ドラゴンの卵が孵化するタイプのJK、それ以外は何も無かった、いいね?
翌日、喫茶dreamerで次はどうしようかなーって思っているとシステムアナウンスが表示された。
「ドラゴンの卵の孵化が始まります」
「ほえ?」
あっそう言えばアイテムボックスにぶち込んでそのままだったね。
取り出してテーブルの上に置いてみる。
「おぉー」
テーブルに置いた卵は先端がひび割れて、左右に揺れ動いている。
今にも産まれそうだ。
「きゅい?」
卵の殻を突き破って、小さな角が現れる。
続いて、トカゲの様な顔が現れた。
「かっ可愛い!!!」
見た目はまるでケツァルコアトルスの様な、優雅で力強い大翼が体の後部についている。それらの翼は細かく鱗に覆われ、静かに空気をかき分ける様子が目に浮かんでくる。
体は青く透き通っていて、まるで空を写しているかのよう。シャンデリアの光を受けてキラキラと輝いていた。
目は大きく光に満ちて無邪気で純真な光を放っている。
「きゅー!」
「きゃー!」
赤ちゃんドラゴンの動きはまだぎこちない。体のバランスを取るのに苦労して、小さな前足でしっかりと地面を踏んでいる。その子は私の方へ向かって、よちよちと歩いてきた。
私は彼を抱き上げ、その小さな体をその小さな体を撫でる。滑らかな鱗の感触は想像よりも冷たくて心地良い。
「かーわーいーいー!」
「きゅぁあ!」
「あーどーちまちたー? かあいですねー? お名前どうしますー?」
「きゅあかぁ!」
「うんーそっかーじゃあ、カドル、カドルちゃんにしまちょーねー!」
「あっあの……」
……うん?
なんだか聞き覚えのする声がするぞ?
「…………っえ?」
金髪に幼い顔立ち、エルフ特有の横に長い耳。
体に見合わない大きな杖。
シュクレちゃんだ。
「あっあの、私……ヨイニさんから、アニーさんがクランを作るメンバーを探してるって聞いて、その……」
「……」
え、嘘? 見られた?
私がペット相手に赤ちゃんボイスで語りかけながら頬擦りしてたの、見られちゃったの?
「シュクレちゃん」
「はっはひ!」
「……見た?」
「何も見てません!」
そっか、見てないのか。
見てないなら良いや。
良いって事にしておこう。
「……」
「……」
2人の間でなんとも言えない無言の時間が流れていく。よ、よし、忘れよう!
「えっと、なんだっけ?」
「よかったら、私をアニーさんのクランに入れてください!」
「全然良いよ! でも何で?」
「昨日作ってくれたお料理、とっても美味しかったです。だから、何かお手伝いできないかなって思って……」
「今のクランは良いの?」
私の記憶が正しければ、シュクレちゃんは既に初心者歓迎のそこそこ大きなクランに所属していた筈だ。
彼女の存在が世間へ知られる様になって更に規模とプレイヤーの質が高まったと聞いていたけど、辞めてしまって大丈夫なのかな?
「あっはい。そっちは、なんて言うか……私がいるとクランマスターの人が色々とやりにくそうだったので」
「あーそのパターンね……」
初心者クランを作るのは大体中堅かちょっと上ぐらいのプレイヤーだ。
そこに突然、トッププレイヤーが誕生しちゃう。シュクレに悪気はなくてもクラン内での発言権が必然的に彼女へ傾く訳だし、彼女目当てでクランマスターよりずっと上位のプレイヤーもこぞってクランに入ってくる。
初心者用クランでこんな事やられたら崩壊待ったなしだ。
「じゃ、シュクレちゃんよろしく!!」
「はいっお願いします! クラン名ってもう決まっているんですか?」
「まだだよ」
「クラン方針は?」
「それもまだ」
「他のメンバーはどうやって集める予定ですか?」
「分かんない!」
「そ、そうですか……」
「シュクレちゃんはどうしたら良いと思う?」
「前のクランマスターは広場で声をかけたり、全体チャットで募集したりしてました。でも、クラン名や方向性が決まってないと、それも難しいですよね……」
「そーだねー」
2人で頭を捻って考える。
「そうだ! 闘技場で募集してみるのはどうですか?」
「闘技場? そんなのあるの?」
「はいっ、幻夢境街の遊興施設の1つです。クランの方針は決まって無くても、アニーさんは今後もPKは続けるつもりですよね?」
「もちろんだよ」
「それなら闘技場で、対人戦が好きな人を勧誘してみるのは良いと思います!」
「おーそうだね、行ってみようかな! シュクレはどうする?」
「いえ、私は対人戦とかは……」
「あー、そうだよね」
シュクレちゃんのビルドは絶大な範囲攻撃力を得られる反面、対人戦にはまるで向かない。なんなら普通にパーティープレイをしたとしても使いにくいだろう。彼女をクランぐるみで育成する必要はありそう。
「おーここがー」
幻夢境街の端まで進むと、鮮やかな光を放つドーム状の巨大な建物が見えてきた。
一見すると半透明のガラスでできてる様に見えるけど、よく見ると細かい魔法陣の様な物が刻まれている。それらが幾何学模様を描いていて、一見するととても綺麗だ。多分、これらが戦闘の繰り広げられるコロシアムを外部から守ったり、内部の空間を制御する為の魔法なんだろう。
「じゃ、とりあえずエントリーしてみようかな?」
カウンターの前まで移動してぴょんぴょんしながら手を振る。何でこの世界のカウンターはこうも高い位置なんだろう。あっ私の身長が低いのか。
「すみませーん、エントリーさせてくださーい!」
カウンターの上から見下ろす様にぬっと顔が現れる。顔に大きな古傷のあるスキンヘッドのおじさんだ。
「ば、化け物か……」
私をみた途端、なぜか声を震わせて身を大きく引く。なにゆえ?
「ね、エントリーできるの? できないの?」
また英雄の証が必要なのかな?
「で、できる。規則で最初はEランクからだが……良いか?」
「うん、いーよ」
「じゃ、左の入口から入って待っていてくれ」
「はーい」
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