全身からダメージエフェクトを迸らせて、黒焦げになったゴングマンが大の字で倒れる。
「なんで……」
「え? だって別にあんな古臭い格闘術、使う意味なくない? 現実世界じゃないんだし」
そもそも、風間流で無双できると思ってるならこんな人外ビルドしてないんだよね。現実世界で私より強い人なんて掃いて捨てる程いる。
だからそう言う技術的な差をゴリ押しでブチ破れる構成を選んでいる訳で、態々……格闘で対決をする意味が分からない。
勝てば良いんだよ勝てば!
「マジか……」
ゴングマンがダメージエフェクトを迸らせながら消滅した。
「しょ、勝者、アニィィィイイイキャノォォォォオオオン!!! 実況を挟む余地の無い、高速戦闘! 一瞬の内にチャンピオンを下しました!! 正に傍若無人、無人の野を歩むが如く!!! ”暴君”アニー・キャノン! 今、闘技場最強の王座へ!!!」
「うおー!」
「装備返せごらぁぁああ!!」
「暴君ー!」
「アニーちゃーん!!」
あちこちから歓声が飛んでくる。
うんうん、良きかな。
例によってまた表彰台に案内された。
まあ、これが目的だったから良いんだけどね。
「チャンピオン、素晴らしい試合でした! 一言お願いできますか?」
「クランの宣伝とかしても良いんだよね?」
「え? はぁ、問題無いですよ?」
マイク? 的な何かをもらう。
一度、深く深呼吸をする。
「私は、この世界が大好き。現実ではできない様な事が沢山できるから」
私が落ち着いた口調で喋り出すと、観衆の声が徐々に小さくなってやがて会場の全員が私の言葉を待っていた。
「私は戦闘が大好きだ! 殺戮が好きだ! 虐殺が好きだ! エネミーの頭をパイルでかち割るのは胸がスッとするし、ダンジョン帰りでレアドロップを抱えたプレイヤーを鏖殺にするのは嬉しさで気が狂いそうになる。賞金目当てで私を狙ってきたPKK集団を返り討ちにした時なんて快感でどうにかなってしまいそうになる」
会場が徐々に熱気を帯びていく。
「でも、この世界は私だけの物じゃ無いよね。戦闘をしたく無いとか、ダンジョン攻略だけしたい人もいる。このゲームにルールなんて無いから、皆が、皆のやりたい事を力で押し付けあって良い世界だ」
観衆が私の声に耳を傾けてくれている。
「この世界は自由だ! 何をやっても良いし、何をやらなくても良い! クラン"メメント・モリ"は何をやっても良い、何もやらなくても良い、各々が自由を謳歌するクラン。皆……好きにやろう!!」
「うおー! 暴君ー!」
「メメントモリー!!」
「俺も入れてくれー!」
ちょっと恥ずかしかったけど、私の思いを素直にぶちまけてやった。沢山の歓声と怒号が帰ってくる。
でも、嘘を言ってメンバーを集めてもしょうがないし。これで集まらないならもう大規模の勧誘は諦めよう。
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