美味しく朝ごはんを食べるタイプのJK
「お嬢様、お食事の準備が整いました」
部屋の扉がノックされ、外からメイドさんの声が聞こえる。
「んー!」
大きく伸びをしてベットから起き上がる。
私の部屋には窓が無いから分からないけど、時計の時間を見ればもう十分に朝と言って良い時間帯だ。
「ちょっとしたら行きまぁす」
寝ぼけ眼でメイドさんに返事をして、簡単に身だしなみを整える。扉を開けてダイニングルームへ向かう。
「いただきます」
1人で使うには広すぎるダイニングルームで簡単なご飯をモグモグ。しばらくして、お兄様が部屋に現れた。普段はもっと早く食事を済ませているみたいなのに珍しいね。
さっきまで普通に美味しかった朝ごはんが急速に段ボールみたいな味に変わった。
どう言う状況でご飯を食べるかって料理の味に与える効果すごいんだね。
「おはようございます。お兄様」
「……」
一応挨拶をしてみたけど、返事は無い。
とっとと食事を終わらせて部屋に帰ろう。
「……最近、学校から帰ったら部屋に引きこもっている様だが何をしている?」
席について食事を始める兄が話しかけてきた。
恭しく答える。
「風間家の名をこれ以上、貶めない様に勉学に励んでおります」
「それにしては通信量が多い様だが?」
は? こいつ人の部屋の通信量とか見てるの? やばく無い? 今すぐぶん殴ってやりたいけど我慢だ。
私がなんて返そうか考えていると、兄が言葉を続けた。
「遊んでいる暇があるのか?」
「ご心配いただきありがとうございます、今の所、問題ありません」
ARを起動してこの間あった中間試験のデータを転送する。全教科、満点だ。私は私の家族が望む様な人間にはなれなかった。お淑やかじゃ無いし、他人を思いやれないし、しっかりもしてない。
だけど自分のやりたい様に好き放題メチャクチャにやっている今の方が頭はクリアで、思考は理路整然としている。
「学園を退学された癖に、程度の低い民間校で成績が良いぐらいで良い気になるなよ」
「私に期待していないと言ったのはお兄様ですよ? 家の名を汚さない最低限のことさえやっていれば関係ないですよね?」
「……ッチ!」
カチン!
兄が舌打ちと共に私のテーブルの前へ食事用ナイフを投げつける。技量の伴ったそれは目標を違わずテーブルへ深々と突き刺さ……らなかった。
「――キヒヒ」
「なんっ……」
兄の投げたナイフは私が伸ばしたフォークに絡め取られていた。
「お兄様がテーブルマナーを損なうのは珍しいですね。家の名を汚さない為にも外ではお気をつけくださいませ?」
ガタン!
まだほとんど手を付けていない食事を置いて、兄が青ざめた表情で去っていった。モグモグ、ご飯美味しい。
朝ごはんを食べ終わって部屋に帰りIAFを起動する。
スッカスカのフレンド一覧からヨイニがログインしている事を確認して、チャットを送信する。
「ヨイニーおはよー」
彼からの返事はすぐに帰ってきた。
「アニーおそよー」
「前に話していた専用装備を作ってくれる職人の話、今日お願いできない?」
「あー、良いよ! 今どこにいる?」
「フォートシュロフの家にいるよ!」
「了解! 向かうわ」
ヨイニが来るのを遭っている間に、カオスルーラーの子達へ食材の調達とかアイテムの製造とかレベル上げの指示を出す。
しばらくして家のドアノッカーが鳴る。
「合言葉を言えっ」
「公園の蟻の巣に……」
「それは忘れてってば!」
冗談を言ったらヨイニが私の黒歴史を公開し始めたので慌てて扉を開ける。
扉の先には昨日ポイント交換で見覚えのある装備に身を包んだヨイニが立っていた。
ずるい。
「ちょっと部屋、豪華になった?」
「うん、なんだかうちの子が色々やってくれているみたいだよ?」
「その椅子、秘密結社のラスボスみたいだね」
「そうなんだよねー」
おそらくカオスルーラーの子達によるハンドメイドと思われる椅子の手すりを撫でる。
丁寧にヤスリがけされたツルリとした感覚を指先に感じた。
「まぁまぁ、そんな子より! オーダーメイド装備!!」
「そんなことって……」
ヨイニが憐れむ様な視線を周囲のカオスルーラーへ向ける。
はて?
「当人たちがそれで良いなら良いか……じゃあ、案内はするんだけど、交渉に俺は関われないから頑張ってな」
ヨイニが歯切れの悪い様子で言う。
私はそれに首を傾げた。
「あれ、そうなの?」
「アニーは結構PKやってるじゃん?」
「あー」
前回のイベントで"アニー=暴君"の構図が全プレイヤーに周知されてしまった。
そして暴君という名はフォートシュロフのNPC、プレイヤー間で公共の敵、パブリックエネミーと認識されている。
昨日みたいにイベントで協力しているなら別なんだろうけど、基本的には良い顔はされない。
「うーん、とりあえず会ってみないことには?」
「そうだね、それじゃあ案内するよ」
「おなしゃぁす!」
そんな訳でヨイニに案内されて表通りをテクテクと移動していると、道中で私たちをチラチラみてくる人たちがいる。
「なんだか視線を感じるね?」
「そりゃなぁ……」
目的地は噴水近くの商店らしく、すぐにたどり着いた。店内には武器や防具が広々と飾られている。プレイヤー用の物件でこんな広くて良い立地もらえるんだね。
「約束していたフォートシュロフ神聖騎士団のヨイニだ」
「お待ちしておりました。どうぞ奥へ」
カウンターで店番をしていた女性に話しかける。彼女は恭しく一礼をすると、私たちを店の奥へ案内する。
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