鉱山を登るタイプのJK
ニーズズさんのお店を後にしてすぐにヨイニへ話しかける。
「ヨイニはこの後どうするの?」
「え、邪魔じゃなければ一緒にダンジョン行くつもりだったけど?」
私の質問にヨイニは意外そうな表情を浮かべて答えた。
「え、良いの? ヨイニにとってあんまり利点が無いと思うんだけど……」
「アニーと一緒に遊ぶなら別に利点とかそんなに必要ないんだけど?」
「ちょっ……」
すごいストレートに好意を示されて一瞬顔が赤くなる。
いや、油断しちゃいけない、ヨイニのこれは友情的なサムシングだ。
「うん? どうしたの?」
「なんでもないっ!」
なんでも無い風に私の顔を覗き込もうとするヨイニとは逆の方向に顔を向ける。
「もし理点が無いといけないなら……普通にまだ誰も到達していない領域のアイテムとかボスのドロップとかで恩恵ありそうだし。ダンジョン攻略とは別だからクランメンバーを頼るのも憚られるからフォートシュロフ最強のプレイヤーと一緒に攻略できるのはありがたいよ」
「……正直、一緒に来てくれるのは嬉しい」
「じゃ、今日はよろしく!」
ヨイニと並んで歩き慣れたゴブリン坑道への道を進み、初めてのゴブリン坑道ダンジョンを攻略する。
謎の機械を操るボスゴブリンを倒すと入り口へのショートカットが解放された。
「あれ、これ入っちゃったら入り口に戻っちゃうよね?」
入り口へ戻るショートカットの魔法陣を前にして首を傾げると、ヨイニが元々来た方の道を指差す。
「ボスを倒した後にこのショートカットを使わないで逆走すると、元々は封鎖されて入れなかった道が解放されているんだ」
「おー、なるほどー」
モンスターが復活しているということもなく、探索しやすくなったダンジョンを逆走していく。
しばらくすると、ダンジョンの中腹あたりで行きでは気にも止めなかった横道を発見した。
「全然気が付かなかった……戦闘しながらの探索って案外、取りこぼしがあるんだね」
「ボスを倒した後に引き返すって発想はなかなかでてこないよな」
横道に入るとすぐ行き止まりへ辿り着いて、そこには古臭い梯子が伸びていた。
梯子の先を眺めながらヨイニが冗談めかした様子で口を開く。
「アニーなら梯子なしでも飛んでいけるんじゃ無い?」
「だから飛べないんだって」
腰の翼でヨイニを軽く叩く。
何度も言うけどこれは空気抵抗を調整して姿勢を制御したり急停止をする為に生えている訳で、飛べない。
しょうもない会話をしながら2人で梯子を梯子を登り切ると、そこはもうダンジョンの外だった。
「おぉー!」
壁ばかりだった坑道とは一変、一気に視界が広がる。
山の壁面に巻き付く様に作られた断崖絶壁の山道だ。
「落ちたらアニー以外のプレイヤーはひとたまりもないだろうね」
ヨイニが道の下を覗き込む。
ビュウビュウと吹き荒れる風が頬を打つ。
「私の"トンズラ"は移動距離を調整できないから、この距離だとちょっと自信ないなー」
トンズラは指定した方向へ瞬時に移動するスキルで、移動距離は使用者のAGIに依存する。単純に見ればその名の通り逃走用のスキルだけど、移動後のキャラクターは運動エネルギーが0になる仕様だ。
私はこの仕様を利用して落下ダメージを消すのに使ったりするんだけど、このスキルには"短く飛ぶ"という事ができない。私のAGIの高さも災いして、この高度から落下したらちゃんと着地を決めるのは難しい。
「ぎぃぎあ!」
聞き慣れた鳴き声と共にゴブリンが空から降ってくる。
山道はウネウネと葛折になっているから多分上の道から飛び降りてきたんだ。
「ナイトチャージ!」
ヨイニが盾と槍を構え、山道を直進する。
道を塞ごうとしたゴブリン達はやりで貫かれ、盾に弾かれ、バラバラと奈落へと落ちていった。
「アトラクト・ボール!」
山道とは独立した位置に作られた足場から火炎瓶を投げつけてくる性悪なゴブリンにダメージが0の代わりに引き寄せ効果のあるスキル放つ。
磁力を帯びた様なエフェクトを纏った光の玉がゴブリンに命中して私の方へ引き寄せられる様にふっ飛んでくる。
「キヒッ、パイルバンカー!」
飛んできたゴブリンへタイミングを合わせて魔力で作られた釘を打ち込む。相対速度が乗ったそれは的確に頭部へ対する破滅的な構造の欠損を起こし、ポキポキとカルシウムが砕け散り内容物のかき回される感覚が私の拳を伝わって心に染み渡る。
気持ちいい。
「アニー! あれ!」
突撃スキルで山道の折り返しから更に上まで駆け上がったヨイニが足を止める。
彼にとっての前方、私にとっての後方上方向を指出す。
「うっわ」
振り返って見上げるとゴブリンがそれはそれは嬉しそうな表情を浮かべて剣を巨大な鉄球を支える縄へ振り下ろす。
支えを失った鉄球が重力に従ってゴロゴロと山道を転がり落ちてきた。
「ヨイニ! こっち!」
鉄球が道中のゴブリンを弾き飛ばしながら転がり落ちてくる。
ヨイニが急いで私の方へ走り出した。
この山道はフェンスとか無いし、折り返し地点より降りられれば助かるはずだ。
「くっ!」
ヨイニが懸命に走るけど、このままでは鉄球の方が早い。
「アトラクト・ボール!」
ヨイニが鉄球に追いつかれる直前、彼へ向かって吸い寄せスキルを飛ばす。
スキルは命中して彼の体が私の方へふっ飛んでくる。
「あぁああああー!」
腰を落として踏ん張ってヨイニを受け止める。
だけど大柄で全身に金属鎧を着込んだ彼を軽装備の私が支えられるはずもなく、一緒に吹き吹き飛ばされた。
ほんの数瞬、浮遊感を味わいお尻がヒュンとなる感覚と共に視界がした方向へスクロールしていく。
「おぉぉぉちぃぃるぅぅぅううううう!!!」