喫茶dreamer
拠点の改装工事とか色々が終わった翌日、登校中に与一君の大きな背中を見つけた。背は高いけど、そこまでがっしりはしていないのが彼の特徴だ。
「与一君、おはー」
「おう、おはよう」
与一君は振り向いて笑顔を返してくれた。キラーン! と言う効果音が聞こえてきそうな爽やかイケメンだ。
「よく登校で一緒になるよね?」
「まぁ……方向は一緒だしな。ていうか学校の中じゃ全然合わないよな。下校は奏音が早過ぎて視界にすら映らないだろ?」
そう言って与一君が苦笑いした。
それを見て私は特げにニヤリと笑う。
「ふっふっふ……最近、視覚には映っていても存在を認識され辛い方法を習得してね」
「えっ何、忍術? 忍者なの?」
「いやいや、半分ぐらい冗談だよ。今時、忍術なんてある訳ないじゃん」
「冗談じゃ無いもう半分が気になるんだが……それはさておき、次のイベントの告知は見た?」
「1週間後だっけ? 昨日はゲーム終わって速攻で寝ちゃったからまだ見てないんだよね。どんな感じなの?」
サービス開始直後のイベントを除けば、概ね大きなイベントは一ヶ月に一度のペースで実施されるらしい。
私の回答に与一君は口を開いた。
「次はクラン対抗イベントだよ。なんでも、バトルロワイヤル形式で陣取り合戦をするらしいけど……」
与一君はそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。その意図を察して私は首を左右に振った。
「うん、私はフォートシュロフ神聖騎士団には入れないからね……別で頑張るよ」
与一君のキャラクター、ヨイニがクランマスターを務めるクランはPVEを重視したダンジョン攻略クランだ。
それに対して、PKプレイヤーの標的の1つはこう言ったダンジョン攻略でアイテムを使い尽くし、レアドロップを抱えたプレイヤーだったりする。巷でPKの権化とか言われている私が彼のクランに入るのは難しい。
「目処は立っているのか?」
「とりあえず、喫茶店の上をクランハウスにしようかな?」
「おっ。ついに喫茶店オープンか! 遊びに行って良い?」
「全然良いよ! じゃあ今日、お店で待ってるよ。"喫茶dreamer"でマップ検索すれば出てくるから!」
「了解! シマーズさんとか呼んでも良い?」
「もちろん!」
学校が終わってIAFにログインする。
シマーズさんからメッセージが来ていた。
「お店の内容、配信して良い?」
「宣伝になるし、良いですよー! どれぐらいで到着しますか?」
「ありがとう! ヨイニ達と一緒に、あと数分で着くよ!」
「はぁい!」
軽く準備なんかしながら待っていると、本当にすぐ扉が開いた。
「らっしゃっせー」
「お邪魔します」
メンバーは3人、ヨイニとシマーズさん、そしてシュクレだ。
「イベントの突撃メンバーじゃん」
私のツッコミにシマーズさんが答える。
「巷ではフォートシュロフ13騎士とか呼ばれてるらしいぞ?」
「そ、それはちょっと恥ずかしいかな……」
「あっあの! お邪魔します!」
「うん、シュクレもいらっしゃい」
シュクレは相変わらずの涙目だ。
だけど、いつもよりちょっと顔色が暗い気もする。具体的には口角がいつもより数ミリぐらい低いし、眉は5ミリも下がっていた。
「シックな雰囲気で、良い店だな」
「へへーん、昔の、純喫茶っていうのかな? そういうのを参考にしてみたんだ。案外、外の外観ともギャップがなかったし」
胸を逸らして鼻高々に内装を自慢しつつ、3人を席へ案内する。
昔ながらの喫茶店の内装を彷彿とさせる木目調の調度品で統一して、ちょっと高めに配置した小窓、クラシックな音楽。
天井には、昔のエレガンスを思わせるシャンデリアが下がっていて、その軽やかな灯りが店内を暖かく照らしていた。
「こちら、メニューになっております」
4人を深い赤色に染めたソファへ案内すると、カオスルーラーの少女がメニューとお水を持って席へやってきた。
フォートシュロフでゲットした子達の大半はこっちに移動している。私も改めてメニューへ目を通した。
■灼熱フランクフルト
SP回復:500/s
継続時間:3s
3種の辛味をブレンドした棒状のフランクフルト。
戦闘時でもすぐに食べられる。
■激甘ラッシージュース
HP回復:100/s
継続時間:3s
HP回復効果を高め続けた結果、最終的に出てきた味を現実の食べ物に例えるとラッシーが一番近かった。
■ストレングハンバーグ
STR強化:50
継続時間:2h
STRの強化と食べやすさ、効果時間の費用対効果が最も高くなる配合を研究した結果、たどり着いた最適解。
■爆速ムニエル
AGI強化:50
継続時間:2h
ハンバーグのAGI版。
などなど。メニューへ一通り目を通し終えたシマーズさんが思慮深く顔を上げて感想を述べた。
「おお、なんていうか……アニーちゃんらしいラインナップだな」
「それほどでも?」
「冒険以外の時間は、はここで料理を提供するのか?」
ヨイニの質問に対し、私は首を横に振った。
「んーん、レシピ登録したから、基本的にはカオスルーラーの子達が料理を作るようになってるよ」
このゲームにはレシピ登録機能というのが存在する。一度レシピを登録すれば、あとは素材さえ集めれば瞬時に料理が完成する機能だ。これがあれば私じゃなくても私の料理が作れる。
「でもこれ、テイクアウト前提だよな? 喫茶店にする必要はあったのか?」
「実は今、即座には食べられないけど効果と効果持続時間が無い料理を研究中なんだよね。定食とかコース料理とか、組み合わせで効果が変わるっぽくて」
「あー、それで……」
「あっあの!」
突然、シュクレちゃんが涙ぐんだ瞳で私を見上げてきた。どうしたんだろう? ああ、そっか!
「あー、ごめんね? 確かにこの辛さだと物足りないよね。もっと辛いのを今、研究中だからもうちょっと待ってね!」
「ううっ……わっ私……辛く無いのが食べたいです!」
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